第24話
~ フラウ&エピス&肉丸 side ~
王城の中庭で式典が始まったちょうどそのころ、ギャングチーム『神のゴミ箱』のフラウ、エピス、肉丸の三人はスラム街を抜け出し、王都へ遊びにきていた。
お気に入りの水色ワンピースを着たフラウは、スキップでもしそうなくらいに浮かれていた。
少しうしろからついて歩くエピスはその光景を生暖かい目で見ている。
フラウの手にはボスであるトラッシュからおこづかいとしてもらった金貨がにぎりしめられている。
トラッシュはエピスに金貨を渡したが、フラウがエピスに「貴族のたしなみとして大金を管理できるようになりたいんですの」頼み込むと、エピスは「いいよぉ」とあっさりとフラウに金貨を渡してしまったのだ。
「いいかげん財布にしまったほうがいいと思うなぁ、フラウぅ」
「ダメですわ! ワタクシ、いつもモノをなくしますから、こんな大金は手に持っていないと不安ですわ……。ぎゅっと握りしめている限り、どこにもいかないでしょう?」
「ふぅん。ところで、ボスからもらった金貨が何枚だったか覚えてるぅ?」
「もちろん。三枚でしたわね?」
「今、その手に何枚あるか知ってるぅ?」
「もちろん。ほらこの通り、さんまっ……!? にっ、二枚ですわぁぁあ!?」
パニックになるフラウを横目に「だよねぇ」と何か知っていそうな態度のエピス。
「ミミィッ!」と怒る肉丸。
「あと一枚、どこにいったんですの!?」
「スラム街を出る前に、ちいさな男の子がいたよねぇ?」
「へ? あぁ、あの迷子の子ですわね? ワタクシのノブリージュがついつい反応して、孤児院まで送り届けましたわね」
この場にトラッシュがいれば「ノブレス・オブリージュね」とつっこんでいただろう。
「その子に黄色い花をあげたよねぇ?」
「泣いていたのですもの。当然、お花をあげますわ」
フラウのスキル『お花畑』はいつでもどこでもどこからでも花を出すことができる。
こういうときにこそ輝くスキルであった。
逆にいうと、こういうときにしか役に立たないスキルだという自覚もあるため、街中で泣いている子供や女性を発見したときには、ここぞとばかりに花をプレゼントするようにしていた。
「その花を手のひらから出したときに金貨が転がり落ちてたよぉ」
「まぁ! そのときに言ってくださいまし!」
「その金貨をひろったのは孤児院の院長だったからねぇ、寄付ってことでいいよって伝えといたから大丈夫だよぉ」
「まぁ! それなら文句は言えませんわね。ナイスオブリージュですわ、エピス」
まだ少し怒っている肉丸をなだめながら歩いていると、王都のメインストリートにたどり着いた。
スラム街とは比べものにならないほど綺麗に整地された大通りをはさむようにして、多種多様な店が並んでいる。
国中から集まった人々が楽しそうに行きかっている。
自分の少しみすぼらしい格好を見てしょんぼりするフラウだったが、かつてトラッシュが言った「お前は黙ってれば貴族に見えなくもないんだよな」という言葉を思い出し元気を取り戻す。
エピスは相変わらず、黒い下着の上に白衣をはおっただけの格好でこんな場所までやってきてしまっている。
その度胸が少しうらやましかった。
肉丸はいつも通り、ぷりっとした体がぬるぬると光っている。
肉丸も王都の人の多さなどまるで気にしていないように、人々の足の隙間をするするとぬるぬるとよけながら楽しそうに走り回っている。
いろいろな店を冷やかしたあと、三人は休憩がてら小さなカフェに入った。
カフェの入り口には『神樹茶屋』という看板がかかげられている。
「いらっしゃい」
「ギリー、来ましたわよ~」
「おや、フラウじゃないか。花はまだ足りてるよ?」
カウンターから声をかけてきたのはエルフの女性。
銀髪のショートカットで、細くとがった耳が髪のすきまからつき出ている。
えりあしは刈り上げられており、男装の麗人という言葉がぴったりの外見をしていた。
彼女はこの店の店主であり、フラウがときどきハーブティー用の花を納品する客でもあった。
「なんと今日は、お茶をしに来たんですのよ」
「珍しいね。お金は……あるみたいだね」
手に握りしめた金貨を見せびらかすフラウにギリーは片眉をあげる。
「ペットがいるなら店内は無理だよ。表の席でいいかな?」
「ミィ」
「肉丸がそれでいいといってますわ」
店の外にある白い丸テーブルとイスを使わせてもらったフラウとエピスは、ギリーのいれた紅茶を飲みながら、ぺちゃくちゃとお喋りしていた。
肉丸はといえば、カパッと口をあけて熱い紅茶をいっきに流し込んだ後、イスの下にもぐりこんで居眠りをはじめてしまった。
「今ごろ、トラッシュはお城でお仕事中ですわね。はぁ、ワタクシも行きたかったですわぁ」
「仕事だよぉ? しかも、王様とかいるんだよぉ? ボクは絶対にやだね」
「ワタクシに流れる高貴な血が騒ぐんですのよ、『あなたは女王よ。城に向かいなさい』って……」
「平民だし、ギャングだねぇ」
二人とも普段なかなか食べられない甘いクッキーを夢中でほおばりながら、しばし沈黙が続いた。
「フラウがギャングをやめてまじめになりたいって言えば、ボスも方針転換するかもよぉ? フラウはボスのお気に入りだし、一番の古株でしょぉ?」
確かに、平民のギルダーが功績をあげ、貴族まで成り上がったこともある。
もちろん、その人物は『裏』の仕事なんてせずに、まっとうな仕事ばかりを選んでいたはずだ。
夢物語ではあるが、不可能ではないだろう。
「うーん、無理ですわね。どうかんがえても表の仕事だけで生きていける気がしませんわ……」
フラウの脳内に自身の失敗エピソードが大量に流れていく。
昨日の晩御飯を思い出すよりも、1か月前のクエスト失敗シーンを思い出す方がたやすかった。
フラウだけでなく、基本的に『神のゴミ箱』のメンバーは金を稼ぐのが下手である。
毎日、誰かしらがクエストに失敗するたびに赤字をうみだしているが、不思議と『神のゴミ箱』が破産することなく続いているのは、ほかでもないトラッシュがあちこちに頭をさげ、なんとかちょっとずつ返済したり、地味な表の仕事で手堅く稼いでくれているからだ。
「エピスこそどうなんですの? あなたのスキル『気まぐレシピ』があれば、本来、お金なんて稼ぎ放題じゃありませんこと?」
「ボクは一生ギャングでいいよぉ。変なクスリを作ってもボスは許してくれるし」
「許してもらえてますかしら? なんかいつも怒られてる気が……」
「ハハハッ、でも、なんだかんだ見捨てないでいてくれるよねぇ?」
フラウは、そうですわね、とぼんやりとつぶやいた。
なぜ彼が、問題児ばかりの自分たちを見捨てないでいるのか、いまだによくわからない。
いつも彼のスキル『ゴミ箱』から変なものばかり出してふざけているが、きっと本気を出せば、彼は一人でももっとうまく生きていけるだろう。
それこそ、表の仕事で成り上がることもできるような気がする。
それなのになぜ、自分たちを見捨てないのか?
文句を言いながらも、面倒をみてくれるのか?
わからないが、ただひとつ確実に言えるのは、彼がとびっきりの『おひとよし』だということだ。
本当は誰よりもギャングに向いていないのではないだろうか。
そんなことを考えながら、ふと足元をみると肉丸の姿が消えていた。
「あれ? どこに行ったんですの?」
「あっ、あそこにいるよぉ」
エピスが指をさしたほうを見ると、肉丸は大通りの真ん中で立ち止まり、空を見上げていた。
いちおう魔物ではあるので、「うわっ」と悲鳴をあげて避けていく人もいれば、「かわい~」と言いながらなでた後「ひぃっ、ぬるぬるするっ」と悲鳴をあげて立ち去っていく人もいる。
どちらにせよ迷惑をかけてしまっている。
飼い主……いやチームメンバーとして回収しなければならないだろう。
「ギリー、ごちそうさまでしたわ」
「うん、また来なよ」
トラッシュからもらったおこづかいがなければ払えないような高い代金を払って店を出ると、肉丸のもとへむかった。
「なにしてるんですのっ。カタギの皆さまに迷惑かけるなっていつもトラッシュが言ってますでしょう? ここはスラム街じゃありませんことよ」
「ミミッ」
「空になにか?」
肉丸の言葉を理解できるのはトラッシュだけなため、雰囲気で察するしかない。
肉丸につられてフラウとエピスも空を見上げた。
それにつられて、街ゆく人々もまた空を見上げていた。
「あれは……なんですの?」
「鳥じゃないのぉ?」
「ミミーミッ」
秋の空を切り裂くようにして、小さな影がひとつ横切った。




