第54話
エピスに作らせたハートポーションは教会が独占しているポーションとはまったく別口。
おそらく誰も知らないレシピだろう。
そんな脱法ポーションが教会にバレたら地の果てまで追ってきて拷問をされたあげく、火あぶりの刑にされちまう。
ピヨピヨハンマーで指を叩く程度じゃすまねぇ、正真正銘の拷問だ。
もう魔物はいなくなったし、逃げるが勝ち……!
適当な相槌ではぐらかしながらきょろきょろと逃走ルートを探していると、角刈りが目を覚ました。
「うっ……ゲホッ……ゴホッ……ここは……?」
「おぉ、迷い人よ、聖女様はあなたを見捨てませんでした。ということで、ポーション代、100万ギルを喜捨するように」
「オレは……そうか、魔物に襲われて……チッ、あいつら敵と味方の区別もつけられへんのかァ! ブチ殺すぞゴラァ!」
「ひぃっ」
こいつ起きてそうそう口が悪すぎるだろ。低血圧か?
シスターリメアもビビってるし。
角刈りは、ふらつきながらも立ち上がった。
あたりを見渡し、俺、シスター、野次馬の村人たち、そして村のあちこちにころがる曖昧猛虎の死体を見て、また舌打ちをした。
「しくじりよったな……」
「人生は難しいものです。ときにはしくじることもあります。ですが、あなたは何度でもやりなおせます。生きているのだから。なぜ生きているのか? 聖女様のポーションを使ったからです。というわけで、ポーション代100万ギルを……」
「さっきからうっさいんじゃ! 死んどけや!」
角刈りがシスターにむかって右手を向けてそういった瞬間、彼の手のひらから円錐形の石が射出された。
巨大なトゲのような石はシスターの腹に突き刺さりながら、その体を吹き飛ばした。
「キャーッ!」「なんやあいつ! この村のやつちゃうぞ!?」「スキルだ! 逃げろォ!」
野次馬と化していた村人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げまどう。
「ウッ……ギッ、アァァ……痛いぃぃ……。嫌だッ……嫌です、聖女様……お救いください……」
「いきなり何やってんだ! リメア、大丈夫か!? 一瞬だけ我慢しろッ」
俺はリメアの腹から石のトゲを引き抜いた。穴から血があふれ出していく。
「ウッ……ぎゃあぁぁ!」
「気を確かにたもてよ! ポーションだ、これで楽になる……飲むのは無理そうだな」
ビンに入っているハートポーションの半分をリメアの腹にかけていく。
すぐに腹の穴がふさがっていく。
それで痛みが引いたのか、シスターリメアは落ち着きを取り戻していった。
「こ、これは……!? 上級ポーション……ではない? この色は……」
「飲む方が効くんだ。残り半分は飲んでくれ。もう自分で飲めるよな?」
「は、はい……」
おそるおそるポーションを飲みきったリメアはボーッとした顔で俺を見ていた。
「ポーション……聖女、様を……称えよ……? トラッシュ様……トラッシュ様……トラッシュ様を……称えよ?」
「トラちゃま、危ないッ!」
ガキンッ! という音が俺のすぐそばで聞こえた。
何事かと驚いて振り向くと、地面に座り込んだリメアと俺の目の前に、ゴルちゃんの筋肉質なケツがあった。
近くには石のトゲが転がっている。
あの角刈りの男が、またスキルで岩を飛ばしてきたのをゴルちゃんが盾で弾き飛ばしてくれたのだろう。
この角刈り野郎……こいつはいったいなんなんだ?
わざわざポーションを使って助けてくれたシスターの腹をぶち抜いたあげく、俺まで殺そうとした?
角刈りの男は、血だらけになっていた自身の服を脱ぎ捨てた。
あらわになった上半身はよく鍛えられており、荒事に慣れたにおいがする。
背中には、大きな二重丸の刺青が入っていた。
少し離れた場所で、角刈りに対して警戒態勢をとっていた3馬鹿のデンキウは急に大声を上げた。
「その刺青……! お前、反神連合会かッ!?」
「神扇組……3人とも生きとるやんけ。ほんまに使えへんのう。もうえぇ……お前ら出てこい! 祭りじゃ!」
角刈りは苦い顔をしながら、唐突にそう叫んだ。
こいつはさっきから何を言ってるんだ? ハンシンとか祭りとか。優勝したんか?
男の声を合図にして、村の外からガラの悪そうな男どもがわらわらとやってきた。
男たちは手に武器を持っているが、村の窮地にかけつけた衛兵という雰囲気ではない。
彼らは俺たちの逃げ場をふさぐようにして、周りを取り囲んだ。
そのうちの一人が、角刈りの男に話しかける。
「コンクさん、なんか作戦とちゃいませんか? どういう状況なんですこれ?」
「あの『魔物使い』がしくじりよったんや! 攻撃するんは村の奴らと神扇組だけやて指示したのに、オレまで攻撃しくさりよって!」
「はい!? ちょお待ってくださいよコンクさん、それ全部ネタバレしてもてええんですか……?」
「ハァ!? なにがや? ところで、魔物使いは今どこにおんねん?」
「それが……待機中に気づいたらおらんなってしもて……」
「はぁぁ!? どいつもこいつも……オレのことナメとんかい!!」
『魔物使い』というのはおそらくスキルだろう。
そいつが曖昧猛虎をあやつって、この村にけしかけたってことなんだろうけど、そこまでしてこんな小さな村を襲う理由なんかあるのか?
これだけ人員をそろえているなら、魔物なんて用意しなくてもこの村を蹂躙できたと思うが。
俺が困惑していると、男たちの会話にしびれを切らしたのはデンキウだった。
「反神連合会がなんてことしてくれたんや! ここは神扇組のシマやぞ!? 抗争でもするつもりか!?」
「じゃかましいわ。抗争なんてそんな大それたことするかいや。作戦があったんや作戦がァ」
コンクと呼ばれた角刈りの男がめんどくさそうに語りだす。
「魔物にこの村とお前らを襲わせた後、えぇ感じのタイミングでオレが村人を助けるつもりやった……。そうすれば村の奴らは『神扇組なんてあてにならん! これからは反神連合会にお世話になろう!』って心変わりするやろ? そしたら、抗争なんかせんでも、いつの間にかこっそりシマをひとつ塗り替えられるっちゅう作戦や」
「はぁ!? そんなアホみたいな作戦あるかい! 魔物をけしかけたんもお前らなんやから、村の人らがお前らに感謝するわけないやろが!」
「ん? なんで魔物もオレらの仕業やて、知ってるんや!?」
「お前が今自分で言うてたがな!」
俺たちを取り囲んでいる反神連合会のメンバーたちも頭を抱えている。
「アカン……コンクさんの悪い癖や……普段は冷静やのにキレたらとんでもなく頭が悪くなるからな……」
「クソが……いつのまに情報を抜かれてたんや……。せや! ほな、今の話聞いとったこいつら皆殺しにしたら解決するんちゃうか!?」
「そらそうですけど、コンクさん、あれ見てくださいよ」
反神連合会の下っ端が指さした先には、遠巻きにこちらを見守る村人たちがいた。
さきほどからコンクは大声でしゃべっているので、この距離だとおそらく聞こえていただろう。
「村のもんにも聞こえてたんやったら、そいつらも全員殺したら済む話やろがい!」
「アカンわこの人……そんなんしたらいよいよ神扇組と全面抗争待ったなしやん……。打倒神扇組でやってますけど、今の我々ではまだ直接対決は無理やから、今回の作戦をたてたんちゃいますのん……?」
「黙れ!」
「ゴペッ!?」
コンクは顔を真っ赤にして、またスキルを使った。
彼の手から発射された石槍が、さきほどからツッコミをいれていた下っ端の顔を貫いた。
顔の上半分がなくなっている。もうポーションなんざ使っても無駄だろう。
「まだ文句言うやつおるか?」
「「「……」」」
「よし、お前ら村のやつら全員殺してこい。神扇組とおまけのアホどもはオレ一人でじゅうぶんや」
「「「は、はいっ!」」」
反神連合会の奴らはすぐさま村人たちのほうへ走っていく。




