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第40話

 『夜空教室よるぞらきょうしつ』とかいうやつらが急に現れたかと思うと、好き勝手言い始めた。


 ギャングはナメられたら終わりだ。

 ここはあおり散らかす方針で決まりだな。


「ギャングの俺が言うのもなんですけどぉ、子供の命が優先じゃないんですかぁ? え? 二日間うろちょろしてたのに、手がかりゼロ!? パーティ名は『お散歩クラブ』でしたっけぇ?」


夜空教室よるぞらきょうしつだ! 貴様……殺されたいのか!?」


「ハァ~? 銀色のタグつけてて、そのセリフは大丈夫なんですかぁ? おまわりさーん、ここに人殺しがいまーす」


「……コ……スゾ……! クソッ! おい、受付! 人手なら白ギルダーで募集をかければいいだろう! この依頼を受けそうな表の人間は他にいないのか!?」


「いえ、ずっと掲示板にはっておりますが夜空教室よるぞらきょうしつのみなさん以外は集まっておらず……それゆえ拙者もこの『神のゴミ箱』へ依頼しようとしていたところでして、はい」


「クソッ……よりによってなんでこいつなんだ……先生もなんでこんなやつをひいきするのか、まったくもって理解できん……!」


 先生ってティーチャーのことだろうか?

 俺は別にひいきされてるわけじゃない。

『ひいき』どころか、拉致されたあげく唐突に怪獣大戦争に巻き込まれて『ひき肉』にされかけたんだが?


 男たちはパーティメンバーでこそこそ相談しはじめた。

 なんか話が長くなりそうだな。

 挑発が足りなかったか? おかわりいっとくか?


「なぁ、あんたらは男4人のパーティなのか?」


「は? ああ、そうだがそれがなにか?」


「いや……男のパーティにしちゃあ、その、やけにパーティ名がかわいらしいと思ってな。てっきり女の子ばかりなのかと思ってたよ。なんで夜空教室なんだ?」


 パーティ名を馬鹿にされるのは一番効くだろう。

 これでブチギレてはやくどっか行ってくんねぇかな。


 ……と思ったのに、なぜか急に嬉しそうな顔をして語り出す金髪の男。


「よくぞ聞いてくれた! まず『夜空』はもちろん先生の髪の色から来ている。濃紺の御髪おぐしの美しさを夜空という言葉に込めている。そして、『教室』は我々が先生の生徒であることを示している。まだ先生と会話をしたことはないが、いつか先生から直接ご指導いただける日を夢見てこの名前をつけた。素晴らしいと思わないか!?」


「お……おう……え? なに言ってんの? つまり、あんたらはティーチャーのファンボーイってこと?」


「その通りだが、そのティーチャーとはいったいなんなんだ! 先生のことは先生と呼べ! それと、昨日は先生とどこへ行ってナニをしていた!? もうクエストなんてどうでもいいから、それだけを白状しろ! 白状したらクエストを受ける権利を与えてやる」


 オプーナかお前は。


 それにしてもこいつらキモいな。

 夜空教室の男どもは、4人とも血走った目で俺を囲い込んで「絶対聞きだしてやる」と鼻息が荒い。

 オクタですらドン引きしているし、タンテも泣きそうな顔をしている。


 要するに、ティーチャーを勝手に慕っているガチ勢の男達が、俺に嫉妬しているってことでOK?

 つーか、ティーチャーと会話したことすらないのかよ。ストーカーじゃねぇか。

 ティーチャーがこんなめんどくさいやからをそばに置いておくとは思えないし、本当に勝手にファンボーイをやってるだけなんだろうな。


「わかったわかった。なら、こうしようぜ。俺たちとお前たちでこの迷子の捜索クエストを受けて、どちらが先に見つけられるか勝負だ。お前らが勝ったら、俺が昨日ティーチャーと何をやっていたか教えてやるし、なんだったらティーチャーにお前らのことを紹介してやってもいい」


「「「「おぉ! 本当か!?」」」」


「近いって……離れろ! 本当だ、男に二言はない。ただし、俺が勝ったら、そうだな……20万ギルをよこせ」


「乗った! よしいくぞお前ら!」「「「おう!」」」


 夜空教室たちは、1秒も迷わず承諾し、ギルドから走り去っていった。

 ガチすぎるだろ。


 20万ギルは結構大金だと思ったのに即決しやがった。あいつら金持ちなのかな……?

 身に着けてる装備とかも高そうだったし。


「クッソォ……もっと金額盛ればよかったぜぇ……」


「神ゴミ氏、あいかわらずゴミですな。ともかく無事受注していただけそうでなにより。では、タンテ氏、頼みましたぞ」


「う、うん。なんだか大変なことになっちゃったね。ちょっと怖いな」


「タンテ、自信持てよ。この手の依頼でお前以上のスキルを持ったやつはそうそういねぇ。がんばって20万ギルゲットしような?」


「お金に目がくらみすぎだよボス! ぼくは迷子の子供をみつけたいから受けたんだけどな……」




 依頼主から詳しい話をきくため、俺とタンテは孤児院へ向かった。

 スラム街にほど近い場所にあるその建物はつぎはぎだらけのボロボロで、『神のゴミ箱』のアジトといい勝負だった。


 孤児院の入口で呼びかけると、緑色の髪をした女性が出迎えてくれた。


「おや? タンテくんじゃないですか。今日はどうしました? それにそちらのかたは……」


「やあミウさん。こっちはぼくが参加してるギャン……」


「おーい!」


「うわぁ! なんだよボス、おどかさないでよ」


 馬鹿正直にギャングと言うやつがあるか。

 せっかく黒タグも隠してきたのに。


「お前なぁ……あー、失礼。俺はトラッシュ。タンテが所属するチームのリーダーをやってる。ギルドで捜索依頼を受注したんで、詳しい話を聞きたい」


「まぁ、そうだったのですね! ありがとうございます。わたしはミウと申します。さぁ、中へどうぞ」


 この人がミウミウか。

 ミウミウじゃなくてミウが本名なのね。


 ミウさんは、つぎはぎだらけの古着を着ており、身体はカリカリに痩せている。

 孤児院経営の厳しさがうかがえる。

 そんなボロボロの姿でも隠し切れないほどの美しい顔をしている。

 オクタがはしゃぎたくなるのもわかる。


 廊下を歩いていると、曲がり角や部屋の中から小さな子供たちが俺たちのことを不思議そうな目で見ていた。


「見せ物じゃねぇぞ」


「うわぁー」「きゃー」「きゃはは」


 笑いながら逃げていく子供たち。

 ギャングなんて教育に悪いから見ないほうがいいぜ。


 ミウさんが案内してくれたのは迷子になったレントくんの部屋だった。


「普段は、ここで他の子達と一緒に寝起きしています。ですが二日前、朝起きたときにはすでにレントの姿が見当たらず……」


「そうか。タンテ、いけるか?」


「うん、やってみるよ。ミウさん、レントくんの毛布はどれかな?」


「毛布……ですか? これです」


 タンテは毛布のそばに座り込んだ。


 そして、自分が着ていたローブのフードを深く被った。

 こいつがスキルを使う時はそうするように俺が命令している。

 なんせこいつのスキルは……


「よし、やってみるね。線嗅眼せんきゅうがん


 魔眼だからだ。

 いまごろフードの下で彼の目は緑色に光っているだろう。

 魔眼は珍しく、価値のあるスキルであることが多いため隠すにこしたことはない。


 スキルの効果は、『においの線が見える』というものだ。

 まさに今やっているように、普段から使用している毛布などにしみついたにおいがあれば、それが線となって本人のもとまでたどり着けるという寸法である。

 使い方によっては、うちのメンバーの中で一番まともなスキルかもしれない。


 タンテは、まるで空中にあるキーボードでタイピングしていかのような仕草で指を動かし始めた。

 部屋の中には、多種多様なにおいの線が存在するため、線同士がぐちゃぐちゃにからまっているらしい。

 その線をかき分けて、本当に必要な線だけをピックアップするため、このような仕草になっている。

 においの強さで線の太さも変わってくるので、なるべく強いにおい――たとえば汗、つば、尿、血液、などの体液がついていると追跡しやすい。


「うーん、これは違う。邪魔。そうそう、これか? いや、こっち……そう……そう……よーしいい子だ、大人しくしておいてくれよ?」


 洋画に出てくる凄腕ハッカーみたいなセリフをつぶやきながら、指を動かし続けるタンテ。

 スキルを使う時は、このセリフをしゃべるように俺が命令している。

 とくに意味はない。おもしろいから俺が仕込んだ。本人はセリフの意味をよくわかってない。


「よし来い……いいぞ、来た! よーしビンゴッ!」


 タンテはエンターキー(そんなものない)をターンッと叩いた後、立ち上がった。

 そして毛布から出た線をたどるようにしてたどり着いたのは、すぐそばにいたミウさんだった。


「まぁ、タンテくんどうしたの?」


「あれ? レントくんじゃないぞ?」


「なんじゃそりゃ! 一番強いにおいがミウさんだったのか?」


「そうだよ。むしろ、この毛布にはそれ以外のにおいはなかったんだ!」


「におい……? わ、わたし、くさかったかしら!?」


 顔を真っ赤にして半泣きになってしまったミウさんをなだめつつ、いろいろ聞いてみると、どうやらこの毛布はちょうど昨日洗濯をしてしまったらしい。

 それ以降、誰も触っていないので、最後に洗濯物を取り込んだミウさんのにおいが一番強かったというわけだ。


「他になにかレントくんの服とか持ち物はないのか?」


「なにぶんうちは貧乏ですし、服も一着しかないのです。これ以外はもう……」


 出鼻をくじかれたあげく、いきなり詰んでしまった。

 俺たちが途方に暮れていると、部屋の外から女の子の声が聞こえた。


「もしかしたら、あるかもー」


「え?」


 部屋の入口へ振り向くと、入口から顔だけ少し出してこちらをのぞきこんでいる子供たちがいっぱいいた。

 いつの間に来てたんだ?

 その中の一人、ちょんまげみたいに頭のてっぺんで髪をくくった女の子が言った。


「レントくんの服を探してるんでしょー?」


「うん、そうなんだ。なにか知ってるかな?」


 タンテがしゃがんで女の子と目線を合わせながら優しく声をかけた。


「あのねー、猫ちゃんがいてねー、ケガをしててねー、かわいそうだからねー、レントくんがビリーッて破ったの」


 なるほど、わからん。


「そうなんだ。それをぐるぐる巻いてあげたんだね?」


「そー。猫ちゃん見に行くー?」


「見に行きたいな。連れて行ってくれる?」


「行こー」


 タンテに翻訳してもらったところ、猫のケガを手当てするために、レントくんが自分の服を破って包帯代わりに巻いてあげたらしい。

 なるほどね。俺の『翻訳』スキルより優秀だな。

 タンテ自体も幼い頃は孤児院で育てられていたから、子供同士の会話に慣れているのだろう。



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