第12話
いよいよパーティ当日をむかえた。
変装をした俺たちを乗せた馬車が会場に到着する。
「ボス、着いたゼ」
「黙れブレイク。馬は喋らねぇんだよ」
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ウママスク
リアルな馬を模したマスク
被ればあなたも馬娘
夜な夜な彼女は首を探し続けた
首は昼の世界に取り残されていた
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さすがに人面馬で会場に乗り込むのはまずいので、ブレイクにはウママスクを被せておっさん顔を隠してもらった。
俺たちの登場に他の客たちがざわめく。
「ねぇ、なんかあの馬の顔、おかしくないかしら? 体はこげ茶色なのに、頭だけ明るい茶色だし」
「やけに柔らかそうというか、ぷるぷるしてるというか……病気なのか?」
「うわぁ、こっち見た!」
「馬の首ってあんなに回転するんだっけ? 首の骨折れてない?」
俺は御者席から降り、馬の被り物の角度を調整した後、馬車のドアを開けた。
「ミーミミッ」
「オラァ!」
「ミギッ」
肉丸が勝手に出てこようとしたのでケリで中へ押し戻した。
「お前は待機っつったろ……! ゲフン、ゴホン……さ、さぁ、フラウお嬢様、どうぞこちらへ」
「さま!? お嬢様!? いいですわね……これからは、いつもその呼び方をしてくださるかしらトラッシュ」
「黙れお嬢、さっさと降りろ」
まだブーブー言い続けているお嬢を侍女姿のエピスに押し付けて、次はドリコに合図をする。
「ドリコ様も降りてください」
「了解。僕の出番だね」
ドリコはしなやかなステップで馬車を降りた。
「だ、誰かしら、あのお方!」
「イケメンだわぁ……」
ドリコが姿をあらわしたとたん、周りにいた女性貴族たちから黄色い声があがる。
「おぉ! なんだか歓迎されてる気がするよ」
「ドリコ、口調には気をつけろよ」
「この歓迎ムードなら、フルンチ族に伝わる歓迎感謝の舞を披露するのがちょうどいいかなっ……」
「やめろやめろやめろッ……! フルチンだかフレンチクルーラーだか知らないが、作戦開始する前に崩壊させんな! 黙って会場に入ってくれ……!」
どうにかこうにかアホどもをひきずって会場入りに成功した時点で、俺の気力体力は残り5ミリくらいまで減っていた。
帰りてぇ。
あらかじめ裏ギルドから受け取っていた『偽装された招待状』を受付に渡すと、とくに止められたりすることもなく、パーティ会場への侵入は成功。
さりげなく会場を見渡し、ターゲットのプーパル嬢を探す。
会場にはたくさんの貴族がおり、おのおの挨拶などをしていた。
男の貴族たちは、スーツに似た衣装に、ゴテゴテとした装飾をつけている。
ドリコも同じように青系のスーツのような衣装を着ているので違和感はないはずだ。
安めの借り衣装で間に合わせたせいか、装飾は少なめで少し見劣りしているものの、ドリコ自体のイケメンオーラにより、むしろ他の貴族を圧倒している。
完全に主役の風格である。
女性の貴族たちは……なんかふわふわしたドレスだ。
ロココ調なのかホワイトロリータなのか知らないけど、とにかく赤や青に色づいたウエディングドレスのような衣装を着ている。
なんであんなにスカートにボリュームを持たせるのだろうか。
うちのフラウお嬢様は、真紅のドレスを身にまとい、おゴージャスな巻き髪をこれ見よがしに揺らしながら歩いている。
それはそれは目立っている。
完全に主役の風格である。
まだターゲットのプーパルお嬢様が登場していないせいもあって、フロア中の視線はうちのアホ二人に集中しまくっている。
嘘みたいだろ……俺たち、この後ティアラを盗んで、こっそり逃げるんだぜ?
そんなに目立ってどうするつもりなんですか?
クソッ、はやくも作戦失敗か?
いいや、まだだ。
まだ何も始まっちゃいない。
あきらめるなトラッシュ。
お前はこの街一番のイカれチームをまとめるボスだろ?
落ち着け。落ち着くんだ。
「2、3、5、7……9、だよな? ……11、13、じゅう……じゅっ、15?」
俺が白目をむきながら素数を数えていると、フロアがまた少しざわついた。
みんなの視線の先をたどると、フロア前方、舞台のように高くなっている場所に、一人のおっさん貴族が登壇したところだった。
「やあやあ、みなさん! 本日は我が娘のために集まっていただき、誠に感謝する!」
銀髪を短く刈り上げているおっさん貴族は、日焼けした顔をテカテカ光らせながら、迫力のある声で挨拶をした。
不動産の営業マンみたいなやつだ。
日焼けサロンもないのにどうやってあそこまで焼いたのか気になるくらいに顔が黒い。
こいつがターゲットの父親であるフラクティ伯爵だな。
フラクティ伯爵が横を向いて合図をすると、舞台袖から一人の女の子があらわれた。
来た。
彼女がプーパル嬢だ。
長い銀髪をさらさらとゆらしながらゆっくりと舞台の真ん中まで歩いていく。
パーティ会場のほうへふりむいた彼女の頭には、紫色の宝石があしらわれた美しいティアラが乗っていた。
会場全体から、ため息のような声が漏れる。
「おぉ……なんと美しい」
「ははは、どちらが、ですかな?」
「それはもう……プーパル様もティアラも両方ですとも、ハハハ」
「私もあんなティアラをつけてみたいですわ」
「おいくらくらいするのかしらねぇ……おっと、あたしったらはしたない。オホホ」
貴族たちのざわめきに乗じて、ドリコも小声で俺に話しかけてくる。
「ボス、ティアラのデザインがやっぱり違うようだけど?」
ドリコがふところからティアラを取り出す。
ギラギラとした銀メッキのティアラにはピンク色の宝石(偽)がくっついている。
プーパル嬢のティアラについている宝石は紫色だ。
……うーん、ぎりぎりアウトってところか?
いや、あきらめるなよ!
「……もっと自信を持て、ドリコ」
「はい?」
「お前が白と言えばカラスだって白になるんだよ!」
「うん……。はい?」
「お前は踊りが得意だよな? いつも踊っていやがる。そうだな……踊るとき、お前は何を考えてる? 何も考えずに踊ってるのか? いいや、そんなはずはない。いつだって、想像しているはずさ、その踊りで表現できる景色ってやつをな」
「そうだね。ステップを踏み始めた瞬間、まるで魔法にでもかかったように、世界が輝き始めるよ」
「そうだろう、そうだろう。でだ、お前が今手に持っているそのティアラ。何色の宝石がついているんだ?」
「いや、ピンクでしょ…………ッ!? って、まさか!?」
「そうだ……紫だ。紫なんだよ。お前の表現力で紫にするんだよ!」
「なるほどッ……すべて理解したよボス。さすがボスだ。まだまだ僕は甘い……。いいだろう。このティアラを紫にでも金色にでも変えてみせる! 僕の踊りでね!」
よし、ノってきたな。
でも、踊るのはやめろよ?
会場のざわつきが少しずつ静かになっていくのを見計らって、プーパル嬢はほんのわずかに微笑しながら挨拶をした。
「みなさま、本日は私のためにお集まりいただき、誠に感謝いたします。ささやかなパーティではございますが、どうぞ楽しんでいってくださいませ」
透き通るような声は、それほど声量があるわけでもないのに会場のすみずみにまで届いた。
容姿はもちろんのこと、声まで美しいのか、と驚いたのだが……なんだか俺は好きになれない人だな、とも思った。
なぜだろうか?
すべてが偽物というか、やらされてる感があるからかな。
関西のおばちゃんならこういうだろう。
「お人形さんみたいやなぁ」
「なんだかトラッシュはときどき訛りますわねぇ。どこの方言ですの?」
「遠い昔、生まれ育った町の方言だ。大人になってからは引っ越しちゃったけどな」
「大人って……トラッシュはまだワタクシと同い年ですわよね? なんだかおじさんみたいですわ」
挨拶が終わり、本格的にパーティが始まった。
どうやら高位貴族から順番にプーパル嬢に挨拶をしていくようだ。
この流れじゃ、ドリコとお嬢が近づけるのにはまだ時間がかかりそうだな。
俺は従者のフリをしながらもチラチラと周りを気にして、必死に空気を読み挨拶のタイミングを見計らっていた。
一時間ほどたったあたりで、フロアのかたすみに楽器を持った集団があらわれた。
そして自然と体がゆれるようなテンポの曲を演奏しはじめる。
「踊りが僕を呼んでる」とか言い出したドリコにリバーブローをぶちこんで引きとめていると、プーパル嬢は背の高いイケメン貴族と踊りはじめた。
まずは主役をたてるという意味で、他の貴族たちは誰も踊らず、プーパル嬢が一曲踊り終えるまで待機していた。
主役のダンスが終わったのを合図として、脇役の貴族たちもフロアのそこかしこでペアを組んで踊りはじめる。
社交ダンスというやつだろうか。
男女が見つめ合いながらゆらゆらくるくると踊っている。
そして、このみんなが踊り出したタイミングで、ようやくプーパル嬢が一人になった。
チャンス……!
作戦開始ィ!
「おい、いくぞ! ドリコ、お嬢、エピス!」
振り向くと、俺の近くにはエピスしかいなかった。
「ふぅ……ふぅ……落ち着け……キレるのはまだはやい……。エピスさんや? ドリコとお嬢はどこへ行っちゃったのかな?」
「あそこだよぉ」
エピスが笑いながら指をさしたほうを見ると、ドリコとお嬢が優雅にダンスを踊っていた。
ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァ!!!!




