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第34話

「はーい並んで並んで! 並んでくださーい! ……ならっ、並んでっ……並べっつってんだろうがァ!」


 城の倉庫にあったらしいデカい鍋からもうもうと湯気がたちのぼる。

 鍋の中には具のたくさんはいったスープがなみなみと入っており、城の料理人たちがぐるぐるとかきまぜている。

 いい香りが城の庭にただよう。


 もうまちきれないといった顔をした老若男女が鍋に群がっている。

 列の整理をする騎士たちにまじって、なぜか俺も交通整備をやらされている。


「あせらなくても全員分あるんだからちゃんと並べ! とくにそこのニワトリ野郎! 犬は猫舌だから焦ってヤケドしたら困るだろ? 鍋が冷めた頃にまた来い」


「犬は犬舌に決まってんだろォ? テメェ、うちのボスなめてんのか!?」


「ぺろぺろぺろぺろ……さっきから俺の足をナメてんのはお前んとこのアホ犬だろうが! ちゃんとしつけとけ!」


「ボスぅ! そんなもんナメたらバッチぃですぜ!」


 あぁもう、ズボンがべちょべちょになっちまったじゃねぇか。


 やっとこさ並びだした人々から目を離して少し離れた場所を見ると、料理人たちがひぃひぃ言いながら野菜や肉を切りまくっている。


 突然開かれた『謝肉祭』。

 準備も何もできていないので、とにかくすぐにつくれるごった煮スープを提供することになった。


 具材はエングランドが持ち込んだ特産品であるジェットニンジンや、その他野菜、芋やカボチャなど、とにかく野菜ばかりである。

 そこにフラウス側の特産品として用意していた豚肉をあわせて鍋にぶち込んだ。

 豚汁みたいなものだろうか?


 列に並んだ民衆どころか、料理人たちもこれが何の料理か理解していなさそうな雰囲気だ。


「これなんて料理だ?」「知らねぇよ、適当にありものつっこんだだけだろ」


「芋が多くねぇか?」「じゃあ、芋煮だな」


 おい、その名前はやめろ。

 後々、戦争になるぞ。


「あの飛んでた豚ちゃん、肉丸ちゃんっていうらしいわよ」


「じゃあ肉丸煮込みか?」「肉丸スープとか?」


「あの豚ちゃん、具材になっちゃったの!?」


 女や子供たちが騒ぎ出す。


「豚ちゃんは無事です! 肉丸、ちょっとこっち来い!」


「ミミィ」


「ほらこの通り、元気にぬるぬるしています!」


「ミ」


 その後も、たびたび肉丸が無事かたずねてくる奴がいるのでめんどくさくなった俺は、鍋の横に肉丸用の特等席を用意して、そこに座ってもらうことにした。

 無事な姿をみんなに見てもらおうというわけだ。


「ミンミィ」


「めんどくさいだと? こっちだってめんどくさいんだよ、我慢しろ。お前用の豚汁もここに置いといてやるから」


「ミミミ?」


「あぁわかった、酒も持ってこさせるから頼むって」


 メイドさんがわざわざ持ってきてくれた少し豪華な机の上に肉丸がちょこんと座っている。

 肉丸の周りには、おそなえもののように豚汁、酒、果物などが置かれて、いたれりつくせりの状態だ。

 机の両側にはいつのまにか桜の木まで生えている。

 お嬢のスキルだろう。


「はい、こちらも並んでくださいましー」


 お嬢は肉丸の横で花を配っている。


「お花いっぽん5ギルですわー。子供は無料ですわー」


「おねぇちゃん、ありがとう!」「アタイにもちょうだい」「花は食えねぇからいらねぇなあ」


 5ギルなんて、おやつ代にもならないけど金は金だ。

 ちゃっかりしている。


 そういえば他のメンバーは何しているんだろうと気になり探してみると、エピスは料理人の前で正座をさせられて何やら怒られている。


「鍋に何を入れやがった!」


「ただのポーションだよぉ。ちょうど大量のスープがあるじゃない? 希釈きしゃくしても効果があるのか実験したくってぇ」


「実験!? 本当にポーションだろうな? 妙な色してなかったか?」


「これはハートポーションっていってねぇ、普通のやつよりすごいんだぁ。それより次はコレを入れていい? 『寝る寝る寝るね』っていう粉薬でね、巨人ですら5秒で眠らせる睡眠薬なんだけど」


「入れていいわけあるか!」


 あのマッドアルケミスト(いかれやろう)は1回捕まったほうがいいんじゃないか?

 他人のふりをしておこう……。


「おじちゃん、もっと速く走ってー」


「ダメダゼ! これ以上やると止まれなくなっちまうゼ!」


 ブレイクはその背中に子供を3人も乗せて、広い庭を走り回っている。

 いつもの癖で暴走なんかした日には、子供が落馬して大けがをするだろうけど……なんだかんだあいつは面倒見がいいから、大丈夫だろう。

 あいつはTPOをわきまえて暴走するタイプだからな。


 人面馬じんめんばが走り回るスペースの隣に、小さなステージのようなものがあるのに俺は気づいた。

 ステージ上にはドリコがいる。

 ステージのまわりには主に女がむらがっている。


「次は、僕のオリジナルダンスをやってみるね! 昨日、不幸な行き違いがあってね、僕と相棒のブレイクは不運にもとらわれの身となってしまったんだ……」


「きゃー、かわいそー!」「ドリコ様こっちむいてー!」


手枷てかせ足枷あしかせをつけられてしまった。僕は悲しんだ。なんてことだ、こんなものつけられたら踊れないじゃないか!」


「きゃー!」「あたしがはずしてあげたーい!」


 何やってんだあいつ。何言ってんだあいつ。

 捕まってる間そんなこと考えたのかよ。


「でも、僕は逆に考えた! 踊るのに手が必要か? 足が必要か? いや、いらない! 僕はたとえ四肢をすべて失っても踊ってみせるぞっ……てね」


「きゃー、かっこいー!」「抱いて-!」


 かっこいいか?


「そこであみだしたのが、この『ビバ・ドリルブレイク』だ!」


 ドリコはそう宣言した後、逆立ちをした。

 そして、手を床から離し、頭だけを床につけて、ものすごい勢いで回転し始めた。


 ブレイクダンスでああいう技があるのを見たことがあるな。

 ヘッドスピンだったか?

 けど、普通は帽子とかヘルメットを着けてやるんじゃないの?


 ハゲるぞあいつ。

 てか、ハゲろ。

 なんであいつだけあんなに女の子にキャーキャー言われてんだ。

 もとはといえば、ドリコとブレイクがアホなことしたから作戦が全部パーになったってのに……。


「クソッ……なんか腹たってきたな……」


「どうしたのです、トラッシュ」


 やけ酒でもしようかと思い始めたところで、ふと後ろから女性の声がした。

 振り返ると、王妃が侍女と騎士をそれぞれ一人ずつ連れてこちらへ向かってきていた。


「これはこれは王妃様」


「かたくるしい呼び方ですね。ですが……他に呼びようがありませんか」


 さみしそうな顔をされても困る。

 気まずいので目をそらして地面を見ると、汚いハンカチが落ちていた。

 今回集まった奴らの誰かがポイ捨てでもしたんだろう。

 俺は、それを拾いながら、スッと手癖で『ゴミ箱』へ回収した。


「……! それはあなたのスキルですね?」


「へ? ああ、そうですね。『ゴミ箱』っていうスキルでして、ゴミみたいなもんならなんでも出し入れできます。けど、宝石みたいな価値のあるものは入れられないんですよ……ゴミの回収にしか役立たない、しょぼいスキルです」


 実は、ついさっきどさくさに紛れてエングランドが持ち込んだお宝『翠玉南瓜すいぎょくかぼちゃ』をパクろうとしたんだが、『ゴミ箱』に入れることはできなかった。

 つくづく使えねぇスキルだ。


 価値あるものとはなんだろうか?

 たとえば、ゴミ箱に元から入っていた木刀も本来は価値があるものだ。

 そりゃあね、男のロマンを理解しない女どもからしたら木刀なんてゴミかもしれないよ?

 でも、実際、あの木刀のおかげで今回、俺は命を救われたんだ。

 価値のないものなんて、この世にはないんですよ神様、と言ってやりたいね。


 あいまいなスキルだが、俺の今の推測では、『神様がゴミだと思ったもの』とか『神様が捨てたもの』とか『どこかの誰かが捨てたもの』が入ってるんじゃないかと思ってる。

 だって、神様が木刀なんか買うわけないしね。


「でも、今回、あなたはそのスキルを使って私たちの命を救ってくれましたね」


「まぁ、そういうことになりますかね」


「すばらしいスキルだと思います」


 このスキルのおかげで俺は国王様に捨てられたわけだが……少なくともママンは反対してたし、この人に対する恨みはない。

 どう考えても俺に王族ごっこは無理だったし、なんなら捨ててくれてありがとうとパパンにも言ってやりたいね。


「トラッシュ。陛下から伝言があります。『祭りを楽しめ。後は任せた』とのことです」


「あれ? 国王様は挨拶か何かしないんですか? ぬるっと始まってぬるっと終わるのか。閉まらねぇな……」


「あなたが締めの挨拶をすればよいのでは?」


 いやいやいや、ギャングに何を言ってんだ?

 俺がそんなんするわけ……。


 …………


 ……



 夜も更けて、宴もたけなわ。

 鍋も酒も尽きてきた。

 いい頃合いだろう。


 俺は気合いを入れるために『ゴミ箱』から取り出したタスキに『本日の主役』と書いて自分の体にかけ、ステージの上にあがった。


 ――――――――――――――――

 文字入りタスキ


 メッセージを書けるタスキ

 ボタンを押せば文字が消えるので、何度でもご利用いただけます


 私が何度生まれかわろうとも

 あなたの名前を忘れないでしょう

 ――――――――――――――――



「えー、本日はお日柄もよく……」


「もう夜だぞー!」「誰だテメー」「トラッシュゥゥ! うちのボスさしおいてなにやってんだー!」「ワンワン!」


「うるせぇ! エライーヌは黙ってろ!」


 ステージの上から見渡すと、庶民、ギャング、犬、貴族っぽいやつらに、騎士やメイドまで、ごちゃごちゃといろんな人たちが城の庭に集まって、俺を見上げていた。


「しこたま食ったな? しこたま飲んだな? 誰のおかげで腹一杯になったと思う!?」


「誰だろう」「知らねぇ、聖女様とかか?」「これってなんの催しだっけ? 教会の炊き出しとかか?」「違うわ、豚ちゃんのお誕生日会よきっと!」


「国王様だよ! あと豚じゃなくてヒポポな?」


 俺はぬるぬるすべる肉丸をなんとか握りしめて頭上にかかげた。


「これにて謝肉祭は終了! フラウス王国ばんざーい! 肉丸ばんざーい! ってことで、解散!」


「「ばんざーい!」」「「わー!」」「ありがとー国王様-!」「肉丸様-!」


 王都中にひびきわたる万歳コールを聞きながら、俺はステージから降りた。

 まさかギャングをやってて王城でスピーチをする日がくるとはな。

 疲れたぜまったく。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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まだまだ更新は続けますので、引き続きよろしくお願いいたします。

今日の夜に登場人物紹介を投稿し、明日から新章を投稿開始します。


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