第49話
「ゴルちゃん、勘弁してくれよ……」
檻に飛びついてきたゴルちゃんの整った顔を見上げる。
まつげが長いし鼻も高い。
女装したら似合う気がするけど、髪は短い。
ゴルちゃんは今の見た目がいいらしい。
うちのメンバーは変な奴に寛容なので、ゴルちゃんのそのままのキャラと姿を受け入れている。
ただみんな馬鹿なのでジェンダーとかそういったことは深く理解していないと思う。
俺も一応、ゴルちゃんはレディだと思って接している。
どうやら衛兵たちの話がついたようだ。
案内人は監視役へ向かって「先輩、今回はワシがやりますわ」と言った。
そしてニヤニヤしながら俺とゴルちゃんを見た。
「お兄ちゃん、まだ出れるわけちゃうで? 保釈金100万ギル払ってもらおか」
「100万!? 暴利だろ!」
「そうよそうよ! ここはオークション会場じゃないんだから、いくらアタシが美しいからって値段がつり上がることはないはずだわ!」
「誰がお前みたいなデッカいオカマ買うねん! ちゃうちゃう……お前らフラウスの人間やろ? ここはハンサイやで。ハンサイにはハンサイのルールっちゅうもんがあんねや」
衛兵は手で輪っかを作って揺らした。
クソッ、また賄賂かよ。ハンサイもたいがい腐ってんな……。
それにしても100万は無理だ。
今回持ってきた金は30万程度。
普通は5万から10万ギルですむはずだから、これでも多めに見つくろってきたのに。
いっそのことハリセンを渡してみるか?
いや、意味が無い。
ハリセンなんてほしがるのはドクソンか、神扇組の3馬鹿トリオくらいなものだ。
俺はカバンの中をあさるふりをしながら『ゴミ箱』をあさった。
そして、選んだのはこちら。
――――――――――――――――
タコ焼き器(故障)
家庭用タコ焼き器
回線に故障があり使用不可
針ひとつあれば世界はひっくり返る
半分が壊れても裏返せばなかったことになる
――――――――――――――――
「仕方ない、衛兵さん、あんたにとっておきの物をやろう」
「なんやそれ? 見たことない形状やけど……その上の鉄板はもしかして」
「そう、ハンサイ人なら一家に一台は持ってるっていうパコ焼き器だよ」
「ホンマか!? でも、その鉄板の下についてるやつはなんなんや?」
この部分は故障中だ。修理できないし、そもそも電気を使う技術がない。
必要なのは鉄板部分だけか。
「フンッ!」
バキィ! と無理やり鉄板だけをはがし取った。
「おい、兄ちゃん! なにしとんねん!」
「大丈夫、この鉄板さえあれば十分だろ? あんたはこれでパコ焼きを極めろ」
「お、おう……って、なんやこの美しい曲線は!? こんな鉄板見たことないぃぃ!」
先輩、見てくださいや! と衛兵たちは鉄板を上からも下からも鑑賞している。
やはりハンサイ人ならその価値がわかるだろう。
パコ焼き用の鉄板は存在するが、この世界の技術力では、あそこまで完全な球体を作れるフォルムはまだ実現されていないはずだ。
「お前がなるんだよ、ハンサイで一番のパコ焼き職人にな」
「せやな……ワシ、ホンマは衛兵やのうてパコ焼き屋になりたかったん思い出したわ。兄ちゃん、おおきに! てことで、先輩、おれ今日で衛兵やめますわ!」
「おおおい、ちょっと待たんかい! なんでやねん!」
彼の進路が少し心配だが、あのパコ焼き用鉄板を使えば、天下を取れるだろう。
そのときは、パコ焼きをおごってくれよな?
パコ焼き器のおかげで、結局ゴルちゃんは10万ギルで釈放された。
心を入れ替えた綺麗な衛兵くんが教えてくれたことには、本来10万ギルが正規の料金らしい。
10倍ぼったくるつもりだったのかよ。あのパコ野郎ぶち殺すぞマジで。
「今から鉄板奪い返しに行ってやろうか……!」
「トラちゃま~、アタシお腹が空いたわ~。あそこロクな食べ物だしてくれないんだもの~」
「ゴルケス、てめぇこんにゃろう、いい度胸じゃねぇか。お前のせいで俺たちはわざわざここまでやってきたあげく、金まで払ってんだぞ!」
「それがちょっと聞いてよトラちゃま~! ひどい目にあったのようっ!」
ダメだ。腹が減ってるせいかイライラしてきた。
とりあえずパコ焼きだな!
衛兵くんにおしえてもらったオススメのパコ焼き屋で、ハフハフしながらゴルちゃんから事情をヒヤリングする。
「あっちぃですわ! でもフワフワで中にコリコリが入ってて、おいしいですわねぇ」
「ヤケドには気をつけろよ。中のコリコリがオクトパコだ。うまいだろ?」
「この上にかかってるやつがボスの言ってた黒ソースかぁ。これもいい味出してるね。ぼくも好きになったよ、パコ焼き」
お嬢もタンテもおいしそうに食ってくれてる。
連れてきたかいがあったってもんよ。
「それで、ゴルケスさんよう、たしかタンテに聞いた話だと魔物に襲われたんだって?」
「ゴルケスなんてかわいくないっ。ゴルちゃんって呼んで! それで魔物の話よね……」
ゴルちゃんの話すところによると、この街にもスラムのように治安の悪い場所があるらしい。
そこの近くを通りかかったところ、とある一匹の猫にすり寄られたのだとか。
「それがもう、かわいくてかわいくて、アタシついつい追いかけちゃったのよねぇ」
猫はゴルちゃんとタンテを誘うようにして、とある空き地へと入っていった。
そこでは猫の集会が開かれていたらしい。
「最初は2、3匹くらいだったのよ? でも、アタシたちが猫の集会にお邪魔してからちょっとしたら、草むらからどんどんどんどん猫ちゃんが出てくるのよぉ! もうかわいすぎなぁい?」
「そりゃかわいいけど、結局魔物だったんだろ? そいつら」
「そーなのー! アタシが油断したのを見抜いたのか知らないけど、急におっきくなっちゃってさぁ! そっからはもう、ワーッてなっちゃって、もうキャーッよっ!」
そんなかわいい絵面じゃねぇだろ。
ギルドでオクタが教えてくれた名前はたしか、曖昧猛虎。
普通サイズの猫が虎みたいなサイズになって襲ってくるんだっけか。
タンテを守りながら、何匹もの虎を倒すとなったら、さすがにスキルを使う必要があるのは理解できる。
だが、こいつのスキルはなぁ……。
「使っちまったのか、『変身』を」
「そうよ。スラムだったし娼婦もちらほらいたもの。裸の女の1人や2人増えたところで誰も気にしないでしょう?」
「男がやったら一発アウトなんだよ!」
ゴルちゃんのスキルは『変身(未完)』。
使うと、本来であれば全身が鎧につつまれ、右手には剣が、左手には盾が出現する。
しかも身体能力も向上し、その武装と力で無双できるような激レアスキルだ。
なんでも、代々ゴルちゃんの一族に発現するスキルらしく、彼の父親なんかは、このちゃんとした変身を使えるし、めちゃくちゃ強いらしい。
ところが、ゴルちゃんが使えるのは『変身(未完)』。
未完というただし書きがついている。
彼が変身すると、剣と盾は出現するが、鎧は出てこない。
出てこないのに、そのとき着ている服がどこかへ消えてしまう。
つまり、スキルを使うと全裸に剣と盾だけ持った変態が誕生するというわけだ。




