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第25話

 ひとつ、ふたつと同じような影が街の上空を通りすぎるたびに、街の人々のざわめきも大きくなる。


 フラウたちの近くにいたギルダー風の男たちがさわぎだした。


「あんな速い鳥、見たことないぜ」


「まさか、魔物じゃないか!?」


「オレンジ色で……先細ってて……ニンジンにしか見えねぇんだが?」


「バーカ、酔っぱらってんのかテメェ。ニンジンが飛ぶわけねぇだろ」


 フラウの目から見てもニンジンに見えた。


「エピス、紅茶を飲みすぎると酔っぱらうのでしたかしら? いつも飲めないおいしい紅茶でしたから、ついつい飲みすぎたのかもしれませんわ」


「紅茶は酔わないよぉ?」


「でも、ワタクシ、さっきからニンジンが空を飛んでるように見えるんですのよ? 酔っぱらってますわ!」


「大丈夫だよぉ、ボクにも空飛ぶニンジンが見えてるもの」


「まぁ! また危ないお薬を作って飲んだからじゃないですわよね?」


「自分では飲まないよ? それにボクのクスリは、いつもちゃんとボスかブレイクで実験してるし、安全だよぉ」


 それはひどい話ではないかしら、と思ったが、ひとまず自分が酔っぱらっているわけではないと判明した。

 では、あの空飛ぶニンジンはなんなのだろうか。


 と、その時、遠くから「どいてくれ!」と叫び声が聞こえてきた。


 そちらへ目をやると、大通りをすごい勢いで走る馬車がフラウたちのほうへ向かってきていた。


 馬が興奮しているようだ。

 もしかしたらあの馬もニンジンが気になって追いかけているのかもしれない。

 暴走する馬と聞くとブレイクのことが一瞬頭によぎったフラウだったが、いま大通りを走っているのはまともな顔の馬だった。


 ともあれ、危ないのでよけなければならない。

 フラウはエピスたちに声をかけて道のはじによろうと思ったが、声をかける直前で、肉丸が走り出した。

 あろうことか馬車へ向かって。


「ミーミミーッ!」


「危ないですわ! 止まりなさい肉丸!」


 止まれと言って止まるようなメンバーは『神のゴミ箱』にいない。


 そのまま馬車までたどり着いた肉丸は車輪と地面の間に挟まれてしまった。

 普通の犬や猫であればその時点で死んでしまっただろう。

 まわりにいた人々も「豚ちゃんが死んじゃう!」と悲鳴をあげた。


 しかし、肉丸は魔物である。

 子豚のような見た目だが、ヒポポと呼ばれるれっきとした魔物の一種。


 さらに、スキル『物理無効(スライム用)』を持っている。


 車輪と地面の間に挟まれた次の瞬間、肉丸の体はヌルスポンッと枝豆のように射出された。

 そのまま斜め上に飛んでいく肉丸。


 次に肉丸がぶつかったのはおしゃれな服屋の屋根だった。

 斜め四十五度に傾いた三角屋根を利用してさらに加速し、さらに高度をあげる肉丸。


「豚ちゃんが飛んでる!」と、まわりにいた子供たちも大興奮である。


 空高く舞い上がった肉丸は空中で短い手足をふりまわしながら速度を調整し、ちょうどタイミングよく通りかかった空飛ぶニンジンへ大口をあけてかぶりついた。


「「「おぉっ!!」」」


 さすがのニンジンも子豚ほどの重さには耐えられなかったのか、ふらふらとゆれながら肉丸といっしょに地面に落ちてくる。


 しかし、ニンジンもまだ負けていなかった。

 緑色の葉っぱを高速回転させギアをあげる。

 肉丸にかみつかれたまま、ふたたび高度をあげ、そのまま飛んでいった。


「「「あっ」」」


「肉丸ーー!?」


 あわてて追いかけはじめるフラウとエピス。


 肉丸の重みがあるためスピードは遅いものの、体を動かすのが得意ではない二人はじょじょに離されてしまう。

 このままいくと見失うと思ったフラウはスキル『お花畑』を使うことにした。


 えいっ、と気合いをいれると、遠く小さくなりかけている肉丸の体から一本の枝がにょきにょきと生えた。

 そして、すぐさま枝からは薄紅色うすべにいろの小さな花が大量に、こぼれるように咲きはじめた。


 エピスが息をきらしながら問いかける。


「ハァ……ハァ……フラウぅ、あれは?」


「美人薄命というお花ですわね。サクラの一種ですわ」


「こんなときに、なにやってんの? 綺麗、だけど」


「目印ですわ、ほら」


 空から大量の花びらがふりそそいでいた。

 咲いては散り、咲いては散り。

 まるで生と死をくり返すかのように狂い咲いている。


 本来、サクラは1週間ほどかけてじょじょに散っていく。

 だが、『美人薄命』という名をつけられた、あのサクラ種は1秒で散る。

 1秒で散って、また新しい花が1秒で咲く。

 咲いて散る行程を狂ったように丸一日くり返したあと、枯れはてる。


 その性質のおかげで、肉丸の姿が見えなくなっても花びらをたどれば追いかけられるとフラウは考えたのであった。


「おいっ、ヒポポが空を飛んでるぞ!」


「そんなわけ……ってほんとだ! しかもこれは……花びら?」


「ヒポポが花びらをまき散らしながら飛んでる!」


 さきほどから、そんな声が街のあちこちから聞こえてくる。

 それになにやら、自分たちの後ろがさわがしい。


 フラウはけんめいに走りながら、ちらりと後ろを振り向いて目を見開く。


「な、なんですのあなたたち!」


「うわぁお、大変なことになってるねぇ」


 フラウとエピスの後ろには、老若男女さまざまな人が走りながらついてきていた。

 貴族も平民も、商人もギルダーもごちゃまぜになって、みんな少し上を見ながら、追いかけて来る。


 その数は10人や20人ではきかない。

 100人以上の群衆から追いかけられるフラウとエピス。


 彼らが追っているのは肉丸だった。

 大群衆が、背中から花びらをまき散らしながら飛ぶ肉丸を追いかけている。


「これはもう収集がつかないですわ。というか意味がわからないですわ。なんですのこの状況は!」


「それより、着地点で誰よりも先に肉丸を確保しないとマズイよぉ」


「なにがマズイんですの?」


「あんな変な生き物、見せ物小屋に売られるか、『豚の丸焼き~ニンジングラッセを添えて~』にされちゃうよぉ」


「おいしそう……じゃなくてマズイですわ!」


 ただ美味しいスイーツを食べにきただけなのに、どうしてこうなってしまうんですの!?

 またトラッシュに怒られますわ!

 と、心の中で泣き叫びながら、走り続けるフラウであった。


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