第53話
虎ほどのサイズに膨れ上がった猫は、まっすぐにゴルちゃんへ向かって行く。
前脚でゴルちゃんに殴りかかる虎。
ゴルちゃんは股間の盾を振り上げて虎の脚を弾いた……! と思った次の瞬間には、また盾は股間の前にセットされていた。死守すんなよ……。
スキルで上昇した身体能力のすべてをチン〇と乳首隠しに使う。
それがゴルちゃんの戦闘スタイルだ。
常人ならそのチ〇ポを視界におさめることはできない。
「トラちゃま、見たァ!?」
「ナニをだよ!? 命と羞恥心どっちが大事なんだよ……集中しろ!」
虎は油断ならない相手と理解したのか、ゆっくりとゴルちゃんの周りをまわりはじめた。
グッと身を縮めた虎は、大口を開けてふたたびゴルちゃんに向かって飛び込む。
「グアゥッ!」
「シィッ!」
ゴルちゃんは身をねじり虎をよけながら、乳首を隠していた剣を一瞬だけ前後させ、虎の喉を突き刺した。
もちろん、その直後には乳首ポジションに剣がセットされている。
「グギャブッ……グル、ル……」
「ふぅ……いっちょあがりねぇ~。それよりトラちゃま、見えたァ!?」
乳首がか? 見えなかったし見たくねぇよ。
それよりケツを隠せや。穴まで見えてんだよ。
「おい、まだまだ来てるぞ! ゴルちゃん、デンキウ、そっちは頼んだ」
とりあえず、戦闘は3馬鹿とゴルちゃんで大丈夫そうだな。
何匹か村の村の奥へ抜けていった魔物はブレイクがちょっかいを出しながらうまく引きつけている。
そのおかげもあって、村人はだいたい避難できたようだ。
ケガ人は?
あたりを見渡すと、一人おっさんが倒れている。
血がだいぶん出ている。重傷だ。
それ以外のケガ人はちょうど、タンテとお嬢が近くの家まで運び込んだところだった。
「お嬢! こいつも運べるか!?」
「いけますわよ! でも、そのお方、血が……」
「そうだ、血が出てる! タンテはこっち来るなよ!」
「ごめんボス……!」
タンテの仕事はいったん終わりということで、村人と一緒に民家の中に入ってもらった。
そして、お嬢と俺で、重傷のおっさんを別の民家へ運びこんだ。
「このおっさん……」
「どうしたんですの?」
「あぁ、こいつも俺たちと一緒の宿に泊まってた奴だ。運が悪いな。もう少しはやく村を出てればこんな目にあわなかったろうに」
さっき宿屋の入り口ですれ違った奴だ。
この角刈りとガタイは間違いねぇ。
運び入れた家の中にいた村人に応急処置を頼み、ふたたび俺は外へ出た。
転がっているのは、死体、死体、死体。
もちろん魔物の死体だ。
3馬鹿もゴルちゃんも多少ケガをしているものの無事だった。
ゴルちゃんは相変わらず、盾を使うときは片足をあげてチ〇ポを隠し、剣を使うときは極端な前傾姿勢で乳首を隠し……まあとにかく、無駄な動きが多すぎるものの、まだ余裕がありそうだった。
3馬鹿のほうは……ガリとデブはそこまで強くないように見えるが、リーダーのハゲは剣の扱いがなかなか様になっている。
もしかしたら剣に関するスキルを持っているのかもしれない。
俺は、3馬鹿とゴルちゃんが仕留め損なった魔物を木刀でぶっ叩いてとどめをさしていく。もちろんすでに瀕死でヘロヘロのやつだけね。
万全な状態の曖昧猛虎なんて俺が倒せるわけない。
小一時間ほど戦っていただろうか。
ついに魔物の波がおさまった。
「終わったか……。ゴルちゃん、大丈夫か?」
「まだまだイケるわよっ。もう変身解除してもいいかしらね」
「どうだろう、まだ警戒したほうが……あっ、そういやケガ人がいたな。あいつどうなったんだ」
事態がおさまったことを察したのか、村人たちがおのおのの家から出てきはじめた。
角刈りのおっさんを運びこんだ家からも女性が出てきて、
「誰か助けて! この人もう死んでまうかも!」
と助けを求めている。
村の男たちが、角刈りを家の中から道ばたへ運び出した。
「誰か治療院からもらった傷薬とか持ってへんか!?」
「そんなんで治るケガちゃうやろ! 教会のポーションでもないと……」
「あんな高級品持ってへんわっ」
どうする?
俺の腰には、エピスの作ったハートポーションが1本ある。
これを使えば、あの角刈りが死ぬことはないだろう。
副作用がちょっと気になるが、回復力はばつぐんだ。
だが……正直、見ず知らずのおっさんのために使うような代物ではないんだよなぁ。
この後、うちのメンバーの誰かがケガしたときのために取っておきたいし。
俺がうだうだ悩んでいるあいだに、お嬢とタンテも集まってきた。
「よう、無事か?」
「えぇ、トラッシュもおケガはないようですわね?」
「ひぇぇ……どこもかしこも血だらけだぁぁぁ!」
「おっと、また気絶しやがった。お嬢、ちょっとタンテを頼む」
「わかりましたわ」
見ず知らずのおっさんではあるが、目の前で死なれるのは目覚めが悪い。
ちょっともったいないけどハートポーションを使ってやるかと思って、角刈りに近づくと、そこにはさきほど食堂で会った新光終教のシスターリメアがいた。
「おぉ、あんたも無事だったか」
「はい。宿のほうまでは魔物が来なかったので。それより、こちらのお方は死にそうですね?」
「そうだった! おい、みんなどけ! 俺がポーションを使う」
村人たちをかきわけて角刈りの横でしゃがみこむ。
ポーションは飲ませるのが一番いいけど、傷口に直接かけても効く。
気を失ってる角刈りに口移しはしたくないし、ぶっかけスタイルでいいだろ。
バシャッ!
角刈りの胸から腹にかけてざっくりと切り裂かれていた傷にポーションがかけられた。
傷はみるみるうちに治っていく。
そうそう、こんなふうにバシャっとね?
って誰だ!? 俺はまだかけてねぇぞ?
「神は死んだ。でも、大丈夫。聖女様がこのポーションをお作りになられたので。聖女様を称えよ」
ポーションを使ったのは当たり屋……もとい、シスターリメアだった。
やり方はどうであれ、角刈りの命はつながった。
この血の量だと、下級や中級のポーションだとどうにもならない。
おそらく彼女が使ったのは上級ポーションだろう。
「ところでトラッシュ様。あなたもポーションをお持ちのようですね。しかもこの大ケガにも効くほどのものを? 少しお見せいただいても?」
ま、まずい……!




