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第42話

 穴をくぐって、壁の外へ出ると、草原が広がっていた。

 そのままタンテの案内でしばらく走ると大きな川にたどり着いた。


 王都の東側に流れるノワール川である。

 ゆったりと流れる大きな川は、魔物に気をつけさえすれば観光名所といえるだろう。


「おい、まさか……川の中にいるってのか!? 溺れちまったのか……?」


「いや、違うよ。レントくんのにおいは水の中じゃなく、あそこに続いてるんだ」


 タンテが指さしたのは、川の真ん中くらいにぽつんとある中州なかすだった。

 半径数メートルくらいの小島があり、背の高い草が生い茂っている。


「なんだ、びっくりさせんなよ……でも、ここからじゃ人の姿は見えないな」


「あの草の中にいるのかな? あそこまでどうやっていこうか、ボス」


 あたりを見渡しても船なんてない。

 俺の『ゴミ箱』にも船なんて入っているわけがない。


「泳ぐしかねぇだろうな」


「ぼ、ぼくは泳げないよ!? ボスは泳げるの?」


「おう、バタフライもできるぜ?」


 前世では子供の頃、スイミングスクールに通っていた。

 『溺れたときのために』と親が習わせたらしいけど、溺れる経験なんてめったにあるわけがない。

 役に立たないだけでめんどくせぇなと思っていたけど、まさか役に立つ日が来るとはな。


 ただし、プールで泳ぐのとはわけが違う。

 流れもあるし、底に足がつかない。怖いな。

 ひとまず俺は服を脱いで、パンツ一丁になった。


「ボスなにやってんの!? ゴルちゃんじゃないんだから裸にならないでよ!」


「馬鹿野郎! 泳ぐときに服を着てたら沈むんだぞ! 海をなめるんじゃねぇ!」


「川だよ……」


 あとは……せめて命綱みたいなものがほしい。

 しばらく『ゴミ箱』を探してみたが、長いヒモはなかった。


 しかし、ある直感が、このアイテムを使えと教えてくる。

 その直感にしたがい俺が出したのは、黒いシルクハットだった。

 赤いリボンがあしらわれており、手品師がよく被っていそうなデザインである。


 ――――――――――――――――

 マジック・マジック・シルクハット


 110系列世界にて、手品魔法マジック・マジックの使い手によって残された帽子

 被ればあら不思議、今日から君もマジシャンだ!

 タネも仕掛けもありません


 指を鳴らせば煙草が増えた

 世界のどこかで煙草が消えた

 ――――――――――――――――



 パンツ一丁でシルクハットを被る変態のできあがりだ。


「ボス……レントくんの命がかかってるんだよ? ふざけてるの!?」


「大マジメじゃい! ちょっと待ってろ……おぉ、使い方が頭に流れこんでくる……」


 これを被れば、いろいろな手品ができるようになるらしい。

 なるほどな。ヒモを使う手品とかいろいろあるもんね? それで長いヒモを出す感じね。


「ちゃららららら~ん♪」


「なにその歌。やっぱりふざけてるよね? って、うわ! そのヒモどこから出したの?」


「すげえだろ。俺にもわからん。どっから出てきたんだ……こわっ……」


 ヒモを出したいと考えただけで、俺の手には白いヒモが握られていた。

 だが短い。1メートルくらいしかない。命綱には足りない。


 その後、ヒモを切ったり、つなげたりしてタンテをひととおり驚かせた結果わかったのは、短いヒモしか出てこないということだった。

 シルクハットから伝わってくる使い方から察するに、俺の想像力が大事らしい。


 俺が長いヒモを出す手品をリアルに想像できれば長いヒモも出せるらしいが、あいにく長いヒモを使う手品を見た覚えがないので、なかなかうまくいかなかった。


「クソッ! タンテを手品で喜ばしても意味がないんだよ!」


「ボスってすごいんだね! それでお金をかせげるよ。ギャングやめたら? ……ってそんなこと言ってる場合じゃなかった!」


「なにかないか……無限にヒモが出てくるような手品……あっ! これならどうだ?」


 俺は口に手をつっこみ、出ろと念じながら指で何かをひっぱるような仕草をする。

 すると指はいつのまにか細い紐をつかんでいた。

 そしてそれを引くと、


「うわぁ! 今度は何!? 口からいっぱいはたが出てるよ? ちょっと気持ちわるいよ。大丈夫ボス?」


「出たぜおい。口から万国旗!」


 命綱というにはちょっと心細いし、なによりピラピラ大量にくっついてるはたが邪魔だけど、ヒモであることにかわりはない。


 近くに生えていた木に万国旗の端を結びつけて準備完了。


「もし俺が溺れたら、このヒモをひっぱって岸まで釣り上げてくれ」


「見てるだけでオエェってなりそうだけど大丈夫なの? それにちぎれない?」


「大丈夫だ。よし行ってくる」


 口から無限に万国旗を垂れ流しながら、中州にむかって泳ぐ俺。

 スイミングスクールで鍛えあげた平泳ぎで、シルクハットが水につかないようにスイスイと進んでいく。


 数分間、必死に泳いでなんとか中州にたどり着いた時にはヘロヘロになっていた。


「ハァ……ハァ……キツすぎだろ……」


 やっててよかったスイミング。

 息を整えてから、大声で呼びかける。


「レントくーん! 助けにきたぞー!」


 返事はない。

 いや、かすかに泣き声が聞こえる。


 背の高い草をかき分けて中に入っていくと、地面にうずくまって泣いている男の子を発見した。


「いるじゃねぇか……よかった。レントくん、助けに来たぞ。おうちに帰ろう?」


 俺は優しく声をかけた。


「え? 帰れるの……? って、おじちゃん誰ぇ!? こわいよ-! うわーん!」


「おじちゃ……いや、それはいい。おじちゃんは怪しい者じゃないよ? こわくないこわくない」


「うわーん、来ないでぇ! 口からなんか出てるぅ! 変な格好してるし、こわいよ院長先生助けてー!」


「あっ……」


 俺は今一度、自分の姿を思い出した。


 パンツ一丁、シルクハット、口から万国旗。


 数え役満やくまんだ。役満ボディだ。


 泣き叫ぶレントくんをどうやって説得しようか頭を悩ませていると、突然俺のチ〇コが暴れ出した。

 いまにもパンツをつきやぶりそうなくらいに、ブルンブルン揺れている。


「うわぁあああぁ!」


「うわぁぁぁ!」


 ずるんっ! とパンツのすきまから飛び出したのは一匹の魚だった。

 よかった。チ〇コだったら捕まるところだった。


 泳いでいる間に入り込んだのだろう。まったく驚かせやがって。


「……ぷっ、アハハハハ! おじちゃん、おもしろーい!」


「お? おう……ありがとう」


「そのお魚、もらってもいい?」


「え? 汚くない? 別にいいけど、この魚をどうするんだ?」


「猫ちゃんにあげるんだぁ」


 詳しく聞いてみると、レントくんはあのケガをした猫がはやくよくなるように魚をあげたかったらしい。

 だが、おこずかいもないので買うことはできない。

 なので自分で捕りにいこうと考えた。

 正規の入口から出ようとしても止められてしまうので、前に偶然見つけていた壁の穴から出ることにしたのだとか。


 そして、この川までたどり着き、いざ魚を捕ろうとしたら足をすべらせて川に転落してしまい、運よくこの中州に流れ着いて、助けがくるのを待っていたというわけである。



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