第50話
一応、身体能力も向上するが、こちらも未完なので、父親ほどのパワーアップはできていないらしい。それでも、俺たちから見るとかなり強いんだけどな。
まぁ、とにかくそんな感じのリスクがあるスキルだから、非常時以外には本人も使いたくない。
俺たちだって使って欲しくないと思ってる。今回みたいに逮捕されるから。
「ちゃんとチ〇コは隠したんだろうな?」
「んま、ひどい! 乳首とチ〇コは死守したわ」
乳首はいいんだよ、とぼやきながらタンテに目で問うと、
「虎と戦ってる間も乳首とチンチ〇は出てなかったよ。お尻は丸見えだったけどね」
ゴルちゃんはレディだから乳首も隠したがるのがやっかいだ。
もし、チ〇コだけでいいのなら、盾でチ〇コを隠して、右手の剣で戦えばいい。
ところが、乳首も隠したい。となれば剣を使うしかない。
つまり、剣で乳首を隠し、盾でチ〇コを隠した状態で戦わなければならない。
あまりに不利だ。だが、それが彼の戦闘スタイルだった。
もちろん、右手も左手もそれでうまっているので、尻を隠す手段はない。
尻よりも乳首を隠すことがゴルちゃんにとっては大事なのだ。
スキル発動後に服を着ればいいじゃないかと思うかもしれないが、なぜかスキル発動中はスキルで出現したアイテムしか身につけることができないらしい。
彼の父親もまた、鎧の下は全裸なのだろう。かわいそうな一族だ。
とにかく、街中で魔物が何匹も現れたのだから、すぐ騒ぎになり、誰かが衛兵を呼んだのだろう。
ゴルちゃんが魔物を倒しきったタイミングであらわれた衛兵が目にしたのは、全裸に剣と盾だけを持った長身の男だ。完全にイカれてる変態野郎である。街の平和を守るため、逮捕するしかない。
フラウスであればもう少し事情を聞いてくれたかもしれないが、ハンサイということもあり、適当な取り調べのあと、あの牢屋にぶち込まれたのだとか。
「まぁゴルちゃんが裸にならざるを得なかったのはわかったけどさ、そもそもそんな街中に魔物がいるのはおかしくねぇか?」
「そういえばそうね……衛兵も驚いてたわ。こんなことめったにないって。大きくなる前はかわいい猫ちゃんだし、誰も気づかなかったんじゃないかしら」
パコ焼きで腹ごしらえをした俺たちは、フラウス王国への帰路についた。
その日のうちにハンサイ国境をこえることはできなかったが、夜になる前にハコという名前の小さな村までたどり着けたので、今晩はここで宿を借りることにした。
第一村人のおばちゃんを発見し、宿の場所をたずねると、
「ここをバーッとまっすぐいって、グッって右まがったとこにドーンでっかい建物があるわな? そこが宿や!」
「お、おぉ……よくわかったよ、行ってみる。おばちゃんありがとな」
「おねえさんや!」
バーッと行って、グッとまがるとドーンとでっかい建物があった。
小さい村だが、俺たちみたいな旅人が泊まるので需要があるのだろう。
宿に入ると受付におっさんがひとり座っていた。
「はい毎度いらっしゃいやっしゃー。泊まるんか? 何人や?」
「4人と馬が1匹だ。空いてるかい?」
「なんやぁ、また大所帯やなぁ……商売繁盛で嬉しいんやけど、今は他のお客さんもいっぱいでなぁ。ちっこいひとり部屋しか空いてへんわ」
「そうなのか……女がひとりいるんだ。彼女だけ部屋を借りたい。他の3人は男だから馬小屋でもいいから、寝かせてくれないか?」
「おう、それやったえぇで」
料金をちょっと負けてもらい、お嬢以外の俺たちは馬小屋へ入った。
ブレイク以外に馬が一匹いた。
ブレイクが近づくとおびえるように後ずさったが、俺が『翻訳』を使って説得し、なんとか落ち着かせた。
十分なスペースが余っていたので、俺とタンテとゴルちゃんは疲れていたこともあり、すぐに眠ってしまった。
次の日の朝、起きて宿の一階にある食堂で飯を食うことにした。
「ブレイクはすまんが、これでも食っててくれ」
「気にするな。ジェットニンジンには劣るけどなかなかいい味してるゼ。この馬にも1本あげていいかい?」
「ああ、2本でも3本でもくれてやれ」
ブレイクは馬体なので、店に一緒に入れないことがよくある。
そんなときは、少し高めの野菜とかを買ってやることにしている。
今回も、ゴルちゃん解放後に街で高めのニンジンを買っておいたので、俺たち人間チームが飯を食ってる間は、厩舎で待機だ。
俺たちが宿の食堂に入ると、一人の男が入れ違いで出て行くところだった。
「ごっそさん。おやっさん、ちょっと出てくるわ」
「はいよぉ」
角刈りでガタイのいい男は、俺たちをチラリと見ると、一瞬立ち止まったが、その後すぐ宿の外へ出ていった。
「おっちゃん、俺たちにも朝飯くれ」
「おはようさん、よぉ眠れたか? 飯はちょっと待っといてんか」
「慣れてるから爆睡だよ。お嬢もちょうど起きて来たな。あいつのぶんも飯頼むわ」
「はいよぉ」
宿の階段を降りてきたお嬢は、朝から髪の毛はバッチリくるんくるんだった。
寝癖もなく、顔のむくみもない。やっぱり黙ってれば綺麗なんだな。
「みなさまがた、おはようございますわ。シェフ、今日の朝ご飯はなにかしら?」
「ハンサイケーキやで、お姫様」
「まぁ、朝から贅沢ですこと。ワタクシ、ケーキは大好きでしてよ?」
お嬢は俺、タンテ、ゴルちゃんが座っている机にやってきて着席した。
俺たちのいる机とは別にもう一つ机があり、そこにはひとりの女が座っている。
女は、頭から肩にかけて黒いヴェールを被っており、ヴェールの下には栗色で少しくせのある髪がおさまっている。
長袖のワンピースも真っ黒で、俗に言うシスターのような格好である。
そして、首からは、四芒星をあしらったペンダントをぶらさげている。
あのシンボルは……新光終教の修道女じゃねぇか……クソめんどくせえ。
俺は引きつる顔を手で隠しながら、女と目が合わないように向きを変えた。
世間一般に、人々が『教会』と呼ぶ組織の母体が新光終教である。
なにがめんどくせぇって、こいつらは隙あらば勧誘をしてくるんだよな。
「よい朝ですね」
……。
「よい朝ですね」
……。
「よいあ」
「RPGの村人かテメェ!」
「はて?」
こんなふうにね。勧誘というか当たり屋じゃねえか。
「神は死んだ。不安ですよね? そこで聖女様の登場です。聖女様を称えよ」
「下手すぎるだろ勧誘が!」
「はて?」
いつの間にか俺の近くにイスを持ってきていた女は、しれっと俺らの机に混じっていた。




