第47話
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ピヨピヨハンマー
ヒヨコマークがあしらわれた黄色いハンマー
叩くたびにヒヨコの鳴き声が聞こえるよ
卵を産まないからオスはいらないと言った
彼女はオスのヒヨコをすべてハンマーで叩き潰した
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「なに!? 今どっから出しよった!?」
「そでに隠してたんだよ」
スキル『ゴミ箱』の仕様として、出すときは手から出るし、収納するときも手で触れる必要がある。
そのため、ハゲたちからすると、イスにしばりつけられた俺の手にいきなりピヨピヨハンマーが現れたように見えただろう。
ハゲは俺の手からもぎ取った黄色いハンマーで自分の手を叩いて固さを確かめる。
『ピヨピヨ』
「なんやぁ? 鳥の鳴き声が出るんか? こんなふざけたもん……いやでも固いなぁ。ええやん、これでいこ」
「ア、アニキ……ほんまにやるんですかい?」
「アニキびびってる? オデがやろうか?」
「じゃかましわい! お前ら、こいつの手ぇ開かせて、指叩けるようにせぇ」
「ぐっ……やめろ!」
俺はとっさに手を固く握りしめたが、二人がかりで無理やり指を伸ばされた。
ピヨピヨハンマーをふりあげるハゲ。
狙う先は俺の指。
指は絶対痛いだろうが!
待て待て待て……!
なにかないか……なにかこの状況を打開できるゴミは……!
俺は頭の中の『ゴミ箱』リストから高速でゴミを探す。
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血のりング
とあるB級映画の撮影用に作られた
指輪を装着すれば、体の任意の場所から血のりを出せる
量の調整ができずお蔵入りとなった
枯れることのない泉の底には
今でも血を流し続けるイリイェの民が沈んでいる
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押さえつけられている右手とは逆の左手側にリングを出し、片手でなんとか指にはめることができた。
その直後に振り下ろされるハンマー。
右手人差し指に走る激痛。
「ぎゃあああぁぁ!!」
人差し指からほとばしる、とんでもない量の血しぶき。
「「「うわぁぁぁ!?」」」
ハゲデブガリの3馬鹿たちは、俺の指から噴出した血のりでたちまち血まみれになっていく。
なんだこれ。本当に血のりだよな?
もし俺の血だったら出血多量で死んじまうぞ?
「ぷえっ! ぺっぺっ! なんやねんこれぇ!?」
「アニキぃ、いきなりやりすぎやないですか!? こいつ死んでまうんちゃいます?」
「アホ! ハンマーでちょっと小突いただけやど? こんなに血ぃ出ると思わんやろが! おい、お前どんな体質しとんねん!」
次は目から血を出してみる。
プッシャー!! と目の前が真っ赤になった。
「「「うわぁぁぁ!?」」」
「俺は血が出やすいタイプなんだよぉ……こんなに出たら死んじまうよぉ……」
「血涙まで流しよってからに……どんだけ拷問に弱いんやコイツ。まだ指一本やぞ……? それとも、このハンマーがヤバイ武器なんか? ハッ!? もしかして……これがハリセンいうやつなんちゃうか!?」
「アニキ、さすがや! おい、どやねん、これがハリセンか?」
もうそれがハリセンってことにしちゃおうかな……。
でも、そう答えた瞬間に用なしになって殺されるかもしれないし……。
「はよ答えんかい! アニキ、もう一本くらいいっときましょ! 次は中指とかどないでっか?」
「え? い、嫌や! また血まみれになるやんけ! 次はお前がやれ!」
「うぇ? アッシも嫌ですわ……! ブ、ブータン、お前がやったらんかい!」
「オ、オデ? オデも嫌なんだけど……」
ピヨピヨハンマーをデブに押しつけて、ハゲとガリは少し離れた場所へ移動した。
デブは目をぎゅっと閉じながらハンマーを振り上げたあと、ブオンッと振り下ろした。
オロロロロロロォ!
デブとタイミングを合わせて、俺はマーライオンのごとく吐血した。もちろん血のりだ。
「「「うわぁぁぁ!?」」」
あれ? でも、今度は全然痛くなかったな、と思って指のほうを見てみると、ハンマーは指から10センチくらい離れた空中で止まっていた。
コイツ……まさかフェイク!?
クソッ……動けるだけじゃなくて頭も切れるインテリデブかよ。
目が合ったデブは困惑の表情を浮かべていた。
「オデ、まだ叩いてない。それなのに、こいつ血を吐いた。アニキ、こいつおかしいと思う……」
バレた。マズい、今度こそガチの拷問が始まっちまう……!
なんとか逃げる方法はないかと、ふたたび頭を高速で回転させ始めたそのとき、救いの女神があらわれた。
「トラッシュ! 助けに来ましたわ~、って血まみれですわ!?」
「お嬢!?」
倉庫のドアをつきやぶってあらわれたのは、ブレイクにまたがったお嬢とタンテだった。
そして、もう一匹の馬にまたがってあらわれたのは衛兵のオクトプスである。
オクトプスは俺とハンサイギャングたちを見るやいなや、
「なんじゃこの血は!? この量だと即死……トラッシュは殺られたか……」
いや生きてるが。
「そのハンマーが凶器じゃな!? おのれ貴様ら……現行犯で逮捕じゃ!」
デブは目を丸くしてピヨピヨハンマーを投げ捨て、ハゲとガリのほうへ走り寄る。
「チッ、衛兵はアカン……お前らズラかるで!」
「「へいアニキ!」」
「おいトラッシュ! ハリセンはあきらめへんからなぁ! 今日のところはこのへんで勘弁しといたる!」
3馬鹿トリオはそう捨て台詞を吐いて、逃げていく。
オクトプスはそのまま3馬鹿を追いかけて倉庫から出て行った。
「トラッシュ、死なないでくださいませ!」
「いや、これは本物の血じゃないから心配すんな。俺は無事だ」
体をしばりつけていたヒモをほどいてもらい、ハンマーで叩かれた指を確認したところ、まだ痛むものの骨が折れたりはしていないようだった。
アジトへの帰り際、オクトプスがやってきて、「すまん取り逃した!」と謝ってきた。
「いや、ギャング同士の争いなんだから旦那が気にする必要ねぇよ。ま、礼は言っておく。ありがとよ」
あの3馬鹿、逃げ足だけは速いらしい。
そういえば拉致される直前の戦闘でも、いつの間にかギルドタグをスラれてたり、動けるデブにタックルされたりと、結構やっかいな奴らだった。
本気で殺しにきてたら負けてたかもな。
腐っても神扇組といったところだろうか。
ようやっとアジトに帰り着いたら、もう夕方だった。
「みんな、今日はありがとな」
「ぼくは何もできなかったよ……」
「タンテはもっと自信もて! おまえのおかげで俺の場所がわかったんだろ?」
「そう、だね……でも、それだってフラウがたまたまボスのタオルを……」
「ああああぁぁぁぁ!!!!」
「うおわぁ!? なんだ!? どうした、お嬢!?」
「なんでもございませんわぁぁぁ!? ゴホン……それよりもトラッシュ。今日はもうお疲れでしょう、お休みになっては? 明日から長旅ですし」
「お、おう……なんだ? 本当に大丈夫か?」
お嬢の奇声も気になるけど、そういえば本題はゴルちゃんだったな。
拉致られてめちゃくちゃになったけど、本当はゴルちゃんを迎えに行くための準備をしたかったんだ、今日は。
幸い俺が拉致られたのは買い物が全部終わった後だったので、準備は完了している。
明日もはやいし、とっとと寝るか……。




