第45話
~ ブレイク&タンテ side ~
「なにやっとるかぁ! こいつは……トラッシュのとこのブレイク……!? またお前か……って、血が出とるではないか! なにがあった?」
「はッ……!? オレはいったいなにをやっていたんダゼ……」
市場で襲われていたトラッシュを助けようとしたものの、ハゲた男に斬られた痛みで我を忘れていたブレイクは、かけつけた衛兵オクトプスの声で我に返った。
傷は浅かったようで、冷静になってみると痛みも引いてきている。
「そうだ、ボスは!?」
3人組の男たちが去った方向に目をやったが、すでに姿は見えない。
今からあてもなく追っても追いつけないだろう。
「なんだ、なにがあった? ギャングがさわぎをおこしているとしか聞いとらんから、なにがなにやら」
「オクトプスの旦那、今回はオレたちは悪くないゼ。急に襲われたあげく、ボスが拉致されちまったんダゼ」
「なにぃ!? ただごとではないな。すぐに追うぞ、どちらだ!?」
「待ってくれ。やみくもに追うより、いったんアジトで体勢をたてなおすんダゼ。すまないが、そこのタンテをアジトまで運ぶのを手伝ってくれないか?」
顔を真っ赤にして今にも走りだしそうなオクトプスをなだめたあと、彼にタンテをおんぶしてもらって一緒にアジトまで向かった。
「ブレイク、血が出てますわ! なにがあったんですの? いえ、それよりエピス」
「はぁい、ポーションをかけるよぉ」
エピスの処置ですぐに傷はふさがった。
みんなのさわぐ声でタンテもすぐに目を覚ました。
「うん……? あっ! ぼくまた気絶しちゃったんだ……ボスは!?」
「すまんタンテ。オレがついていながら、ボスは奴らに連れて行かれちまったんダゼ」
「そんな!? あいつらはいったい誰なの?」
「オレも知らないんダゼ。でも確かあの変なしゃべり方はハンサイ人のはず……オクトプスの旦那は、このあたりで活動しているハンサイ人のギャングに心当たりはあるかい?」
「ハンサイ人か……いいやぁ、知らんぞ。あいつらは故郷愛が強いからのう……こっちに腰をすえて活動するやつなんて、なかなかおらんのではないか?」
他のメンバーたちも心当たりがなさそうだった。
「そのあたりの詳しい事情は、ボスを取り戻してから考えようゼ。タンテ、追跡を頼むんだゼ」
「わかったよ! なにかボスのにおいがついたモノないかな?」
全員でボスの部屋に侵入した。
ボスなのに小さな部屋だ。
ベッドと小さな机とイスの他には、花瓶くらいしかない。
花瓶にはフラウからもらったのか、花が一輪さしてあった。
「ダメだ……ボスのにおいが薄すぎて追えない」
タンテはさっそくスキル『線嗅眼』でにおいの線を探したが、ベッドシーツや枕についたにおいが薄かったらしい。
「ボスはギャングのくせに綺麗好きだからねぇ。汗をかいたまま寝たりしないし。そういえば昨日ボスのシーツを洗濯したのはフラウだよねぇ?」
エピスがそうたずねると、
「はいぃ!? そうでしたかしらね!? 洗濯なんてワタクシしてましたかしら!?」
フラウは顔を真っ赤にして、そう答えた。
暑いのか手でぱたぱたと顔をあおいでいる。
「……してたよ? ボスのシーツとか。確かボスが使ってたタオルも受け取ってたよね?」
「タタタタタオルゥ!? なーにを、なーにをおっしゃってるのかワタクシわかりませんわ!?」
異様なリアクションに、『神のゴミ箱』メンバー全員が白い目でフラウを見ていた。
「フラウ、なんだかよくわからないけど、今は一刻を争う事態なんダゼ。なにか隠してることがあったら白状するとイイゼ」
「ブレイク……う、うぅぅ……わかりましたわ! ちょっとお待ちくださいませ!」
半泣きのフラウはついに観念したのか、そう叫ぶやいなや、ボスの部屋から出て行った。
その様子を見て、他のメンバーが首をかしげていると、またすぐにフラウが部屋へ戻って来た。
その手にはタオルが握られていた。
「はい、これがトラッシュのタオルですわ! これは……これはまだ洗っていませんので!? タンテのスキルで追えるのではないかしらね!?」
タンテは押しつけられたタオルを受け取りながら、首をかしげる。
「洗ってない……? 昨日、いろんなものを洗濯してたのに、それだけ洗わずにおいていたの? 変なの。ま、いいや、とりあえず線嗅眼!」
いつものように、空中で手を動かしながら、そしてなにやら変な言葉をつぶやきながら、作業を進めるタンテ。
その様子を横目にして、エピスが何かに気づいたようだった。
「フラウぅ……まさか、あえてタオルを洗わずにこっそり確保しておいて、ボスのにおいを楽しんでいたのかなぁ……?」
「エピスー!!?? 言っていいことと悪いことがありましてよ!? そんなことする、する、するわけないじゃございあせんことぉ!?」
ぽぽぽん、とフラウの頭から赤い花が咲いた。
あ、やってたなコイツ。
フラウ以外のメンバーは心の中で全員理解した。
嘘をつくとスキル『お花畑』が勝手に発動して頭から花が咲く仕様なのは、フラウ以外の全員が知っていることだった。
「フラウって、ちょっと気持ち悪いゼ……」
「ああああぁぁぁぁ!!!!」
ブレイクのつぶやきに心を破壊されたフラウは叫びながら部屋を出て、そのままアジトからも出て、どこかへ走り去ってしまった。
「よーし、ビンゴ! みんな、見つけたよボスのにおい! って、あれ……? みんなどうしたの? それにフラウは?」
「なんでもないゼ。それより、タンテ、オレの背中に乗ってくれ! オクトプスの旦那も……オレたちはギャングだけど、ちょっと今回は力を貸してほしいゼ」
「お、おう……お前らこの非常時にアホなのかと思ったが、ちゃんと追跡はできるんだな? まかせとけい、ワシの仕事じゃ」
いざ救出へ向かおうとアジトの外へ出たところで、フラウが戻ってきた。
「トラッシュの救助に向かうのですわね!? ワタクシもつれていってくださいなっ」
「頭は冷えたんダゼ? でもさすがに3人乗せるのは厳しいゼ。スピードが出ない。フルスピードで走るのがオレの……」
「あぁ、フラウの嬢ちゃんを乗せたったらえぇ。ワシは自分の馬がある」
オクトプスが口笛を吹くと、どこからともなく馬が走り寄ってきた。
その馬にひらりとまたがったオクトプスはブレイクにうなずく。
「よし、なら二人はオレに乗ってくれ。行くゼ!」
タンテとフラウを背に乗せたブレイクは、街中を超特急で走り出した。




