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第32話

 ははーん。OK、OK。


 檻の中でジェットニンジンをうまそうに食ってるブレイクの姿を見てピンときたね。

 ドリコとブレイク、お前らだな?

 お前らが『不幸なトラブル』だったんだな!?


 さすがにエングランドの騎士たちが守る馬車を襲撃したりはしないだろうけど、なんらかの事情で、奴らがジェットニンジンが入った箱を開けて、逃がしたんだろう。

 いやいや、そんなことするわけないって思うじゃん?

 そんなことする理由なんてないって思うじゃん?


 でもやるんだ、うちの奴らは。

 やっちまうんだ、うちの奴らは。


 エングランドの奴らは連行されていったし、ここは知らないふりをして話を先に進めたほうがいいだろう。


「で、その空飛ぶニンジンがどうしたんだ?」


「あんまり驚かないんですのね……。ですが、これには驚きますわよ? なんと肉丸がそのニンジンにかじりついたと思ったら、そのままニンジンに連れ去られてしまったんですの!」


「なるほど、それで飛んだままここまでたどり着いたってのか。で、あの桜には何の意味があるんだよ。ムダににぎやかしてんじゃねぇよ」


「あ、あれは、見失ってはいけないと思って目印にしただけですわよ……」


 一理あるか。

 ちっこい肉丸が空を飛んでるんだ。あっという間に見失う。

 あの桜のおかげでここまで追いかけてこれたと。


 でも、それってつまり……。


「あの群衆は肉丸を追いかけてきたただの野次馬ってことか!?」


「そうですわよ。いつの間にか後ろにいたんですのよ。怖かったですわ」


 そんなアホな理由で何百人も煽動せんどうするお前らの存在が怖いよ俺は。

 説明を聞き終えた国王は顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。


 国王が肺いっぱいに空気を吸い込んで怒鳴ろうとする直前、それをさえぎるようにして声をあげたのは王子だった。


「このゴミどもが! さっさとあれをなんとかしろ! この王城のそばにあんなゴミのむれがうじゃうじゃ、うじゃうじゃ……汚らわしい!」


 おいおい、庶民をゴミ呼ばわりするのはいくら何でもまずいんじゃないの?

 群衆との距離はかなりあいているから聞こえないだろうけど、少なくとも俺たちには聞こえちまってるぜ。


「ただでさえエングランドに暗殺されかけたのに……もうつきあってらん! こんなひどい日は記憶にない! 父上、私はもう自室に戻ります!」


「待て……いろいろ言いたいことはあるが、まずお前が巻き添えにしたこの者に言うことはないのか? お前をかばうために死にかけたのだぞ?」


 そう言いながら国王は俺を指さした。

 王子は俺をちらりと視界に入れ、まるで意味がわからないといった具合に首をかしげた。


「姿からして平民でしょう? 王家や貴族に尽くすのは当然です。なにか言う必要がありましょうか?」


「……そうか、もう戻れ」


「はい、そうさせてもらいます」


 王子は騎士たちを連れて王城のほうへ歩き去っていく。

 その背中を無表情でみつめる王と涙ぐむ王妃。

 その横にならんで悲しげな表情を浮かべるフラウ。

 お前はなんなんだよ。王女みたいな顔すんな。


 重苦しいため息を吐いた後、国王はまた俺の顔を見る。


「あれでも我が息子。あれでも第一王子なのだ」


「さいですか」


「はぁ……。それより貴様、もう体はよいのだな? だったらあれをなんとかせい」


 王は城のまわりにあつまっている大群衆に目をやった。

 長い時間騎士に押し留められているせいか、だんだんヒートアップしてきている。


 なんで俺にやらせるんだよ! と反論しかけたが思いとどまった。

 誠に遺憾いかんながら、うちの馬鹿どものせいであんなことになってるんだよな。

 仕方ない、やるか……。


 だらだらとした重い足どりで群衆に近づいていくと彼らの声がだんだんと大きくなる。


「見たんだって! ヒポポが空を飛んでたんだって! この中にいるんだろ!?」


「あの豚ちゃんが墜落ついらくするのが見えたの! 大丈夫なの!?」


「祭が始まるって聞いたんだが!? まだやらねぇのか!? うちのボスが待ちくたびれちまうだろうがァ!」


 騒ぐ群衆。キレる騎士たち。


「静まれ! 城に入れるわけないだろうが!」


「隊長、もう捕縛しましょう、無理ですよこれ!」


 ややこしいことになってんな。

 それに、なんだよ祭って。アホか。騎士がかわいそうだろ。


 とりあえず声をかけてみるかぁ……。


「おーい……おいっ! はい注目!」


「なんだ?」「なにあの人、なんであんな汚い人が城の中にいるの?」「トラッシュじゃねぇか!?」


 少しざわめきが落ち着き、群衆たちは俺へと視線を集めた。


「はい、いいですか皆さん。確かにヒポポが飛んでいましたが、その問題はもう解決しました! おさわがせしましたが、もうこれ以上なにも起きませんので、解散してください! はい、解散!」


「なんだそれー! 説明になってねぇぞ!」「豚ちゃんが無事かどうかだけ教えて!」


 ヒポポだっつってんのに……もういいよ豚で。


「豚ちゃんは無事です!」


「ワン! ワンワン!」「ほらボスがお怒りだァ! はやく祭をはじめろやトラッシュゥッ!」


 なんか犬がまじってんだけど。

 なんで犬がこんなとこにいるんだ?

 飼い主も赤いモヒカンでバカっぽいし、さっきからコイツが一番うるせぇんだよな……。


「って、ニワトリ野郎じゃねえか! なんでエライーヌがここにいるんだよ!」


「トラッシュゥゥッ! 祭だろォッ!? ボスがキレる前にはやく始めろやァ!」


「だ、か、ら、祭なんてやらねぇっつてんだろが! あっ、騎士のみなさーん、ここにギャングがいますよー!? 捕まえてくださーい!」


「てめぇもギャングだろうがッ!」


「バッ、馬鹿! 黙れ……ッ!」


 よけいなことを言いやがって。


 集まっている群衆をあらためて見てみると、『えらい犬(エライーヌ)』の奴らみたいにスラム街から来てそうな汚い格好の奴もいれば、普段王都内で生活しているような小ぎれいな人間もかなりまじっている。

 本当に統一感のない、ノリと勢いだけで構築された大群衆。

 目的があるならそれを消してやれば解散するだろうけど、それもあやふやで、ただ肉丸を追いかけてきたら王城に到着してしまったというだけなのだ。

 ここまで来たら何かしら得るものがないと収まりがつかないのかもしれない。


「ワンワンワン! ワンワンワン!」


「おっ! いいですねぇボス! はい、ま・つ・り! ま・つ・り!」


「ワンワンワン!」


「ま・つ・り!」


「ちっ、おいうっせーんだよ、お前らちょっと黙っ……」


「祭り?」「なに? 祭りをやるの? これから?」「祭りが始まるらしいぞ!」「酒はでるのか!?」


「「「ま・つ・り! ま・つ・り!」」」


 おいおいおい……同調するんじゃねぇよ愚民どもが!


 連呼される祭りコール。

 わきあがるバイブス。

 絶句する騎士たち。

 ブチ切れ寸前の国王。


 …………。


 もう収集つかねぇぞこれ……頭おかしくなるって。

 もう、いいよ、もう、めんどくせぇ……いっそ今からでも全部エライーヌが悪いってことにできねぇかな?


 チラっと王様の顔を見ると、顔真っ赤とおりこして無表情だった。

 怖ぇよ。


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