第13話
フロアのど真ん中で「わたしたちが主役ですけど?」みたいな顔で踊るドリコとお嬢。
「踊るなって言ったのに! 踊るなって! 言ったのに! なんで踊ってんのあいつら!?」
踊るなっていうのは、踊るなっていう意味なんですよ。
うちの奴らには、どっかの政治家みたいな構文で説明しないとダメなのか?
「まぁまぁ、落ち着きなよボスぅ。変な踊りもしてないし、まわりの貴族連中にうまくとけ込んでるじゃないか。一曲踊って満足したら帰ってくるさ。ガス抜きみたいなもんだよぉ」
「そうか…………そうだな。みんな毎日頑張ってくれてるし、たまにはガス抜きも必要だよな……って、んなわけあるかぁ! ガス抜きは休みの日にやれよ! 作戦行動中にやるんじゃねぇ!」
「アハハ、ボスがまた怒ってるぅ」
小声で叫んだつもりだったが、まわりの貴族たちがイラっとした顔で俺のことをちらりと見た。
いささか大きな声が出てしまったようだ。
そして、その声はドリコにも届いたようで、奴は優雅に踊りながらも、ちらりとこちらに視線をやった。
俺は金視眼をピカピカ光らせながら目くばせをする。
金視眼5回点滅。
ブ・チ・コ・ロ・スのサインだ。
ドリコは、ハッとした表情を一瞬浮かべ、お嬢に何事かささやいた。
クソッ、ここからだと二人が何を喋ってるか聞こえねぇ。
お嬢は、エッ!? みたいな顔をしてこちらを振り向いた。
……なんですか?
ドリコにいったい何を言われたんですか!?
ドリコは再度俺のほうに振り向き、「すべて理解した」とでもいうような表情で力強くうなずいた。
待て待て待て待て……ッ!!
違うから!
何を理解したのか知らないけど、絶対違うから!
その時、ドリコは、そっとつぶやいた。
「|tiempo de festival……祭りの時間だ」
それほど大きくない声のはずなのに、なぜかそれは音楽や人々のざわめきを乗り越えて、俺の耳にもはっきりと聞こえた。
〇ンポ・デ・フェスティバル。
ドリコのスキル名である。
終わった……完全に……。
安◯先生、試合終了の笛が聞こえたっす。
今度は嘘じゃないっす。
ドリコの声が聞こえたのは俺だけじゃなかったらしい。
ダンス中の貴族の中にも、ちらほらとドリコのほうに視線を向けた人がいた。
そいつらは全員、ダンス中にもかかわらず、いきなりその場で動きをとめてしまった。
そして、その光景を見た周りの貴族たちが、じょじょにざわつきはじめる。
「おい、彼らはどうしたんだ? 急に止まったりして……」
「曲も続いておりますし……変ですね」
「みなさま、同じ方向を向いていませんこと? あちらに何が……あっ、あのお綺麗な殿方が踊っていらっしゃいますわね! おもわず見惚れて……見惚れて……」
「こら、お前、ワシを差し置いて他の男に見惚れるなんてはしたないぞ! あんなチャラチャラした若造に……若造に……おぉぉぉ……なんと素晴らしい……ッ!!」
いつしかフロアの中で動いているのは、ドリコとお嬢だけになっていた。
みんな、二人の踊りに目を奪われている。
完全に本日の主役である。
これがドリコのスキル『|tiempo de festival』の効果。
あいつがスキルを発動して踊れば、誰もが目を離せなくなってしまう。
ドリコが仲間だと認識している俺たちチームのメンバーに効果は発揮されないが、それ以外の人々はすでにスキルの影響を受けてしまったようだ。
普段から鍛えていて精神的な抵抗力が強い人間だと、抵抗できるらしいが……このパーティに参加している貴族の中にはそんな人間はいなかったらしい。
警備や護衛の連中は何をやってるんだ!
さっさとあのアホを止めてくれ!
部屋の各所にいる護衛らしき人間に目をやるが、みごとに全員ドリコの踊りに夢中だ。
クソッ……フラクティ伯爵め……見栄えだけいい雑魚ばっか集めやがって。
俺が逆恨みをしながらも、横目でちらりとフラクティ伯爵の様子をうかがうと、彼は顔をまっかにしてプルプル震えていた。
アッ…………ブチギレてますやん…………。
怒りすぎて抵抗寸前ですやん……。
いや、それはそうだろう。
なんせ、娘のお披露目パーティなのに、それを差し置いて完全にパーティを支配している存在がいるのだ。
もはや、これまでか……。
「エピス、大事な話がある」
「なにかな、ボスぅ」
「今日限りを持って……。『神のゴミ箱』を!! 解散する!!」
「えぇ~! 見捨てないでよボスぅ!」
ドリコ、お嬢、今までありがとう。
お前らの犠牲は無駄にしない。
必ず逃げ切ってみせるからな?
もうギャングなんて辞める。
逃げた先で雑貨屋でもしようかな?
俺のスキル『ゴミ箱』の中にはゴミしか入ってねぇけどさ、お姫様変身セットみたいに子供なら買ってくれそうなものもちらほらあるんだ。
そういうゴミを売りさばいていけば、つつましく食っていくくらいは稼げるんじゃないかな。
「……そうだ、それがいい。なぁ、エピス。田舎で雑貨屋でも開いて暮らさないか?」
「きゃー、プロポーズかい、ボスぅ? それとも現実逃避かなぁ?」
「そうだよ、現実逃避だよ! くっそ~、こうなったら二人でやるしかない! エピスいくぞ」
作戦はこうだ。
俺がプーパル嬢を突き飛ばす。
エピスがプーパル嬢を受けとめて抱きしめる。
プーパル嬢がエピスに惚れる。
その隙に俺がティアラをさっと盗む。
逃げる。
「以上だ。何か質問は?」
「むちゃくちゃすぎて、質問で解決しそうな点がなにもないよぉ~」
「よしっ、行くぞっ」
プーパル嬢に向かって走る俺たちを気にする者は誰もいない。
いまだにドリコの踊りに夢中で、みんな夢遊病みたいになっている。
それはプーパル嬢も同じ。
ぼーっとした目線でドリコのほうをながめている。
「ワァー、スベッタァァァァ!!」
俺は、自然な演技でスッ転びながらプーパル嬢の背中をドンッと押した。
彼女の身体はまるでマネキンかと思うような軽さだった。
倒れそうになった彼女をエピスが受けとめて、二人が見つめあった。
ヨシッ!
そして、あとは俺がティアラを盗めば……。
プーパル嬢の頭上に手を伸ばそうとしたその瞬間、右側から誰かが俺に突撃してきた。
脇腹にドンッ、という衝撃を受けて床に倒れこむ俺。
なんで?
そんな作戦なかったんですけど!?
ドリコかお嬢が暴走したのかと思い、見てみると、俺のそばには全身黒装束で黒い覆面を被った忍者みたいな奴が、血まみれのナイフを持ってたたずんでいた。
血まみれのナイフ。
それを認識した瞬間、脇腹に激痛が走る。
「うっ……がぁ……いてぇ……」
「ボスぅ!! 血が! 刺されてるよぉ!?」
ナイフの血、俺のじゃねえかよ……。
刺された脇腹からは、血がどくどくと流れ出てて赤いじゅうたんに染み込んでいく。
赤に赤だからシミが目立たなくてよかった~。弁償しなくてすむかな?
って、言うてる場合か。
ヤバくね?
死ぬのか、俺。
ってか、なんで?
ニンジャナンデ?
マジでコイツ誰?




