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第37話

「アダマンタウロスはヤバいって! いくらティーチャーが強くても一人じゃむりじゃね!?」


「ふたりだよ。トラッシュもいる」


「俺は!! 弱いっ!!」


「冗談だよ。私ひとりでやる」


 Oh……イッツ、ティーチャーズジョーク!? 無表情すぎてわかりにくいわっ!


 ティーチャーはアダマンタウロスにむかって歩きながら、背負っていた武器を抜いた。

 1メートルくらいの黒い棒である。

 なんの装飾もなく、なんの突起もないただの棒。


「ティーチャー、それって……」


「そう。あのときトラッシュがくれた黒い棒。気に入った」


 かつて奇妙なめぐりあわせでティーチャーと一緒に依頼を受けたことがある。

 依頼中に武器を壊してしまった彼女が「重くて硬い棒が欲しい」と言ったので、『ゴミ箱』の中で死蔵されていたブツをあげたのだ。


 ――――――――――――――――

 霆「逕神のヒゲ


 黒くて太くて固いヒゲ

 神威印かむいじるしのカミソリ以外で剃ることはできない


 神剃りに付着した血を海で洗うと

 原初の魚が泳ぎだした

 ――――――――――――――――


 文字化けしているので何の神なのかはわからないが、神のヒゲである。

 キモすぎる。

 仮に、あの転生処理をしていたクソデカ天使が神だったとしたら、確かにヒゲもクソデカいだろう。

 伸ばせばこれくらいの長さ太さになるかもしれない。


 龍のヒゲとかならまだわかるけど、神のヒゲはちょっと……。

 俺なら手に持ちたくないね。

 まぁ、あれめちゃくちゃ重いから、持ちたくても俺じゃあ持てなかったんだけど。


 はじめて神のヒゲを『ゴミ箱』の中から出したとき、俺はアジトにいた。

 なんかヒゲがあるぞ、と思ってなにも考えずに取り出したら、指が折れるくらい重くて、すぐ床に落としてしまった。

 そしたら、ヒゲはそのままアジトの床を突き抜けて、床下の地面にぶっ刺さって止まった。


 マジでキレたね。またアジトの修理しなきゃなんねぇじゃねぇかって。


 泣きながら床下に降りて回収して以来二度と出すもんかと思っていたゴミ中のゴミだった。

 だから、ティーチャーに押しつけたってわけ。


 ティーチャーは『感情教育』というスキルを持っており、詳しくは知らないが、感情を殺せば殺すほど強くなれるらしい。

 二人きりのときにこっそり教えてくれた。


 喜怒哀楽、どれを表情に出しても弱くなるから、日々修行僧のように、ひたすら無表情で無口なバケモノができあがってしまったのだ。


 そんな彼女が子供のころからずっと自分の感情を教育し続けた結果、とんでもない強さを手に入れた。

 凡人の俺では1ミリも持ち上げられないくらい重たい神のヒゲを軽々と振り回せるくらいの力を手に入れた。


「あの……ティーチャーさん? 前も言ったけど、それ神……ゲフンゴホン、巨人のヒゲだよ? あげた俺が言うのもなんだけど、キモくない? 普通のメイス使えば?」


「気持ち悪くはないよ。手になじむし、ちょうどいい太さだし、なにより壊れない」


 フォフォフォンッ、と数回、風を切り裂くような音が聞こえた。

 ティーチャーが黒い棒で素振りをしたらしい。

 恐ろしく速い素振り。俺は普通に見逃みのがしたね。


 それより、もうすぐそこまでアダマンタウロスが来ている!


「教育開始」


 ぼそりとつぶやいたティーチャーが野球のバッターのように黒い棒を構えた。


 ガァンッッ!!!!


 2トントラックが事故ったような衝撃音が草原を駆け抜ける。

 思わず目をつむる。

 ふたたび目を開けた俺の眼に映ったのは、確信歩きで一塁いちるい方向そんなものないへ向かうティーチャーの姿だった。


 空高く舞い上がるアダマンタウロス。

 ホームランだ。


「ティーチャーサン!」


 少し離れた場所に落下したアダマンタウロスはフラフラと立ち上がった。

 あれでも死なないかよッ……!


 アダマンタウロスは二度三度頭をふったあと、ひづめで地面をひっかき始めた。

 また突進してくるつもりだ。


 またしてもバッターボックス(そんなものない)に立ったティーチャーは静かにそれを待ち構えていた。


 静まりかえる草原。

 そよ風が草を揺らす音だけが聞こえる。


 静寂せいじゃくを打ち破ったのはアダマンタウロスでもティーチャーでもなかった。


「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 どこからともなく聞こえてきた意味不明な声。

 少し高めな男性の声が、空から聞こえてきた。


 はるか上空から、叫びながら白い男が落ちてくる。


 男はそのままアダマンタウロスにむかってまっすぐ墜落ついらくした。


「ぁぁぁぁぁぁぁんでやねん!!!!」


「グモォォッ!?」


 ドゴォンッ、という衝撃音とともに、アダマンタウロスの頭が地面にめり込み、その後はピクリとも動かない。


 アダマンタウロスの頭には巨大な白い扇子せんすがめり込んでいる。


 男が手を振ると扇子は小さくなり、俺のよく知る普通サイズの扇子になった。


「はぁ~、あっつ」と言いながら、扇子でパタパタとあおぐと、彼の長い白髪がひらひらと揺れる。

 髪は後ろでひとつくくりにされており、サムライっぽく見えなくもない。

 だらしなく着こなした白い着物の胸元をはだけさせて、そこにも扇子で風を送り込んでいる。


 白い扇子、白い髪、白い着物。

 すべてが白い男だった。


 男は、ニヤニヤ笑いながら軽快な足取りで、俺のほうへ歩いてくる。


「いよぉ、トラちゃん! 来たったでぇ~!」


「よんでねぇよ」


「そんな冷たいこと言わんといてよぉ。それよりもワイのツッコミみてくれたぁ? バシーン決まったわ!」


「ツッコミなら扇子じゃなくてハリセンでやれよ」


 この男の名はドクソン。

 フラウス王国の西にあるハンサイという国で、最大最凶の暴力組織『神扇組しんせんぐみ』のボスをつとめている。


 フラウスとは異なり、ハンサイでは統一的なギルドがない。

 健全な冒険者ギルドはあるので、まともなギルダーはそちらへ登録して活動し、犯罪に手を出した奴はギルドから弾かれて、いずれかの犯罪系ギルドに加入することが多い。

 盗賊ギルド、暗殺ギルド、逃がし屋ギルド、など多数ある。

 そういった犯罪者たちがごちゃまぜになってギャングのようなチームを組んでおり、群雄割拠している状態だ。

 多数のチームの中でも、もっとも勢いのあるチームがドクソンがとりまとめる神扇組である。


 フラウス側のギルドランクとは異なるので正確には測れないけれども、少なくともドクソンの実力なら黒一級くらいはあるというふうに裏社会で噂されている。

 つまり、白一級であるティーチャーと同程度の強さがあるということだ。


 なんでそんな激ヤバ人物がこんなところに?


「ハリセン? なにそれぇ?」と言いながら、なれなれしく肩を組もうとしてくるドクソンの手をつかんで止めた。


 え? 止めたのは俺じゃないよ。もちろん俺はブルってて動けねぇ。

 バシッと手を止めてくれたのはティーチャーだ。

 いつの間にか近くに来て、俺を守るように立っていた。


「なんやァ、ワレコラぁ!? ワイがトラちゃんと楽しく会話しとんねん、外野はひっこんどけや!」


「トラちゃん…………トラッシュは私とご飯を食べる。あなたは邪魔」


「ハァ? めし食うて、こんなとこで? あっ、もしかしてあの黒い牛さん食べるつもりやったん?」


「そう、私の獲物」


「はい、ざんね~ん! トドメさしたんはワイですぅ、あれはワイのもんですぅ~」


 うっぜぇなコイツ。

 さすがのティーチャーもブチギレ……てないな。

 無表情キープ。


 さすがですわ……と思いきや、手が! 手がぷるぷる震えてる!

 黒い棒を握りしめた手からミシミシ音がしてる!


 もしティーチャーがキレて手を出したらどうなるんだ?


 白一級 VS. 黒一級の怪獣大戦争が始まっちまう。


 俺はさながらゴジラから逃げまどうサラリーマンエキストラだ

 二人の戦闘が終わったあと、足元には俺の死体が転がっているだろう。


「ちょちょちょ、いったん落ち着こ。ティーチャー、ステイステイ。ドクソンもムダにあおるなってば」


「トラッシュ……でもご飯が」


「食いしん坊かっ。俺はいいって。気にしないから。また街に帰って飯食えばいいじゃねぇか。なんなら俺のおごりでもいいぜ?」


「トラちゃんのおごり!? ほなワイもお邪魔しよかな~」


「なんでやねん! ドクソンは自腹じゃい!」


 パァン! と乾いた音が鳴る。


 つい、関西弁のようなノリにひっぱられて、『ゴミ箱』から取り出したハリセンでドクソンの胸を叩いてしまった。


 ――――――――――――――――

 ハリセン


 白い厚紙で作られたハリセン

 痛みは少なく、良い音が鳴る


 手紙も本もすべて破り捨てました

 すべてをただの紙に戻しました

 ――――――――――――――――


 無表情のティーチャー。

 無表情の俺。

 無表情のドクソン。


「あ、ヤバい………」


 死んだ。前世でも辞世の句は『あ、ヤバい』だった気がする。


「ハッハッハッハ~! なぁんやそれぇ!? ワイの神扇しんせんに似とんなぁ~」


 貸してぇ~と言いながら俺の手からハリセンを奪うドクソン。


 そして、


「なんでやねぇ~ん! アッハッハッハ!」


「いてっ……! も~、ひどいなぁドクソン。アハハ、ハハハ……」


 パァン! と勢いよく俺の頭を叩いた。


 一瞬意識が飛んだものの、すぐに立ち直る。

 ハリセンのおかげで、ちょっと脳震盪のうしんとうをおこしかけたくらいですんだぜ……。

 これが奴の持つ神扇しんせんだったら、頭がパァンとはじけ飛んでいただろう。


「へぇ、これがハリセン言うんか。はじめて見るわ。ツッコミにちょうどえぇやん。ちょうだい?」


「え? それはダメだ!」


「ハァ?」


 ドクソンの細い目がパカッと開いて俺を見る。こわぁ……。


 てか、なんで俺は拒否っちまったんだ!?

 ハリセンなんてさっさとあげればいいのに。


「ち、違うんだ! なんだろう……そう、元関西人もとかんさいじんとしてのアイデンティティがね? なくなっちゃうじゃん?」


「カンサイ人? ハンサイ人のことか? やっぱ、お前ハンサイ人やったんか! ときどきなまるから怪しいおもとったんや!」


「いや、ちが……」


 めんどくさいことになった。

 ハンサイと関西は無関係だが、スキル『翻訳』が悪さをして、俺の頭の中では同じようなイントネーションに聞こえてしまうのである。


「いやー、やっぱトラちゃんはうちに来るべきやわ! どや? 前もうたように、神扇組しんせんぐみーへんか?」


 いや、行かねえっつうの。


 フラウス王国に住む俺と、ハンサイに住むドクソンでは普段接触することはないが、これまでにもたまに会って挨拶くらいはしたことがある。

 そして、なぜかそのたびに勧誘してくるのだ、こいつは。

 神扇組の戦力はドクソンだけではない。

 チームの人数は知らないが大量に人がいるし、その中でも二級の奴らがちらほらいると聞いたことがある。

 三級ギルダーの俺なんて、いてもいなくても変わらないだろうに。


 俺が、どうお断りしようか悩んでいると、横からティーチャーが口をはさんだ。


「トラッシュうちのチームに入る」


「「はい?」」


「……」


 え? そんな予定ないですけど!?

 びっくりしすぎて、思わずドクソンとハモっちまった。


 てか、ティーチャーはソロでは?


「なんやワレ、さっきから邪魔やのう。そもそもお前、どっかに所属しとったっけ? ソロって聞いとったけど……」


「……」


「なんか言わんかい! やっぱソロなんやな? それやのにチームとか適当なこと抜かしよってからに……ほんまナメとったら承知せんぞ!?」


 ハリセンを俺に投げ返したドクソンは、神扇をティーチャーの頭にむかって振り下ろした。

 が、ティーチャーはそれを難なく『神のヒゲ』で止める。


「私はソロだけど、トラッシュがあなたのチームに入るのは許さない」


「なーんでオドレの許可が必要やねんボケェ! ほんま業沸ごうわくわ~。それになぁ、前から思っとったけど、その髪型ァ! ワイと被っとって気に食わんのじゃ! その髪ちょん切ってツンツルリンにしてもたろかァ!?」


 いや、髪型はどうでもいいだろ。

 確かに、ティーチャーもポーニーテールだし、ドクソンも長髪を後ろでひとつくくりにしているし、似ていなくもないが。


 ドクソンは神扇を巨大化し、ティーチャーに向かって、ひとあおぎした。

 途端、暴風が吹き荒れる。

 微動びどうだにしないティーチャー。

 吹っ飛ぶ俺。連続後方でんぐり返りで少し離れた場所まで退避できた。


 ドクソンのスキル『神扇』は、スキルの中でも珍しく、道具が具現化するタイプである。

 彼が手に持っている扇子は、彼がスキルで生み出しており、出し入れも自由自在、大きさも自由自在。

 それに、風を巻き起こす能力までついている。


 それらを駆使して戦った日には、ほとんど自然災害みたいなものである。


 ティーチャーもいまだに無表情ではあるが、『神のヒゲ』を構えて、完全にやる気モードに入っている。


「教育開始」


「なーにが教育じゃあ! どっちがセンセェか教えたるッ!」


 ガキの口喧嘩みたいなノリで、怪獣大戦争が始まった。


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