第6話
IQ500の華麗なマシンガントークでハートポーションのことはうやむやにできたはずだ。
オクトプスから離れたことで、俺の中の妙な気持ちもじょじょに薄れていくのを感じた。
やれやれ、ハートポーション、おそろしい薬だぜ。
王都はかなり広いため、その壁にはりつくようにして存在するスラム街もまたとてつもなく広い。
ようやく『えらい犬』のアジトにたどり着いたころには、夕方になっていた。
「ワンッ! ワンワンッ!」
「わーしゃしゃしゃ。エライゾは今日もかわいいなぁ」
アジト前で奴らのボスである犬のエライゾとたわむれていると、ドアを開けてイカツイ男達がわらわらと出てきた。
「オイ、キンタマ野郎ォ! うちのボスになにさらしてくれてんだァ!」
「だーれが金玉だ、ニワトリ野郎!」
開口一番、喧嘩を売ってきたのは『えらい犬』のナンバーツーであるカーネムだった。
まぁ犬がボスだから、実質カーネムがリーダーと言えるだろう。
こいつはニワトリみたいに赤毛のモヒカンをしている。
ニワトリの獣人とかではない。
それにしても、こいつは今なんて言った?
金玉野郎だと?
あまり人前で使うことはないが、それでも俺の金視眼が発動して、俺の眼が金色に光っている場面を目撃した奴らはチラホラいる。
そいつらにいつの間にかつけられていたあだ名が『金玉』である。
タマじゃないぜ? ギョクだ。
玉には宝石という意味がある。
つまり、黄金と宝石みたいに価値のある奴だという意味でみんなこのあだ名をつけてくれたと信じている。
わりとかっこいいあだ名だよな?
なのにこのニワトリ野郎がキンタマキンタマ連呼するから……いつの間にかキンタマで定着しちまった!
「てめぇ、ニワトリ野郎が、卵でも産んどけやぁ! 親子丼作ってやらぁ!」
「なーにわけわかんねぇこと言ってんだトラッシュ! てめぇこそ金玉光らせてみろやコラァ!」
「ハァ~~~!? やろうってのかてめぇ!」
「なんだ抗争かぁ!? いいぜ、てめぇらがその気なら――」
俺が『ゴミ箱』の中から武器を探していると、
「ワンワンワンっ!」
「すっ、すいやせんボス! え? 抗争なんてやるわけないじゃないですか! ちょっとした挨拶ですよッ……! な、そうだよな、トラッシュ!」
「ハァ~~!? 俺はやる気だ――」
「ワンッ!」
「……はぁ……エライゾのかわいさに免じてここはいったん休戦にしといてやるよ」
まったくボスが犬ってのはずるいぜ。
俺は『ゴミ箱』に入っていたブラウンボア(イノシシみたいな魔物)の骨をエライゾに放り投げた。
エライゾが骨をかじっている間に話をつけようじゃないか。
「実は、エライーヌのお前らに相談があってきたんだ」
「えらい犬な? いつも思うんだけどよぉ、イントネーションがおかしくねぇか?」
「んなことより、お前らポーションが必要なんじゃないか?」
「おぉ、そうなんだよ! ちぃとばかしデカイ山をはろうと思ってな。その前にポーションの補充をしておこうと思ったのに、運び屋の奴がしくじりやがってよぉ~。ビンを割りやがったんだよ」
「それは災難だったな。その運び屋はどんな奴だったんだ?」
「お? ちょうどそこにいる奴みたいに、アホみたいなクルクルパーマの女でよぉ……ってご本人様登場してんじゃねえか! お前のとこのフラウだよォ!」
「ひぃ~、許してくださいまし!」
お嬢は、すみやかに土下座した。
こいつ……土下座に慣れすぎて、美しい型のレベルにまで昇華されてやがる。
お貴族様のカーテシーばりに美しい所作だったぜ。
と、そこへエライゾがやってきて、前足でお嬢の頭を踏みつけた。
「ワンッ」
「ちょっ、やめてくださいましっ。いま大事なところですのよ! 許してもらえるか、許してもらえないか。運命の天秤がワタクシの頭の上でギッコンバッタン揺れてるんですの! そこにあなたが足をのっけるとすごい勢いで傾きますわ、天秤が!」
カーネムが顔をしかめながら、
「おいおい、こいつホントに反省してんのかァ?」
「いや~、うちのもんがすまねぇな、カーネム。実は、お嬢のケツをふくためにここまで来たってわけなんだよ。おい、ブレイク! こっちまで運んでくれ」
アジトの庭に馬車を乗り入れたブレイクを見たエライゾはキャンッと鳴いて逃げていった。
アジトの庭を走り抜け、そのまま街中へ飛び出してしまった。
二匹が顔をあわせるのは初めてじゃないんだが、いまだに慣れないらしい。
ブレイクが悲しげな表情をしている。
今度来るときは馬面の被り物でも用意してやるか? 確か『ゴミ箱』の中にあったよな……。
「うちのボスをビビらすんじゃねぇよ」
「すまんすまん。で、これがブツだ」
「おぉ! ポーション……か? なんか色がおかしくねえかァ?」
「デカイ声出すんじゃねえぞ。こいつは紛れもなくポーションだ……非正規の……違法のな」
「なッ!?」
カーネムはポーションと俺の顔を二度見、三度見、四度見した。
首がちぎれるんじゃないか?
そういえば地球にも首無しニワトリなんてのが昔いたらしいな。
「おまっ、お前! なんてもん持ってきやがるッ」
「おいおい、ギャングがビビるなよ。だーいじょうぶだっての。詳しくは話せねぇが、信用できる筋から手に入れてな……この街じゃ俺たち『神のゴミ箱』しか手に入れられねぇし、お前らに迷惑かけるつもりもねえ」
「ほんとかよ……」
「これをお前らにやる。だから、お嬢の罰金を取り消してくれ」
俺はパンッと手を合わせて拝み倒した。




