第4話
バァーンッ!
爆音とともにドアを破壊しながら、アジトに帰ってきたのはブレイクだった。
「ただいま帰ったゼ~~~~ッ!!!!」
「ブレイクゥッ! よっ、『神のゴミ箱』きっての破壊神! 空気すら破壊するスピードスター! ところで、そのドア誰が直すんだ? ぶち殺すぞ!」
その後は忙しかった。
ブレイクをしばき倒したり、お嬢をなだめすかして頭からハートフラワーを引っこ抜いたり、エピスにポーションを作ってもらったりして、ようやく……。
「できたよボス! ポーション……のような何かがねぇ」
「さすがエピス。さて、その効果はいかに……?」
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ハートポーション
深い赤色の水薬
強い癒しの効果を持つ
副作用として、隣人に親愛の情がわく
その傷が癒えたなら、敵の血を見て泣けるだろう
あらたな傷をのぞむなら、友の血を見て笑えるだろう
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「いちおう、できてるな。ハートポーションっていうらしい。でもなぁ……」
説明文が、いろいろと不穏だ。
「ふぅん、ハートポーションねぇ。聞いたことないや。いちおう、ってどういうことなの?」
「あぁ、副作用があるっぽい。さすが気まぐレシピだな」
「うっ……ごめんねぇボスぅ……やっぱりボクはちゃんとしたものを作る才能がないんだぁ……」
「おいおいおいエピス、気にすんな! 俺たちゃギャングだぜ!? おもしろけりゃそれでいんだよ! それに、こいつを最初に使うのは『えらイーヌ』のやつらだから問題ない。あいつらには実験台になってもらう」
「……アハハッ! ボスはやっぱり鬼畜だねぇ。さすが『街一番のイカレ野郎』と言われるだけあるよ」
「え? 俺そんなふうに言われてんの!? 心外だわ……この世界の誰よりも俺が一番まともだろうが!」
子供をスラム街に捨てる王様、犬をボスだと言いはるギャング、違法ポーションをつくるマッドアルケミスト、公共物を破壊しまくる人面馬……そんな奴らとくらべて俺のなんとまともなことか。
とにかくこの街や国にはイカレたやつらばかりだが、一番ヤバいのは、個人的に教会だと俺は思っている。
人命にかかわるポーションを独占している時点でヤバイのは確実だが、そのポーションに隠された効果がヤバイ。
俺はハートポーションと比較するためにアジトの金庫から出してきた正規品のポーションをいま一度、金視眼で確認する。
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ポーション
赤色の水薬
癒しの効果を持つ
副作用として、作成者に親愛の情がわく
天使は私を愛さなかった
それゆえに、あなたは私を愛する義務がある
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アモルス・ナルキッサとは?
作成者ということで、おそらく教会の関係者なのだろうが、聞いたことがない。
少なくとも、一般的に知られた人物ではないはずだ。
だが、誰であろうとイカレてる。
作成者や教会は、この副作用を知ったうえでポーションを作っているのだろうか?
エピスが作ったハートポーションとどっちがヤバいかっていうと……どっちもどっちか?
これもヤバいといえばヤバいけど、黙ってりゃあバレへんバレへん。
できあがったポーションをあまり物のビンに詰めて、『えらい犬』のアジトまで運ぶことにした。
俺と、今回やらかしたお嬢、そして移動手段としてブレイクの三人で行く。
本当は、俺のスキル『ゴミ箱』に入れて運べたら一番楽だったのだが、文字通りゴミしか入らない仕様になっている。
使い方は簡単。手に触れた物を『ゴミ箱』に捨てたいと考えるとパッと消えて『ゴミ箱』に入る。
『ゴミ箱』に入っているものは頭の中にすべてリスト表示されるように記憶されているので、いつでも取り出せるし、削除もできる。
削除はまだあまり使ったことがないけど、この世から完全に消えてしまうっぽい。
このスキルが、どういう条件でゴミを判定をしているのかはあいまいな所だが、今回のハートポーションのように明らかに役に立つ物は基本的に『ゴミ箱』には入れられない。
例えば、道ばたに捨てられたボロボロのソファとか、あまりにもクソすぎて『これはゴミだろ』と俺が感じたアイテムとかは入れられたりする。
そんなわけで、今回は仕方なく馬車で運ぶことにした。
「ブレイク、わかってるな?」
「もちろんダゼ。超特急でいいんだよな?」
「いいわけねぇだろ! ゆっくりでいいんだよ!」
ダメだ。このスピード狂に馬車をひかせたら、またビンが全部割れちまう。
「トラッシュのゴミ箱に、割れないビンは入っていないんですの?」
「そんなもんねえよ、お嬢。もし持ってても、そんな貴重品の使いどころは今じゃねぇだろ」
とはいえ、このまま運ぶわけにもいかない。
俺はしばし頭の中の『ゴミ箱』リストを探って、よさげなアイテムを見つけ、取り出した。
「大きいですわね……! なんですの、このクッションは」
「ツンデレクッション(大)だ。なんなのかと問われると、俺にもよくわからない。とりあえず、ビンが入った箱を全部つつみこめるくらいにはデカイだろ」
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ツンデレクッション(大)
座ると、ツンデレなセリフがランダムで再生される
サイズ:大、音量:大
東のはてにツンあり
西のはてにデレあり
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馬車の荷台全面を覆いつくすほどデカイクッションには、アニメ調でピンク髪の女の子が描かれている。
照れながら怒っているとでもいうような微妙な表情である。
「この女の子は誰なんですの!? また浮気ですの、トラッシュ!」
「知らないし、浮気じゃねぇよ。どっかの貴族とかじゃねぇかな、知らんけど」
やいやい騒ぐお嬢をあしらいながら、荷台にクッションをひいて、その上にポーションが入った木箱をひとつ乗せてみた。
『アンタどこ座ってんのよ!』
アジトの前、スラム街としては広めの路地に、女の子のかん高い声が響きわたった。
その鋭い声は光よりも速く、道行くゴロツキたちの脳をぶっさした。
むさ苦しい男どもがわらわらと集まってくる。
「おいおいおい、なんだもめ事か? おじさんが解決してやろう」
「痴漢か!? オラが助けてやる!」
「おい、こんなジジイどもには何もできねぇぞ! イケメンなお兄さんが解決してやろうじゃないか! それで、声のぬしは君かな? ……ってゴミ箱のとこのお嬢様じゃねぇか。こいつからあんなカワイイ声が出るわけねぇか」
「失礼ですわね!」
またたくまに馬車の周りをゴロツキどもに取り囲まれてしまった。
「で、トラッシュよう、カワイイ女の子はどこに隠れてるんだ?」
「なんなんだよお前ら、話がややこしくなるから失せろ!」
「そう固いこと言うなって」
「これだよ、このクッションから鳴った音だよ。かわい子ちゃんなんていねぇよ!」
俺は野次馬たちに見せつけるように、ツンデレクッションをパンパンと叩いた。
『変態!』
『もっとぎゅってして……かっ、勘違いしないでよね、別にアンタのことなんか……』
またしてもかん高い声が鳴り響いた。
「「「おぉ~」」」
「トラッシュ……あなたなんてものを持っていますの……」
盛り上がるゴロツキたち。
ドン引きするお嬢。
なんだよこれ。
さすが神スキル『ゴミ箱』さんだぜ。しっかりゴミしか入ってねえ。
このツンデレクッションは俺がどこかで拾ってゴミ箱に入れたわけではない。
最初から、このゴミ箱に入っていたのである。
これ以外にも、最初から入っていたゴミが大量に存在する。
あのクソデカ天使が使っていたゴミ箱だから、やつが過去に捨てたものだろうと思われる。
騒ぐやつらを適当にあしらいながら、ポーションを馬車に乗せきった俺とお嬢は御者台に座った。




