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第31話

「……ッシュ……トラッシュ!」


「トラッシュ! はやく目を覚ましませんと大変なことになりますわ! キキ、キスをしちゃいますわよ……」


 うるさい……まだ眠いんだよ……いま何時だ?

 今日は何曜日だっけ……平日……仕事……遅刻!?


「やべっ!」


「「きゃっ」」


 飛び起きた俺をたくさんの人が取り囲んでいた。

 赤い鎧を着たフラウス王国騎士、第一王子、エピス、肉丸。


 そして一番近くにいたのは王妃とお嬢だった。この二人が声をかけてくれていたのだろう。


「お嬢!? お前なんで城に入っちゃってるんだよ! お前がお姫様ってのは妄想なんだぞ!?」


「なぁ!? 目を覚ましたと思ったらいきなりそれですの!? ひどいですわ……ワタクシがどれほど心配したか……」


 涙ぐむフラウ。

 やべぇ。泣かせた。


「トラッシュ! なんてことを言うのです、この子に謝りなさい!」


 涙ぐみながら怒鳴る王妃ママン

 なんであんたがキレるんだよ。


「や、ややこしいからちょっとあんたは黙っててくれます?」


「貴様ァ! 庭師風情が、王妃にむかってなんだその口の聞き方は!」


 今度は王子がキレはじめた。

 め、めんどくせぇ……なんなんだこの状況。


「お待ちください、フラウス国王! わたしは何も知らないのです!」


「話はあとでじっくり聞く。つれていけ!」


 今度はなんだと後ろを見てみると、エングランドの特命大使が騎士たちに連行されていくところだった。

 暗殺者との会話を信じるならマジでなにも知らなさそうだったし若干かわいそうだが、取り調べは必要だろう。


 騎士たちに指示を出した国王はそのまま俺たちのほうに向かって歩いてきた。

 なんでだよ、来るなよ、余計ややこしくなるだろうが。


 王は俺の顔をちらりと見たあと、王妃に問いかけた。


「無事か?」


「えぇ、私が持っていた解毒剤を飲ませましたから。ポーションは騎士が用意していたものを」


「そうか」


 そういえば体のだるさや傷が消えている。

 変な副作用もなさそうだし、まともな薬ってすげぇな。

 いつもエピスが作った妙なクスリしか飲んでないから感動するぜ。


 そういえばエピスも庭に入ってきている。

 お嬢もエピスもなんで入れてもらえたんだ?

 エピスの顔を見ながらそんなことを考えていると、


「ボスぅ」


 エピスが「おかわりいる?」みたいなノリで胸の谷間からハートポーションを出した。


「いらねぇよ、治ってるっつの」


「そっかぁ……いつも変なクスリしか作れなくてゴメンねぇ……」


 涙ぐむエピス。

 俺をにらむお嬢と王妃。


 ……なんだよ。


 なんですか?


「「トラッシュ、あなた……」」


「ぐっ……めんどく……じ、持病のしゃくがー!!」


 エピスの手からハートポーションを奪い取り、一気飲みする。


 ――――――――――――――――

 ハートポーション


 深い赤色の水薬

 強い癒しの効果を持つ

 副作用として、隣人に親愛の情がわく


 その傷が癒えたなら、敵の血を見て泣けるだろう

 あらたな傷をのぞむなら、友の血を見て笑えるだろう

 ――――――――――――――――


 トゥンク……ッ!

 心臓がうずく。

 クスリは用法用量を守って正しくお使いください……!


 今、誰かの顔をみるとヤバい。好きになっちゃう。

 俺は胸をおさえながらぎゅっと目を閉じた。


 その様子を見て王妃が、


「トラッシュ……? まさか毒!? あなた何を飲ませたの!」


「うん? ただのポーションだよぉ。ちょっと副作用があるだけだから毒じゃないよぉ」


「副作用……それならばいいのかしら……」


 まだ納得いってなさそうな王妃を無視して、俺はエピスにたずねた。


「どうでもいいけどなんでお前ら二人とも庭の中まで入っちゃってるんだよ。一般人は立ち入り禁止だぞ。騎士どもは何をやってるんだ、本当に仕事しねぇな」


「なぜか入れてもらえましたわ」


「そのなぜかを聞きたいんだが」


「ワシが入れたのだ」


 国王はまっすぐに俺の目を見ていた。

 ヤダッ、イケメン……!


 クッソ。やめろよ、いま目が合うと好きになっちまうだろうが。

 とはいえ、心の準備をしたうえで飲んだので副作用も軽い気がする。

 もしかしたら何度も飲んでいると耐性がつくのかもしれないな。

 何度もポーションを飲むような生活は求めてないんだが……。


 俺は目を揉みほぐし、副作用がおさまる時間をかせぎながら国王に聞き返す。


「国王様よう、なんで入れたんだ、こんな危険人物。民衆を導く革命家(自由の女神)かもしれねぇぞ」


「それだ! なんなのだあの大群衆は! お前の仲間はどうなっとる! 国家転覆こっかてんぷくでも考えているのか?」


「知るか! 俺だってわけわかんねぇんだよ!」


「自分の部下くらいコントロールしろ! ともかく、この女たちがお前の仲間だということは事前に調査済みだったからな……民衆が暴発する前に事情を聞き取るために連れてきたわけだ」


 おいおい、うちのチームメンバーの顔割れてるのかよ、怖いよ。

 俺のこと好きすぎだろ。


 自分で言うのもなんだけど『神のゴミ箱』なんて吹けば飛ぶようなギャングだぞ?

 しかも俺の方針で『殺人』と『危ない薬』はできるだけ禁止してる。

 国からしてもそんな毒にも薬にもならない奴らをマークしても時間のムダだろうに。


「お嬢、説明してくれ。まず、桜に寄生された肉丸が空を飛んでた理由は?」


「寄生なんて失礼な。あれはワタクシのスキルで生やしただけですわ」


「わかったわかった! 順番にいこう。まず、お前らは今日、3人で遊んでたんだよな?」


「そうですわね。トラッシュがくれたおこずかいでカフェーにいきまして、お紅茶をたしなんでいたのですが……そうですわ! ニンジンが空を飛んでいたんですの! 信じられます!?」


 エングランドが持ち込んだジェットニンジンだな。

 確か『実は道中、不幸なトラブルがありまして……持ってきた大半が空を飛んで逃げてしまったのです』と言っていた。

 そのときに逃げたニンジンがフラウたちのところまで飛んでいったんだろう。


 不幸なトラブル……?


 俺はどことなく嫌な予感がして、いまだ檻の中にいるドリコとブレイクをちらりと見た。

 ドリコは踊っている。いつものことだ、無視しよう。


 ブレイクはいつの間にか檻に入り込んだ肉丸と一緒に、仲良くニンジンを分け合って食べていた。


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