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第11話

 そろそろ、また『裏』の仕事でもするかァ……!


 表ギルドの仕事(の失敗)でコツコツと貯めた借金を、裏ギルドの仕事でドカンと一発返済する。

 そういうサイクルで『神のゴミ箱(うちのチーム)』は回っているのだ。


「おかしいだろうがァッ! なんで仕事してるのに借金が増えるんだよッ!」


「アハハ、またボスが怒ってるよぉ」


「ゴミ野郎ども、全員集合! 作戦会議ィ!」


「「「「はーい」」」」


 うちの野郎どもが、わらわら集まってくる。

 こいつら、自分がゴミだっていう自覚があるんだね。

 俺、悲しいよ。


 アジトにいたメンバーが全員、部屋の片隅にある大きな机に集まった。


 俺、フラウ、エピス、ブレイク、肉丸にくまる、ドリコの6人だ。


 頭の中も外もお花畑なエセお嬢様フラウ、セクシークレイジーアルケミストのエピス、人面馬ブレイク。

 この3人は割とアジトにいるが、今日はそれ以外にも二人のメンバーがいる。


 まず肉丸。

 こいつはバスケットボールサイズのカバで、すごくヌルヌルしている。


 カバといったらウソになるだろう。

 カバによく似たヒポポという魔物だ。


 目がまんまるで、身体もむちむちしていて可愛いんだが、いかんせん体がヌルヌルの液体でおおわれているのでちょっとだけ気持ち悪い。

 こいつが寝転がったりすると、アジトの床がヌルヌルになるので勘弁してほしい。


 次にドリコ。

 こいつは金髪碧眼で高身長のクッソイケメンなのに、踊ることにしか興味がないので全然モテない。


 今も、『ひょっとこのお面』を顔につけたまま阿波踊りを踊っている。

 お面は俺の『ゴミ箱』に入ってたからあげた。

 ついでに、阿波踊りも教えたらハマってしまったらしい。


 こいつはいつでもどこでも踊るんだ。

 今も、俺たちが打合せで使おうとしている机の上で踊ってるもんな。


「降りろやァッ!」


「オゲベフッ!」


 ドリコを蹴り落としたところで会議を始めたいと思います。


「今日の議題は、金がない件についてだ」


「いつもそれですわね」


「……お嬢、お前の最近のクエスト成功率は?」


「1勝3敗1引き分けですわね」


「赤字じゃねぇか!」


 1勝(クエスト成功)で稼いだ金は、3敗(クエスト失敗)で払うことになった罰金やら違約金やらでマイナスになった。

 ちなみに1引き分けは『えらい犬』のやつらに罰金を帳消しにしてもらった件だ。


「お嬢のクエスト失敗による違約金、ブレイクが街中を走りまわって壊した物の弁償代、エピスが作った薬の犠牲になったやつらの治療費……。俺がチマチマまじめにクエストを成功させてもいっこうに黒字にならねぇんだよ!」


「僕は借金を作ってないよね?」


 ドリコが確認を入れてきた。


「確かに作ってないけど、お前はそもそも金も稼いでないだろうが。踊ってない夜を知らない」


「ハッハッハッ、それはそうだね、ちなみに昼も踊ってる」


 やかましいわ。


「ミミッ?」


「肉丸も借金は作ってないな。でも、食っちゃ寝してるだけだろ?」


「ミッミッミッ」


「なに笑ってんだ。エサ代ぐらい自分で稼げっ」


 肉丸のつぶらな瞳に見つめられると、つい許してしまいそうになるが、うちのチームの一員であるからには役に立ってもらわないと困る。


「とにかく、ここらで一発デカいヤマを当てないと俺たちは餓死する。ってことで、ギルドへ行くぞ」




 ギルドの一階へ入ると、ちらほらいるギルダーどもがこちらへ視線をむけた。


「おい、あれ……」


「あぁ、ゴミ屋敷だとかなんだとか言う……」


「この街一番のイカレ野郎どもじゃねぇか」


 ひどい言われようだな。

 あと、ゴミ屋敷ってなんだよ、俺らのチーム名は『神のゴミ箱』だ。


 こちらを見てひそひそと喋るやつらを無視して、俺たちは受付横にある階段をおりていく。


 地下一階に降りると、上のフロアと同じくらいの広さの薄暗い空間が広がっている。

 窓はなく、天井や壁に設置された光の魔導具で必要最低限の明るさが確保されている。


「おい、あれ……」


「あぁ、ゴミ回収の……」


「けっ、あのイカれチーム、まだこの街にいたのかよ」


 デジャブか?


 酷いよ、みんな。

 あと、ゴミ回収じゃねぇよ、それだとただの業者さんになっちまうじゃねぇか。

 ゴミみたいなスキルしか持ってないメンバーばかりが集まってしまったと考えれば、ゴミ回収業者というのもあながち間違いないのかもしれないが。


 受付へ向かうと、おかっぱの黒髪が特徴的な女性が、ダルそうに出むかえてくれた。


「トラッシュ、まだ生きてたのね」


「おう、シャバねえ、あいかわらず死にそうな顔してるな、治療院いけよ」


「今日も元気にタバコがうまいわ」


 にやりと少し口のはしをあげ、その隙間から細く煙をはく彼女はヘビースモーカーだ。

 そのせいか、いつも顔色が悪いし、目の下のクマもすごい。

 でも、お肌は赤ちゃんみたいにぷるぷるで、髪はハイヒールり◯ご姉さんみたいにつやつやだ。


「ところで、金が必要なんだよ。ドカンと一発、楽に稼げる仕事を紹介してくれ」


「そんなおいしい話にとびついたら普通は死ぬわよ」


「大丈夫、そのときはバックれて違約金を払うから、とにかく紹介してくれ!」


「堂々となめたこと言ってくれるわねぇ」


 シャバ姐がタバコをふかしながらしばし考えるそぶりを見せた。

 そして、カウンターの下から一枚の依頼書を取り出した。


「シャバい案件があるわ」


「稼げるのか?」


「それはもうシャバシャバよ」


 シャバシャバらしい。

 カウンターに乗せた依頼書にフラウやドリコたちも顔を寄せてくる。


『【窃盗依頼】フラクティ伯爵家でパーティあり。娘のプーパルが着用する予定のティアラを盗め。報酬は200万ギルとティアラ』


「成功報酬は……200万ギル!? トラッシュこのクエストを受けますわよ、大金持ちになれますわよ、オーッホッホッホ」


「ティアラももらえるのか? オークションに出せばさらに金が入ってくるしデカいな。よしっ、シャバ姐、このクエストは『神のゴミ箱』が請け負ったァ!」


「即決ねえ……まぁ、私がなにを言っても意味がなさそうだし、受け付けるわね」


 シャバ姐は死神みたいに薄く笑いながら手続きをしてくれた。



 俺たちはふたたびアジトに戻り、クエストについて打ち合わせをする。


「作戦はこうだ。まず、お嬢とドリコが貴族に変装してパーティに参加する」


 こいつら、見た目だけは貴族に見えなくもないくらい整っているからな。いけるやろ。


「ご存知のとおりワタクシは貴族ですから? なにも心配はいりませんけれど、ドリコは演技できますの?」


「僕のダンスは200種類あるからね、どんな曲が来てもフロアを沸かせる自信がある」


「踊るなよ!? 裏の仕事で目立って良いことなんかなにもないんだからな」


 はやくも暗雲が立ちこめてきた。

 だが、この程度で方針変更してたらいつまでたってもゴールにたどり着かない。

 チームメンバーを信じるのもまたボスのつとめ。


「エピスは侍女に変装して、フラウのそばにいてくれ。俺は従者の格好をして、ドリコのそばにつく」


「ボクが侍女かぁ。了解、ボス。でも、具体的になにをすればいいのかなぁ?」


「作戦はシンプルだ。まず、会場まではブレイクが引く馬車に乗って向かう」


 ブレイクが無言でうなずく。


「会場についたら、ブレイクと肉丸は外で待機。残りのメンバーでパーティ会場に入る」


「ミミィッ!」


「お前はパーティ会場に入れねぇよ。ディナー用の子豚と間違われて丸焼きにされるぞ?」


「ミィィ……」


 肉丸をなぐさめるようになでてやる。

 うわっ、ぬるぬるする。

 エピスの白衣でぬるぬるを拭いた。

「うわ、ボスひどいよぉ」というエピスの声を無視して話を続ける。


「パーティ中、ターゲットの娘……プーパルだったか? そのプーパルの周りからなるべく人が減るタイミングを見計らって、ドリコとお嬢が話しかけるんだ。できるな?」


 ドリコとお嬢はうなずく。


「会話が盛り上がり始めたあたりで、エピスが『シャンパン・スーパーノヴァ』をグラスにそそぐ。酒瓶の一本くらいは隠して持ち込めるだろ」


 ――――――――――――――――

 シャンパン・スーパーノヴァ


 超強炭酸の酒

 発泡というより、もはや発砲

 その爆発力は超新星スーパーノヴァ


 銀河の果てにて一人待つ姫にささげる泡沫うたかた

 始まりのない終わりもある

 ――――――――――――――――


 これだ。エピスが作った。


 以前、アジトで飲もうと思ってコルクを抜いたら、パァンッという音とともに噴き出した泡で天井に穴が開いたいわく付きのブツである。

 しかも、味は重曹をそのまま舐めたような苦さなので処分できずに放置されていた。


「シャンパンコールでも練習するか……」


「シャンパンコール?」


 前世の職場に、なぜかシャンパンコールの得意な部下がいた。

 飲み会のたびにシャンパンコールをやるものだからなぜか俺も覚えてしまった。

 ノリが軽すぎる奴で話は合わなかったけど、なぜか憎めないいい奴だった。


 彼のことを考えながら、しばしドリコにシャンパンコールを仕込んでいたら、エピスが遠慮がちに、


「ボスぅ、結局このシャンパンで何するの? コール? ってやつをボクもやればいいのかなぁ?」


「はっ、そういえば会議中だったな、すまん」


「シャンパン・スーパーノヴァを適当なグラスにそそいでくれ」


「開けたとたんに中身が全部出ちゃうよぉ。そそぐほどの中身は残らないと思うけどぉ」


「そうだったわ。まぁ栓を開けてくれればいいよ。音さえ鳴ればいい。その音で驚いたふりをして俺がプーパルにぶつかるから、そのタイミングでフラウはプーパルの頭、ちょうどティアラがある場所から花を咲かせろ」


「わかりましたわ」


「俺にぶつかられた衝撃と、花が咲いた勢いでティアラが吹っ飛ぶ! それをドリコがキャッチだ。そして……」


 俺は『ゴミ箱』から『お姫様変身セット』を取り出し、机の上に広げた。


 ――――――――――――――――

 お姫様変身セット


 ティアラ、イヤリング、ネックレス、指輪、魔法の杖

 身に着けたその時から、あなたはお姫様


 偽りの姫には天罰を

 かの地にて王笏おうしゃくを手にするのはただ一人

 ――――――――――――――――


 あのクソデカ天使、なんでこんなもの持ってるんだ。娘でもいたのかな?


 どのアイテムにもピンク色の宝石があしらわれている。

 もちろん宝石は偽物だし、各アイテムのボディも銀色のメッキだろう。

 しょせんは子供用のパーティセットだ。


 お姫様セットの中から、ティアラだけをドリコに渡した。


「キャッチした本物のティアラと、この偽物のティアラをすり替えろ」


「了解。……でも、プーパルちゃんが身につけてるティアラのデザインと違う可能性もあるよね。っていうか、その可能性のほうが高いんじゃないかな……」


「そこは勢いでなんとかするんだよ」


「それにこれ……アクセサリーには詳しくない僕でも安っぽいと感じるけど?」


 ドリコがティアラを見ながら苦笑いする。

 それはそう。子供用のメッキだからね。


「キラキラしてますわ! トラッシュ、これワタクシにくださいな!」


 でもほら、上級貴族であらせられるフラウ様がこうおっしゃっているんだ。

 バレへんバレへん。


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