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第30話

 巨大タヌキの股間を隠すようにして仁王立ちする俺。


「チッ……! 最初からそれが狙いか!」


「んなわけ、ねぇだろ……タヌキのチンポジを死に場所に選ぶ男がいると思うか?」


「もう、いい」


 暗殺者は完全にキレたご様子。

 さきほどまで使っていたナイフを地面にほうり捨てた。

 すると、それが合図だったかのようにして、今度は空から何かが降ってきた。


 ひらひらと、白っぽい小さなものがひとつまたひとつと落ちてくる。


「雪……? いや、これは……」


 桜だ。桜吹雪だ。


 この世界でも桜は春に咲くはず。

 しかし今の季節は秋。

 しかも、広い中庭のなにもない上空から桜吹雪が降るなんて明らかにおかしい。


 つまりこれは……暗殺者のスキルか?

 千本桜〇義!?


「お前もバ〇カイを習得していたとはな……」


「さっきから何を言っている? この花びらはなんだ!」


 え……?

 まさか、こいつも知らないの?

 どういうことだ?


 あらためて空を見上げると、はるか上空に何かが浮かんでいるのが見えた。

 よく見ると、桜の木のようなものが浮いている。

 そんな馬鹿な。見間違いか?


 俺は金視眼きんしがんを発動して鑑定してみると、どうやらあれは『美人薄命』という名の桜らしいことがわかった。

 その鑑定中、桜の後ろにちらりと見えたものもついでに鑑定してしまった。


 ジェットニンジンだ。

 ジェットニンジンが桜の木の根元にくっついている。


 つまり、ジェットニンジンの推進力であの桜は空に浮かんでいるってことか?


 いや…………現実逃避はよそう。

 見えてる。

 俺にも見えてるんだ、背中から桜の木を生やして、ジェットニンジンをくわえたまま空を飛んでる肉丸の姿が。


 いや、バケモンですやん。

 なんでそうなる?

 そんな合体技、いつの間に習得してたの? それもまたバ〇カイなのか? それとも幻術なのか?


 うわ、目が合った。いま目が合ったって……!


「あっ」


 自分のほうを見ている俺に気付いたのか、嬉しそうな顔を浮かべた肉丸は、「ミィ」とでも鳴いたのだろう、聞こえないけど。

 その拍子にジェットニンジンから口を離してしまい、急降下し始めた。


 俺はふたたび地面へと視線を戻すと、暗殺者と目が合った。


「よそ見とは余裕だな、庭師。さっさとそこをどけ、もうお前に用はない。王子を殺して撤退させてもら……」


「おい、終わりだ」


「なに?」


 俺は暗殺者に人差し指をつきつけて、呪文を唱える。


「メテオ」


「またわけのわからんことをぐぶぇッ!!」


「ミィィィイ!」


「はいはい、いい子いい子」


 暗殺者の頭に落下した肉丸はスキル『物理無効(スライム用)』のおかげでなんの問題もなく着陸し、心配そうな顔で俺にすりよってきた。

 ぬるぬるになるから離れてほしい。


「か、確保-ー!!!!」


 意味不明な状況に、一瞬中庭は静まり返っていたが、ようやく正気を取り戻した騎士の号令で、騎士たちは暗殺者を取り押さえた。

 こいつらまじで役に立たなかったな。


 それより、もう、眠くなってきた……毒が……限界だわこれ……。


「ミミ?」


「ちょっと……寝るわ……」


 地面に体を横たえると、さらにダルくなってきた。

 これ死ぬやつか? 死ぬ毒か死なない毒かだけでも聞いとけばよかった。


「トラッシュー! 大丈夫ですのー!?」


 なんだか、お嬢の声も聞こえるなぁ……あいつは今日遊びに行ってるはずだし、これは幻聴だろう……。

 首だけ動かして声のするほうを見てみると、王城の庭を取り囲むようにして、大量の人たちがいた。

 服装を見るに平民が大多数のようだ。

 大群衆はなにやら「豚ちゃんはどうなったの!?」「神の奇蹟きせきだ!」とか騒いでいるが、騎士たちに押し戻されて、庭には入れないようだ。


 まさかこれも暗殺者の、エングランド帝国側の仕込みか?

 なんだか興奮しているし、暴動寸前といった感じだ。

 あんな奴らが全員庭になだれ込んで襲ってきたら、それこそもうどうしようもないぞ。


 こわいなぁと思いながら群衆を見ていると、ふと見覚えのありそうな人物が目に入った。

 まるで大群衆を率いるリーダーであるかのように、ちょうど真ん中あたりに二人の女性がいた。

 それはどう見ても、お嬢とエピスだった。


「なに……してんの、あいつら……革命ごっこか? さすがにそれはまずいって……」


 平民の大群衆を率いて王城に乗り込むとかヤバすぎる。

 内乱罪で即死刑じゃねぇか?

 そんなヤバイことをくわだてるなんて……いったいどこのギャングだよ……ボスの顔が見てみたいわ……。


「って、俺やないかーい……」


「ミミ?」


 あまりの現実に気が遠くなった俺は、そのまま意識を失った。


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