第33話
王都中に響き渡りそうな祭りコールを前に、俺がどう収集をつけるか頭を悩ませていると、
「あっれぇ? 『神のゴミ箱』のボスともあろうお方が、まさかビビってるんですかァァァッ!?」
「ハァ?」
ニワトリ野郎がモヒカンをバサバサふるわせながらわけのわからないことを言い出した。
「おやおやぁ? 図星かいトラッシュくぅん!? しょせんクソ雑魚ゴミギャングですからァ? 国に喧嘩売るなんてしたくないんだよなァ!?」
「ハァ……? おま……お前、今なんつった? 俺がビビってる、だと?」
「そうだろォ? ビビってなきゃ、王城で祭りのひとつやふたつできるよなァ!?」
「ハアァァア!? できるし! できらぁ! 国王がなんぼのもんじゃい! ここでは俺が法律だぁ!」
「お、おう……言うじゃねぇか……オレはそこまで言ってねェけど……って、え? トラッシュ? マジで祭りやるつもりかァ?」
「やるぞ、祭り! お前ら、いけるよなぁ!!??」
「「「「うぉぉぉぉ!」」」」
「肉丸祭りだ! 謝肉祭だ! 空飛ぶヒポポに感謝しろオラァ!」
「「「「うぉぉぉぉ!」」」」
「普段は立ち入り禁止の城の庭を解放! そこで腹一杯の飯と酒を用意する! もちろん無料! 世界一偉大なフラウス国王様のおごりだぁぁぁぁっ!!!!」
「「「「うぉぉぉぉ!」」」」
「国王様かっこいー!」「抱いてー!」「豚ちゃん、こっち向いてー!」「にくまるちゃーん!」
よし、なんとかなったな。
一仕事終えた俺は国王のもとに向かった。
「さ、国王様。場は温めておきました。あとはお任せします。前座である私めの役割はこれにて終了ということで……」
「馬鹿もんがァ! 何を勝手に決めとるか!」
「うっせぇ! お前らが仕事しないから俺がナシつけてやったんだよ、文句言うんじゃねぇ」
「やり方というものがあるだろう! 追い返すだけでよいものを、余計に話をこじらせおって。平民を敷地内に入れられるわけなかろうが……警備だなんだと、どれだけの問題が発生するか、お前にわかるか!?」
「知らねえな! でも、ひとつだけ言えることがる」
「なんだ……?」
「このまま奴らを無理矢理追い返してもロクなことにはならないぜ」
「なに?」
なりゆきを見守っていた騎士は我慢の限界だったのか、俺を怒鳴りつける。
「無礼者め! 陛下、この者を捕縛する許可を!」
「まあ待て。続きを聞こうではないか」
騎士が俺の首につきつけていた剣を下ろした。
……捕縛しようとしたんだよね? 俺、殺されないよね?
いまさらだけど、俺、今かなりヤバイ状況なのか?
俺は国王のことを実の父親だと知ってるから、つい気安く話しかけてしまっているが、まわりからみると俺はただの平民だ。
偽鑑定師として依頼をしたことまでは知っているだろうけど、まさか俺がギャングだなんて騎士たちは知らないだろう。
せいぜい表の清廉潔白なギルダーだと思っているに違いない。
ともかくそんな平民が国王に口答えするだなんて、本来考えられないし、騎士の性格によっては斬って捨てられてもおかしくない。
でも、もう止められない。
今や、祭りコールは最高潮だ。
なんとしてでも謝肉(丸)祭をひらく必要がある。
俺はちびりそうになりながらも必死にケツの穴をしめて、できるだけ低い声で語り出した。
「民は何を見て安寧を感じる? きらびやかな王城か? 整えられたこの庭か? 国王の怒った顔か? それとも、王子様の整った顔か?」
「何が言いたい」
「全部見られちまってるんだよ、今回の茶番劇は。戦いに夢中で、いったいいつから野次馬が城門のあたりにいたのかは知らねぇが、少なくとも庭師にしか見えない俺を盾にして腰抜かしたままわめき散らかすダッセェ王子様の姿は見られてたんじゃねぇのか?」
国王は苦い顔をしたあと、王子の後ろ姿を探すように城のほうを見つめた。
すでに王子の姿はなかった。
今頃は自分の部屋で部下にあたり散らかしてるんじゃないか?
「仮に騎士に無理矢理帰らされたとして、あの人たちがこのあとどうするかわかるか? 酒を飲んで愚痴るんだよ。やれ国王と騎士は傲慢だの、次世代を担う王子はヘタレだの、この国の未来は暗いだの、ってね」
「そのような噂はすぐ風に消えるだろう」
「本当かぁ? 火のないところに煙はたたないって言うぜ? いや、こっちでは言わないんだっけ? とにかく、噂ってのはまるで流行病のように、街から街へといつの間にやら伝わっていくんじゃないか? そこで、祭りだよ!」
「なぜそうなる! なぜ祭りが出てくる? お前は何を言っている?」
王も騎士もあきれた顔だ。
おや? 王妃は何か楽しげだぞ。
祭りが好きかい?
「強制的に解散となった野次馬どもは飲み屋で愚痴祭りをするしかない。でももし、ここで祭りを開けばどうなる……? 家に帰ってから思い出すのは楽しい祭りの記憶だ。『なんだか、よくわかんなかったけど楽しかったな、いい王様かもしれないな!』となるわけだ」
「はっ……馬鹿馬鹿しい。お前こそ民を馬鹿にしとるんじゃないか? 人々の心はそんな単純なものではない」
「いいや、単純さ。あんたが今向き合うべきは貴族じゃねぇんだぞ。庶民だ。本当に庶民の気持ちわかってんのか?」
「……お前にはわかると?」
「あったりめぇよ。なんせスラムに捨てられ、スラムで育った人間だぜ?」
「くっ……」
響き渡る祭りコールを聞きながらしばし俺と国王は、にらみ合った。
「さぁどうする、フラウス国王様よ? ここはボスの度量を見せるべきじゃないか?」
「なにがボスだ。ギャングと同列で語るでない!」
「あら、いいじゃないあなた」
ニコニコしながら見ていた王妃が割り込む。
思わぬところからの援護射撃に目を丸くする俺と国王。
「なにがだ?」
「祭り。しましょうよ。以前から何か催し物を増やしたいとおっしゃっていたでしょう?」
「それは……! 確かに考えてはいたが、なんでもよいわけではない。各領地の貴族との調整、経済的効果、継続性、ありとあらゆることを考えた結果選ばれるものであり……」
「はぁ……。で、それはいつ決まるのかしら? 一体何年考え続けているの?」
「そ、それは……」
こ、怖いよママン。
上司か? 部下になぜなぜ分析とかさせるタイプ?
でも今はナイス! そのまま説得してくれ。
「しかし、予算もなにも考えておらんぞ。今から考えては間に合わん。それなのにコイツが国王のおごりだなどと適当なことを宣言しおって……!」
「大丈夫よ、お金ならこの子へ渡す予定だった報酬から出せばいいわ」
ん?
「えーっと、王妃様、聞き間違えですかね? 今、俺たちへの報酬がどうのこうのとおっしゃいましたが」
「今回の報酬はいくらと聞いていましたか、トラッシュ」
「また名前を……いや、えぇっと、合計で1000万ギルです」
「そうですか……」
あごに指をあててしばし考えていた王妃は、納得したようにうなずくと国王に、
「今回の仕事には王子の護衛は含まれていなかった。そうよね、あなた」
「は? あぁ、そうだが」
「では、追加報酬として500万。合計1500万がこの子への報酬ということにしましょう」
「なぜだ!?」
「命がけで王子を守ったのですよ? 何もなしというわけにはまいりません」
おぉ! ここにきて報酬アップ!?
さすがママン!
「ということで、トラッシュ、あなたへの報酬は1500万となりました……が、そのうちの1000万は今から実施する祭りの予算となります」
「おぉ……おぉ!? なんで!?」
「祭りをやると宣言したのはあなたでしょう? ならあなたにも責任が発生します。ボスならば、度量を見せなさい」
「そ、そんなぁ……」
俺はひざから崩れ落ちた。
1000万が500万に?
もし王子を助けてなかったら0ギルになってたってこと?
クッソォ……王子様ありがとう!
涙目で顔を上げると、なんとも言えない顔で国王が俺を見ていた。
「どいつもこいつも勝手に決めよって……。ふんっ、まぁよかろう、乗ってやる」
国王は文官や騎士たちにひととおり指示を出したあと立ち止まり、ふたたび俺をチラリと見た。
そして大きなため息をついて、ぼやいた。
「王子にもこれくらいの機転と度量があればな……あのままだと国を任せられん」
さいですか。
俺に言われてもな。
俺には政治がわからぬ。
俺はスラムのギャングである。
ラッパを吹き、アホどもと遊んで暮らしてきた。
国王は無言の俺を見つめたあと、また1つため息をついて、ぶつぶつ言いながらその場を離れていった。
「まったく……警備、準備、庭の原状回復、業務の遅延、貴族への説明、いったいどれほどの仕事が発生すると思っとるんだ……はぁ……」




