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第14話

 なんで俺が刺された? 


 いや、俺なんて刺しても仕方ないだろうに。

 あ、もしかして……狙われたのはプーパル嬢だった!?

 プーパル嬢が刺されそうになったタイミングで位置が入れ替わった俺が刺された?


「ボス、大丈夫か!?」


「トラッシュ!」


 さすがに異変に気づいたのか、ドリコとお嬢もダンスを中断して、かけよってきた。


「キャー!」「おい、誰か刺されてるぞ!」「賊が逃げるぞ、捕まえろ!」


 俺を刺したニンジャ野郎は逃げようとしたが、フラクティ伯爵の用意した兵士たちに囲まれてしまった。

 そのまま戦闘に突入。

 兵士が雑魚なのかニンジャが強いのか、拮抗きっこうしている。


 貴族どもは、血だらけの俺をみて騒いだり、ニンジャにやられている兵士たちに罵声をあびせたりして完全に野次馬モードに入ってやがる。

 見せもんじゃねぇぞ。


「ボス、はやくこれ飲んでぇ」


 床に倒れ込んだ俺をのぞきこんでいたエピスが、おもむろに胸の谷間からビンを取り出した。

 エッ…………!


 ビンの中には血のように赤い液体がゆれている。


 ――――――――――――――――

 ハートポーション


 深い赤色の水薬

 強い癒しの効果を持つ

 副作用として、隣人に親愛の情がわく


 その傷が癒えたなら、敵の血を見て泣けるだろう

 あらたな傷をのぞむなら、友の血を見て笑えるだろう

 ――――――――――――――――


「おい、なに飲ませようとしてんだよ……ハートポーションじゃねぇか……」


「副作用が気になるのぉ? でも効くよぉ?」


 俺がためらっていると、


「ああああ! いけませんわいけませんわ! 惚れ薬って聞きましたわよそれ、そんなハレンチなものいけませんわ! 没収です!」


 お嬢がエピスの手からビンをぶんどった。


「もぅ、そんなこといってる場合かなぁ? ボス死んじゃうよ?」


『副作用として、隣人に親愛の情がわく』


 親愛の情ってレベルじゃねぇんだよな。

 言い方がマイルドすぎるだろ。男同士でもしゅきぃ……ってなるんだぞ。

 しかも、今この状況で副作用なんてくらったらクソめんどくさいことになることうけあいだ。

 でも悩んでる暇はもうないんだ。なにせ、


「もうそろそろ俺、マジで死ぬぜ? なんでもいいからはよ飲ませてくれ……もう腕もあがらねぇ……」


「あわわわわ、どうしましょう! どうしたらいいんですの!? こうなったらワタクシが口移しで飲ませるしかないですわね!?」


「いや、普通に口元にビンを……あと、俺それ飲んだあと、頭おかしくなるからさ……ぶん殴って正気に戻してく……」


「何をもたもたしているのですか!」


 お嬢がハートポーションを口にふくもうとしたその時、今まで黙って横で見ていたプーパル嬢がするどい声をあげた。

 そして、ハートポーションをフラウからぶんどったプーパル嬢はグビっと一口飲んだかと思うと、そのまま俺にディープキスをかました。


「「「「「ああぁぁっ!」」」」」


 いっせいにあがる悲鳴。

 キスされながらも俺が目だけで周りを見渡すと、エピスやフラウだけでなくプーパル嬢の付き人や有象無象の貴族どもがみんな俺に注目していた。

 いや、だから見せもんじゃねぇぞ。


 プーパル嬢のベロの感触と、つばと、ハートポーション。

 なんだか頭がぼんやりしてきた。

 あぁ、気持ちいいなぁこれ……。


「ぷはっ」


「痛みがなくなった……ありがとう、プーパル嬢」


「いえ、あなたは私の命の恩人ですから……」


 俺は脇腹の傷あとを確認しながら立ち上がる。

 流れ出た血の影響でまだ少しふらつくが、これも時期におさまるだろう。

 あらためてプーパル嬢にお礼を言おうとして、彼女の目を見た途端、俺は衝撃を受けた。


「美しすぎるッ!」


「まぁ……嬉しいです……」


 彼女は長い銀髪で自分の顔を少し隠しながら照れているようだった。


「あなたは私を命がけで守ってくれましたね……なぜですか?」


「もちろん、あんたのことを愛してるからだ」


 俺は胸ポケットから取り出すふりをしながら、『ゴミ箱』から『お姫様変身セット』の指輪を取り出した。


 そしてそのままプーパル嬢の薬指に指輪をはめようとしたところ、「ああああ!!!!」と叫びながらフラウが指輪をうばった。


「おい、お嬢! 何しやがる!」


「トラ……トラトラトラ……!」


「ワレ奇襲ニ成功セリ?」


「トラ……トラッシュ、あなた……!」


「何言ってんだ。それより、指輪を返せよ。俺とプーパル嬢は相思相愛なんだ。な? そうだろう、プーパル嬢」


「そうですね。その通りだと思います。あなたが私の運命の人だと、今は感じています」


「なーにをッ……なーにを言ってるんですのあなたたち!?」


 フラウは顔を真っ赤にして半泣きになりながらなにやら騒いでいる。

 おっと、こんな奴のことより、筋を通すべき人がいたな。


「エピス……俺さっき、チームを解散して、二人で雑貨屋をやろうって言っちまったよな」


「うん、言ってたねぇ」


 エピスはニヤニヤしながらうなずいた。


「チーム解散!? 二人で雑貨屋!? 聞いてないですわよ!」


 フラウがうるさい。


「あれは無しにしてくれ。俺、プーパルと結婚することに決めたんだ」


「そうなんだぁ。ボスお幸せにねぇ。あっ、じゃあボクからはお祝いの品としてシャンパンをあげるよぉ」


 エピスはまたしても胸の谷間からビンを取り出した。


「おぉ……! いや……デッ……!? 一升瓶くらいあるじゃんそのビン……どこに入ってた?」


 しかも、それシャンパン・スーパーノヴァでは?

 そして、なぜそのビンを大きく振りかぶってる?

 ブォンと音をたてながら俺の顔面にせまる巨大なビン。


「おい、やめっ……グベエェェッ!!!!?」


 ………………。


 …………。


 ……。


「ハッ!? 俺はいったい何を!?」


「ボスぅ、もう正気?」


「あぁ? 俺はいつだって正気だろう。このイカれた世界で一番正気な、男だ……ぜ……?」


 早送りで再生される数秒前までの記憶。

 ハートポーション、プーパル、キス、指輪、フラウ、結婚、巨大なビン……ッ!


「やっちまったああああぁぁ!!」


「復活したんならフラウに謝りなよボスぅ」


「お嬢?」


 エピスが指をさしたほうを見ると、床にはいつくばって、赤いじゅうたんをむしりながら号泣するお嬢がいた。


「うぅぅぅ……」


「甲子園で負けた高校球児?」


「トラッシュぅぅぅぅ……ワタクシと結婚するって言いましたわよねぇ……!?」


「それは言ってねぇよ捏造ねつぞうすんな。それより、すまん、その指輪はお前にやるから、とっとと立てよ、ズラかるぞ」


「ふぁ!? いただけるんですの!? もう誰にも渡しませんわよ!?」


「はいはい」


 茶番劇はおしまい。

 撤収タイムだ。


 しかしまぁ、どうしたもんか。


 なんせ注目をあびすぎている。

 今や会場中の目が俺たち、というか俺に向けられているし、「なんだあいつ?」みたいな雰囲気をムンムン感じる。


 これじゃあ逃げられねぇ。

 ドリコ、馬鹿にしてごめんな。

 本日の主役は俺だったわ。


 外にさえ出られれば、ブレイクがエンジンをあっためながら待ってるはずだ。

 あとはそれに飛び乗るだけ。


 とにかくこの貴族包囲網を抜ける必要がある。

 なにか目くらましがあれば……。


「って、いいもん持ってるじゃねぇかエピス」


 エピスが手に持っているのは巨大なビン。

 シャンパン・スーパーノヴァだ。

 ビンには血がついている。


 よみがえる記憶。

 顔面にせまる巨大なビン。

 ウッ……頭が……!


 俺は思わず額に手を当てた。そして手のひらを確認すると、そこにはべっとりと血がついていた。


「結構な重症ですやん……ハートポーションおかわり」


「アハハ、本気で殴ったからねぇ。ポーションはもうないよぉ」


 俺を殴った衝撃でシェイクされたシャンパンは、今や超新星爆発スーパーノヴァ寸前だろう。

 俺という尊い犠牲をムダにしないためにも、今ここで使うしかない!


「ドリコ!」


「なんだい? 踊るかい?」


「踊らねぇ! お前に求めるのは合いの手だ。踊り子ならリズム感はバッチリだろう?」


「まかせてよ。初見のダンスでも相手のステップに合わせられる」


「ヨシッ! 例のシャンパンコールをやる。ノリで合わせろ」


「ボスはいつも無茶なんだから……だが了解!」


 シャンパン・スーパーノヴァをマイク代わりに俺は叫んだ。


「シャンパンはいりまーーーーすっ!」


 一瞬の静寂。そしてざわめく貴族たち。


「シャンパン?」「あの男、いきなり何を……というか血だらけだけど大丈夫なのか?」


「それより、アタシ彼が刺されていたように見えたのですが」「ポーションってあんなに効くのか」


 ざわつく貴族どもを俺のコールで黙らせる……! 


「いーーーー、よいしょ!」『ヨイショ!』


「よいしょ!」『ヨイショ!』


 ドリコも必死でついてくる。


「なんと!」『ナント!』


「なんとなんと!」『ナントナント!』


「3番テーブルッ、我らがお姫様ッ、プーパル姫よりッ、高級なお酒のッ、リクエストォッ!」


『オォッ!』


「シャンパン・スーパーノヴァ1発、いただきましたァッ!」


『ありがとうございまーす!』


 さすがドリコ、完璧な合いの手だ。

 君、歌舞伎町で働いてたことある?


 プーパル嬢をチラ見すると、困惑の表情を浮かべていた。

 それはそうだろう。


 フラウとエピスの様子をうかがうと、こちらもドン引きの表情である。

 それはそうだろう。


 でも、もう止まれない……やり切るしかないんだ……!


「この夜の主役は!?」『プーパル姫ぇ!!』


「このシャンパンは!?」『スーパーノヴァ!!』


「あけたら最後!」『大爆発!!』


「スーパーノヴァで!?」『スーパーノヴァで!?』


「銀河の果てまでぶっ飛ばせ!」


『フォーーーー!!!!』


 ギッチギチに詰まっていたコルクをひっこ抜くと、


 パアァァンッ!!!!

 シュバアァァァ!!!!


 爆音とともに、シャンパン・スーパーノヴァが勢いよく吹き出した。

 泡の柱は天井にぶちあたって砕け散り、流星群のように会場へふりそそぐ。


「きゃぁああ!」「あたらしい賊か!?」「お嬢様、お逃げくださいッ!」


 大混乱である。


「シャンパン・スーパーノヴァ! ごちそうさまでしたァ!」『ごちそうさまですッ!』


「それではゴミ野郎どもッ! 感謝の気持ちを込めてーッ!? ……撤収ッ!」


 やり切ったような顔で突っ立っているドリコのケツをぶっ叩き、ポカン顔のフラウとエピスの腕をひっぱりながら出口へダッシュ!


 逃げろ逃げろ逃げろ!


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