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第3話

「お嬢ちゃんさァ……正直に話してみようか? 今なら、まだ怒らないよ俺も」


「トラッシュ……怒らない? ホントに? ちょっと……ちょーっとポーションのビンが割れていましたわね?」


「割れていた……。中身は?」


「なぜか全部なくなっていましたわね? 不思議ですわね?」


「それは不思議だな~って言うと思ったか!? 全然不思議じゃねぇよ! 理由は明確だろうが! 全部こぼれてんじゃねぇか!」


「ひぇえ~、お許しくださいまし! って、トラッシュ、怒らないって言った! 怒らないって言ったのにひどいですわ!」


 両手で顔をおおい、エーンと泣きはじめたお嬢の頭から、新しく一輪、赤い花が咲いた。

 はい、ウソ泣きです、これ。


 それにしても、また借金が増えるのか? 


「いくらだ……? 今回の罰金はいくらになったんだ、お嬢……!?」


「オホ……オホホホホ……ほんの20万ギル……でしたかしらねぇ……まぁ貴族であるワタクシからすると、ほんのはした金ですわね?」


「馬鹿野郎ォォ! お前は平民だろうが! 平民どころか愚民だよっ! 20万の罰金だと? チーム全員が1か月食っていける金額じゃねえか!」


 土下座しながらお客様の靴をなめれば許してもらえるだろうか?

 無理だろうな。


 なにせポーションの生産は教会が独占している。

 作り方も流通量も教会に管理されているため、スラム街の人間がおいそれと手に入れられない貴重品なのである。


「お嬢、ポーションの配達先はどこだ?」


「『えらい犬』のみなさまでしたわ」


「えらイーヌ……あいつらか。なら、まだ挽回ばんかいの余地はある」


 『えらい犬』は、この街にいるギャングチームの名前だ。


 エライゾという名前の茶色い犬がボスをつとめている。

 エライゾが二足歩行したり喋ったりするのかというと、そうではない。

 ワンワンほえるただの犬だ。


 もともと、スラム街でうろちょろしていた、ただの野良犬だった。

 その野良犬にエサをやったり、芸を仕込んだりしてかわいがる人間ゴロツキが少しずつ増えていった結果、自然と形成されたチームが『えらい犬』である。


 人間たちが「えらいぞ!」といつもほめてくれるから、自分の名前をエライゾだと思い込んでしまったアホな犬、それがエライゾである。

 アホな犬をボスだとあがめたてまつっているアホなゴロツキ集団、それがギャングチーム『えらい犬』である。


 要するにあいつらはアホなので、言いくるめればなんとかなるかもしれないということだ。


「よし、エピス! ちょっと来てくれ」


「なにかなぁ、ボス」


「仕事だ。ポーションを作ってくれ」


「はいぃ? 違法だけどいいの? ボクたち全員、教会の連中にぶっ殺されちゃうよぉ」


「いいんだよ。俺たちはギャングだ。目的のためには手段を選ばねぇ」


「いいねぇ! んじゃさっそく、スキルでレシピを調べてみるねぇ」


 エピスはぶ厚い眼鏡の奥にある小さな目を閉じて集中し始めた。


 彼女が持つスキルは『気まぐレシピ』というもので、作りたいもののレシピが頭に思い浮かぶという能力だ。

 必要な素材、手順、そのすべてが判明するというぶっ壊れ性能の超ド級スキルである。


 ただし、ひとつ欠点がある。

 決して正答にはたどり着けない。


 たとえば、ポーションを作りたいと思っても、正しいポーションではなく、ポーションと同じような効果のあるナニカの作り方しかわからない。

 エピスが目を開けて、紙にさらさらとレシピを書いていく。


 そこには『蒸留水、ハートフラワー、天使の母乳』と書かれていた。


 天使の母乳?

 天使って、あの転生処理をしていたクソデカ天使のことか?

 結局あいつがただの天使だったのか、それとも神様だったのかはいまだにわからないけど、ひとつだけ確実にいえることは、あいつは男だったってことだ。

 つまり母乳なんて出ない。


「蒸留水と天使の母乳はわかるけど、ハートフラワーってなんだろうねぇ。ボスは知ってる?」


「ちょっと待て、天使の母乳はわかるのか?」


「え? ボスもよく食べてる、あの白くて丸いキノコだよ」


「あぁ、あれか! あれってそんな名前だったのかよ」


 スラムの市場でも、ときどき売っているマッシュルームみたいなキノコのことだった。

 蒸留水はエピスでも作れるから、あとはハートフラワーか。

 聞いたことがないけど、花といえば、ここに専門家がいる。


「お嬢、ハートフラワーって知ってるか?」


「知りませんわ」


「だよね」


 お嬢は花を出せるだけで、名前とかは全然知らないんだよな。

 しかたない、ひとつずつ調べるか。


 お嬢にスキル『お花畑』を使ってもらい、ありったけの花を机の上に咲かせてもらった。

 俺は、色とりどりの花の中から1本を選び、スキル『金視眼きんしがん』を使った。


 ――――――――――――――――

 カンザシフラワー


 カンザシの丘に咲く花

 すりつぶすと甘い香りがただよう


 あの丘には乙女の秘密が埋まっている

 あなたはそれを掘り起こすのか?

 ――――――――――――――――


「カンザシフラワー、はずれだな。乙女の秘密ってなんだよ……」


「トラッシュ、また眼が光ってますわよ……怖いですわ」


 赤ん坊のころ親父に埋め込まれた国宝『金視眼』。

 なんの説明もなく埋め込まれたので、詳しい使い方はいまだにわからないが、目にグッと力をいれて対象物を見つめると、そのモノの名前や効果がわかるってことだけは判明している。


 あと、変なフレーバーテキストみたいなものも見える。これはマジで意味がわからない。


 同じようなことができる『鑑定』というスキルも存在するらしいが、それとまったく同じ効果があるのかは知らない。

 なんせ『鑑定』はかなりレアらしく、ひとつの国に一人いるかいないかというスキルらしい。


 そんなレアスキルに似たスキルを持っているのがバレるとめんどうなことになりそうなので、チームメンバーには秘密にするように厳命している。

 まぁ、あいつらがそんな秘密を守れるわけないのであきらめてはいるが。

 そもそもこのスキルを使うと眼が金色に光るので隠しようがないって部分もある。


 その後、俺は眼をピカピカ光らせながら、ありとあらゆる花を確認したものの肝心のハートフラワーが見つからず、ふて寝しようと思いソファに寝ころがった。

 そのタイミングでふと目に入ったのは、お嬢の頭に咲いている花だった。


「まさかな……」


 ――――――――――――――――

 ハートフラワー


 血よりも濃い赤の花

 癒しの効果を持つ


 天使に心はあるのか?

 あなたに心はあるのか?

 ――――――――――――――――


「あったああぁぁ!!!!」


「なんですの!? どうしたんですの!?」


 灯台もとくらし。

 お嬢の頭あかるし。


 あまりにアホっぽすぎて無意識のうちに候補から外していた。


 まさか、お嬢が嘘をついたときに頭から咲く赤い花がポーションの素材だったとは。

 俺はお嬢の頭から花をひっこぬいた。


「イタッ……くないですわ。その花がハートフラワーですの? それにしても、ワタクシ自分の頭に花を咲かせた覚えはないのですけれど。いつの間に?」


「お嬢、なんでもいいから嘘をついてくれ」


「そんなこと急に言われても難しいですわ。誇り高き貴族として、嘘はいけませんもの」


「黙れ愚民。なんでもいいんだよ、『トラッシュ愛してる!』とかでもいいからさっさと言ってくれ」


「な、ななななっ、なんてことを言わせようとしてるんですの!?」


 お嬢の顔がハートフラワーよりも赤くなる。


「頼むよ、一生のお願いだ。お前がそう言ってくれるだけで、俺たちは救われるんだ」


 言ってくれないと20万ギルの罰金がどうにもならねぇ。

 俺たちみんな、飢え死にしちまうんだぞ?


「トラッシュがそこまで言うのなら……愛してますわ、トラッシュ」


「……あれ? 花は?」


 咲かないんだけど?

 つまり……どういうことだ?


「不発か? もう一回、言ってくれ、お嬢」


「もう一回!? って、もう無理ですわ! 乙女になんてことを言わせるんですの! トラッシュなんて大嫌いですわ!」


「おぉ!? 今度は咲いたぞ!」


 お嬢の頭から赤い花が咲いた。

 金視眼で確認したところ、それはまぎれもなくハートフラワーだった。


 ……おかしいな。


 お嬢は嘘をついたときに頭から花が咲くはずだ。

「愛してますわ、トラッシュ」と言っても咲かず、「トラッシュなんて大嫌いですわ」と言うと咲くってことは、つまり、お嬢は俺のことを愛してるってことになっちまうぞ?


「OK、OK、落ち着いていこう。もう一回、もう一回だけ確認しようじゃないか。お嬢、ラストだ。もう一度だけでいいから、俺のことを……」


「バカ! トラッシュなんて嫌い嫌い嫌い! 大嫌いですわ! ワタクシをバカにして!」


 お嬢の頭から咲き乱れるハートフラワー。

 つまり、これは……。


「ボクはいったい何を見せつけられているんだい……? 席をはずそうか? ボス、『バキバキ皇帝』をここに置いておくねぇ……」


「やめろォ! 行かないで! お願いだからお前もここにいてくれエピス!」


「浮気ですの、トラッシュ!?」


 クソッ! どうすればいいんだ、この空気。

 お願いだ……誰か、誰かなんとかしてくれ……!


 バァーンッ!


 と、その時、爆音とともにドアを破壊しながら、おっさん面をした馬がアジトに乱入してきた。


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