第10話
ここで負けたらどうなる?
俺とブレイクに戦闘能力なんてない。
ボコボコにされるだけならまだしも、殺される可能性のほうが高いだろう。
俺の人生ここで終わり?
そもそも、今日はここに何をしに来たんだっけ?
ブレイクのフルスピードで走りたい欲を解消するためだ。
そんなことのために、俺、死ぬのか?
ふ、ざ、け、ん、な、よ~~~~!
「おい……ブレイク……」
「なんダゼ!」
「お前、ここが分かれ目だぞ」
「なんの分かれ目ダゼ?」
「お前がケンタウロスを超える男の中の男になるか、それとも馬刺しになるかの分かれ目さ」
「ケンタウロスを超えて男の中のおと……馬刺しィッ!? 馬刺しだけは勘弁してくれボスゥ!」
「嫌だよなぁ、馬刺し。俺だって嫌だよ、最後の晩餐が馬刺しなんてよぉ……白米、梅干し、納豆がいいよなぁ……」
この世界にはない和食を思い出して少し泣きそうになる。
「馬刺しが嫌ならさっさと走れオラァ!」
「走る! 走るゼ!」
「そうだよ、行け……命をふりしぼれブレイク! ここが男の見せ所だぞ! お前が負けたら借金してまで馬券を買ったおっさんたちの人生が終わっちまうぞ! これは俺とお前の菊花賞なんだよ!」
「バケン? キッカショー?」
「要するに、ここで一番になれなければ、お前は負け馬ってことだ。お前は全ギャンブラーの夢を背負ってるんだよ! 誰よりも速く、あの木まで駆け抜けるんだよッ!」
「誰よりも速く……そのとおりダゼェ! オレは速い! 誰よりもッ!」
よし。なんかよくわかんないけど、ブレイクに再び火が入ったようだ。
ヤバイよ。顔とか。イッちゃってるもん。白目むいてるし。舌びろんびろんだし。泡吹いてるし。
残り10メートル……ブレイクの頑張りをあざ笑うかのように、ユニコーンとの距離は縮まる。
残り5メートル……怖くてもう後ろを見られない!
残り1メートル……ユニコーンの角が俺の視界に入る……。
そして、俺は『峠を越えるナポレオン』のポーズを決めながら叫んだ。
「俺たちの!」
「勝ちダゼェー!!!!」
ほぼ同着。
だが明確に俺たちのほうが先着だったはずだ。
それを裏付けるかのように女団長は「クッソォッ!」と口にした。
ヤバかった……あと1メートル、あと一秒勝負が長引いていたら負けていた。
女団長は号泣しながらユニコーンに声をかけている。
「あんたはよくやったよ。それに角が……角が……うわーん!」
泣きながらユニコーンの立派な角をさすっている。
その動きはやめたほうがいいぜ。
俺たちから少し遅れて他の爆速旅団員たちもゴール地点にたどり着いた。
「団長が泣いてる……まさか……」
「あぁ……負けちまったよ」
「そんな、嘘っすよね!? 団長がレースで負けるなんてはじめてじゃないっすか!」
「本当さ。まさかユニコーンがただの馬に負けるとはねぇ」
ただの馬ではないだろ。
このおっさん顔を見てみろよ。
お前には何が見えてるんだ?
「馬じゃない。ケンタウロス、ダゼ」
ケンタウロスでもないだろ。
マジでお前はなんなんだろうな?
そんなことより大事な話がある。
「おい、お前ら!」
俺の声にユニコーン爆速旅団の女たちがこちらに注目した。
「俺たちが勝ったんだ……言いたいことは、わかるよな?」
「なんだい……アンタまさか、アタイらの身体をもてあそぶつもりかい!?」
「約束どおり……見逃してもらおうか!」
「かっこつけて言うセリフじゃないゼ、ボス」
団員たちは少し不満がありそうに見えたが、団長がそれをおさえてこう言った。
「あたりまえさ。スピード勝負で負けたんだ、そこでいちゃもんをつけたら爆速旅団の名折れ。それになんといっても、ナイスネーチャンの角を治してくれたしね」
そもそも、なぜ角が折れていたんだ?
「昔、アタイがまだ一人で仕事をしていたころの話さね。とある仕事でしくじって敵の毒ナイフを食らってね。なんとか逃げ切ったけど、潜伏した森のなかで力尽きちまったんだ」
なんか昔話がはじまったんだが。
「身体中傷だらけ、毒も回りきって、あぁ、アタイもここで終わるんだ……って思って諦めかけてたその時、森の奥から真っ白に輝くユニコーンが現れたのさ」
「ヒヒィーン」
ユニコーンまで相づちをうち始めた。
「鋭い角を見て、刺し殺されると思ったんだけど、なぜかこの子はアタイのそばまできてスンスン匂いをかいだのさ」
お前、それは……ユニコーンと言えば、その……あれが好きなんだろ?
つまり、お前……。
「匂いをかぎおわったユニコーンが首をブンブン振り出したときは怖かったね。やっぱり刺されるんじゃないかって」
ヘドバンするくらいグッドスメルだったんじゃねぇか?
「首を何度か振ったかと思えば、なんと角がぽろっと取れちまった! その角がアタイの胸の上で、すーっと消えたんだ、まるで体に溶け込むようにしてね」
そういえば鹿も角が生えかわるときに、首をふって角を振り落とすんだったか?
ユニコーンもそういう仕組みなのか。
「角が消えたと思ったら、アタイの体についた傷も毒も、きれいさっぱり消えちまった! それで気づいたんだ、あぁ、この子はアタイを助けてくれたんだって。そのときからずっとそのユニコーン、このナイスネーチャンとは一緒に生きてきた」
ユニコーンの角には解毒作用があると聞いたことがあるけど、てっきり粉にでもして飲むのかと思ってたな。
昔、貴族連中に狩られまくって、ほぼ絶滅危惧種らしい。
「ナイスネーチャンの角はそれ以来、折れたまんまで心苦しかったんだけど……なんの奇跡か今回、治っちまった! あんたが投げたあのビンにはいったいどんな薬が入ってたんだい?」
「あれは……とあるルートから手に入れた、激レアの秘薬……おいそれとは口にできねぇな」
「そんな貴重な薬をなんでアタイらのために? しかもレース中に使うなんて……あれはなにが目的だったんだい?」
「そんなの決まってる……レースをするならお前らにも全力を出してほしかったからさ!」
「あ、あんた……男だねぇ……!」
「ボスがまた適当なこと言ってるんダゼ。あれはオレのために……」
余計なことを言いかけたブレイクの口を手でふさぎながら、俺は週末のラッパの6番目のボタンを押した。
『パーパーパパー パーパーパパー……』
流れ出したのは蛍の光。閉店の時間が来たようだな。
「帰るぞブレイク。じゃあな、ユニコーン爆速旅団の諸君、俺はもう行く」
「あぁ、またいつか勝負しな! そのときは最初っからビンビンのナイスネーチャンでぶち抜いてやるからね!」
「毎週来てもいいくらいダゼ!」
もう二度と来ねぇよ!
この後、ギルドに帰って、「ユニコーンの折れていた角が復活した。足が速くなったので注意が必要だ」と報告して、調査依頼は達成という扱いになり、1万ギルを報酬として受け取った。
命がけの報酬としては安すぎるが、罰金とかじゃないだけましだろう。
さて金も入ったし、晩飯は馬刺しじゃなく牛の肉でも食おうかねぇ。
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