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第8話

「欲求不満ダゼェ……」


 アジトの片隅で、ダンディなおっさん顔をゆがませながら、焦げ茶色の馬体を震わせている奴がいる。

 ブレイクである。

 そこへ近づいていく一人の女がいた。

 白衣を着た緑髪の美女だが、度のキツイ眼鏡がそれを台無しにしている。


「おやおや、そんなあなたにはこれ、『バキバキ皇帝』。グビッと飲めばあら不思議、たちまちあんな所やこんな所が、バ・キ・バ・キ……」


 うちのマッドアルケミスト、エピスである。


「お前らアジトでナニやってんだぁ!」


 俺はエピスの手からバキバキ皇帝をひったくり、そっとふところにしまった。

 危ないからね。ボスである俺が責任を持って保管しないといけない。


「ボス、オレはもう我慢できないゼ」


「……すまん、馬の生態には詳しくないんだが、俺の知ってる娼館には馬でも相手できそうなやつはいなかったような……」

「走りたい! ぶっ飛ばしたいんダゼ!! フルスピードで走るのがオレの……」


 詳しく聞くと、どうやら先日のポーション運びで慎重に歩かされたせいでストレスがたまっているらしい。

 また暴走して街中を走りまわって器物損壊されるのは勘弁してほしい。


「わかった。ギルドへ行くぞ。ブレイクの脚が必要になりそうなクエストを探そう」


「さすがダゼ、ボスゥ!」


 俺とブレイクはスラム街を抜けて、城壁の東門近くにあるギルドへと向かうことにした。



 俺たちの住むフラウス王国には、いろいろな貴族領がある。国がかなり広いので全部の領には行ったことがないけど、どの領も比較的平和だと思う。

 そして、国の真ん中あたりには王家がおさめる王都がある。

 王都だけでもめちゃくちゃ広いので、やはり俺がまだ行ったことのない場所はたくさんある。


 王都は城壁で囲まれている。

 こんなに広い王都を丸ごと囲う壁なんて作れるわけないだろうと思うかもしれないが、本当に全部囲まれている。

 どういう技術で作ったのかはわからないが、人力だといったい何年かかるのかわからないほどの立派な壁が、とんでもない距離続いているのだ。

 おそらくスキルか何かで作ったのではないかと思うけど、詳しくは知らない。


 街の中心には王城があり、その王城を囲むようにして貴族街がある。

 平民は中々入れない領域だ。俺はわけあって何度か入ったことがあるけど、今その話はいいだろう。


 貴族街の外は平民が住んでいる。

 平民街とでも言おうか。


 そんな平民街の北東の一角にスラム街が形成されている。

 慈悲深いことに、城壁の内側だ。


 スラム街といっても、住んでいるのはただ貧乏なだけの平民がほとんどで、俺たち(ギャング)みたいな悪人は少数派だからな。

 もちろん、俺たち『神のゴミ箱』のアジトはスラム街にある。


 ブレイクの背にゆられ、街をながめながらそんなことを考えていたのだけれど、ようやくギルドに着いたようだ。


 朝の忙しい時間帯を過ぎて、だらけムードのただようギルドに入ると、職員もギルダーたちも暇そうにしていた。


 暇人たちは噂話が好きだ。

 俺たちのほうをみてなにやらヒソヒソ言ってやがる。


「見ろ、『ゴミの掃きだめ』とかいうギャングじゃないか?」


「黒タグがなんで一階にいるんだよ、はやく地下へ行けよ……」


 なにが『ゴミの掃きだめ』だよ。ただの事実じゃねぇか、ってやかましいわ。

 俺たちのチーム名は『神のゴミ箱』な?


 奴らが口に出した黒タグというのは裏ギルドのギルドタグのことだ。

 健全な表ギルドの仕事しかしないギルダーは銀色のドッグタグを首にぶらさげている。

 3回以上裏ギルドの仕事を請け負ったら、銀色のタグは没収され、黒色のタグに交換されてしまう。

 黒タグでも表の仕事を受けられるのであまり意味はない気もするけど、まさに今の状況みたいに、「あいつは黒タグを付けてるからヤバイ奴だ、近寄らんとこ」とカタギのみなさんが判断するのには役立っている。


 色が違うだけで形や機能は変わらない。

 タグには名前や等級が刻印されている。

 登録したては五級。

 初級者は四級、中堅どころはだいたい三級、一握りの才能があるやつは二級までたどり着ける。

 一級は国でも数人しかいないらしいけど、正確な数は知らない。

 銀タグでも黒タグでも、その基準は変わらない。


 もちろん『神のゴミ箱』の連中は全員黒タグだし、だいたいのメンバーが四級だ。

 俺はいろいろあって三級まで上がってしまった。


 裏の仕事を受けられる地下一階へ行きたいところだけど、今回はブレイクのストレス発散程度なので表の依頼を探せばいいだろう。


 クエストが貼り出された一階掲示板をブレイクと一緒にながめる。


 ゴブリン討伐、薬草あつめ、城壁の補修工事、定期商人の護衛……ずっと貼り出されている、誰がいつやってもいいクエストだな。

 ブレイクと俺だけでも受けることが可能だけど、今は無視だ。


『【調査依頼】トゲ山で謎の飛行生物の目撃あり』


 あの山にそんな魔物はいなかったはず。

 ドラゴンが住み着いたか? 気になるな。

 調査だけなら俺たちでもやれるが……王都からはだいぶん遠い場所だし、ブレイクのストレス発散にはなるだろうが、ついた後の調査がダルいからパス。


『【治験】テルマ婆さんの新薬試飲会【自己責任】』


 あの婆さんまたやってんのか。

 金払いはいいから、新人ギルダーがのこのこ参加するんだが、毒、麻痺、ゲロマズがデフォなので、毎回、地獄絵図になるらしい。

 死人が出たこともあるとかないとか。

 なぜかエピスのことをライバルだと思ってるらしい。


「ダメだ。この時間はまともな依頼が残ってないな。今日はあきらめて――」


「ボボボボボス、ダメだ、ダメダゼ、このままおあずけをくらっちゃぁ、オレはおかしくなっちまう」


 ブレイクが白目をむき、馬みたいに長い舌をたれながしながらブルブル震えはじめた。

 ギルド内にいる奴らも何事かとこちらをチラチラ見ている。


「わかったって! 探す! 探すから、もうちょい待ってくれ」


「オブルルル、ブルルル……」


 俺は脳と目をフル回転させて掲示板のクエストをすべて確認した。

 その間わずか1秒……!


 見つけた……これだ!


『【調査依頼】盗賊「ユニコーン爆速旅団(ばくそくりょだん)」がベルマークとうげに出没。盗賊団は全員騎乗しているため、馬の用意推奨』


 調査するだけで金がもらえる。

 討伐しなくていい。


「どうだ!?」


「イイゼェ……イクゼェ……今すぐイクゼェ……」


 よし行こう。





 王都の城壁を出た後、さらに1時間ほどブレイクの背中に揺られて、ようやくベルマーク峠にたどり着いた。


「おーい、ブレイク。もう満足したんじゃねぇか? 俺はケツと太ももが痛くて大満足だよ」


「ウォーミングアップが終わったってとこダゼ。峠道、たぎるゼ!」


「さっさとユニコーン爆速旅団とやらを見つけるか」


 明日は絶対筋肉痛だなこれ。


 人面馬という形態の都合上、ブレイクにはくらしか着けられない。

 手綱たづながないのである。


 手綱は本来、馬の口にくわえた部品に装着する。

 それをこのブレイクに着けるのであれば、おっさんがギャグボールをくわえているような絵面になってしまい、大変不快だ。


 変態親父の御主人様として名をはせる予定はないので、多少の乗りづらさは我慢している。


 ユニコーン爆速旅団は、このなだらかな峠のどこかに拠点を作っているらしい。

 この峠道は、領主によってかなり丁寧に整地されており、行き来する商人からも評判がよかった。

 それなのに、ユニコーン爆速旅団が出没し始めてからは、人足がまばらになってしまった。


 ブレイクはウォーミングアップであたたまった体を冷やさない程度の速度で、パッカラパッカラ、ゆるやかに坂を登っていく。

 基本的には木がおいしげっているものの、ところどころで木の途切れる場所もあり、そこでは遠くまで見渡すことができる。


 長閑ちょうかんな景色だ。眠くなるくらいに。


 ぶっちゃけ暇だ。

 なんかBGMとかがあればいいのだけれど、あいにくこの馬にはラジカセがついていない。


 なら、スキル『ゴミ箱』の出番だろう。

 俺は頭の中のリストから、よさげなアイテム(ゴミ)を探す。

 これなんてどうだ?


 ――――――――――――――――

 週末のラッパ


 七つのボタンがついた黄色のラッパ

 鳴らせば週末がやってくる


 あの生き物の指は七本あるのでだいじょうぶです

 しゅうまつがしゅうまつがしゅうまつが

 ――――――――――――――――


 取り出したるは黄色のラッパ。

 ボタンが7個ついている。

 金視眼きんしがんでみた結果と、この形状からして、楽器として音楽を奏でるというより、音の鳴るおもちゃだろう。


 俺はリコーダーしか吹けないからガチのラッパが出てきても困るのでよかった。

 まぁ、例によって不穏なことも書かれているが無視だ。


 ひとつめのボタンを押してみる。


『プッ』


 ごく短い音が鳴った。なんだこれ。


 ふたつめのボタンを押してみる。


『ピーッ』


 さきほどより高い音が鳴った。

 この音程……どこかで……。


「あー! そういうことね」


「ボス、人の背中で屁をこくのはやめてほしいゼ」


「こんなファンキーな屁ぇこいたことねぇよ。ちょっと楽器で遊んでるから、気にせず進んでくれ」


 ひとつひとつバラで考えるとよくわからない音だが、連続で鳴らすと聞き覚えがある音程だった。


『プッ』『プッ』『プッ』『ピーッ』


 レースのスタート音だこれ!

 謎がとけたことにスッキリして、次の3つ目のボタンを押そうとしたところ、ブレイクがブルリと体を震わせ、いきなり足をとめた。


「ボス……」


「あん? なんだ、ブレイク、まさか爆速旅団をみつけたか!? どこだ!?」


「今の……今の音、もう一度やってくれェ……」


「は?」


「フゥ……フゥ……なんだかわからないけど……うずくんダゼ、その音を聞くとよォ! ハァ……ハァ……」


「お、おぅ? おぅ……んじゃ、もう1回」


 おっさんがあえぐんじゃねぇよ、とドン引きしながらボタンをポチポチ押していく。


『プッ』『プッ』『プッ』『ピーッ』


「ヒヒーンッ!」


「うおわあぁ!」


 急発進するブレイク。

 俺は転げ落ちないように必死で鞍をつかむ。


「と、止まれ! とまって…………とま……止まれっつってんだろうが、ブレイクッ!」


 体勢を整えるのに夢中で、どこに当たったのかわからないが、またラッパから音が鳴った。


『プァーーーーッ!!』


 エアホーンきたこれ。

 DJがよく鳴らすやつね。いまいらんから。


「イイ! その音もイイ感じダゼ!」


 さらにスピードを増すクソ馬。

 おっさんの荒い息が顔にかかる。


 馬ならともかく、おっさんの息のにおいなんてかぎたくない。

 左手は鞍から離せないため、ラッパを持っている右側の腕で鼻をふさごうとしたら、またしても違うボタンを押してしまった。


『パフパフパフパフッ!』


「フォー! 世界がオレを祝福する音が聞こえるゼ!」


 加速する景色。

 強くなる風。

 顔にかかる息とよだれ。


 4DX上映かな?

 あれの水って誰が喜ぶんだ?


 腕で顔をぬぐう。

 またボタンが指に当たる。


『パラリラパラリラパラリラパラリラ』


 暴走族かよ!


「その音も! イイゼ!」


 うるせぇよ、さっさと止まれよ! と悪態をつこうとした俺だったが、その気持ちを代弁するような声が後ろから聞こえてきた。


「さっきからうるさいんだよアンタたち! ちょっと待ちな!」



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