第22話
~ ドリコ&ブレイク side ~
その日の夕方、フラウス王国のとある港にて、陸を離れる船を見送る男と人面馬がいた。
男は20歳になるかならないかの年ごろで、金髪碧眼の美男子。
人面馬のほうは、焦げ茶色の立派な馬体に、人間のおっさん顔がくっついている。
ギャングチーム『神のゴミ箱』のメンバー、ドリコとブレイクである。
「ふぅ、これで依頼完了だね。バナナス代くらいは働いたかな、ブレイク」
「恩にきるゼ、ドリコ。オレだけで依頼を受けても怖がられてどうにもならなかっただろうからな」
「ほんとにね。船員さんに荷物を受け取ってもらうだけでこんなに苦労するとはね……」
サルタの父ゴリラータからの荷物を無事に届けたはいいものの、受け取り手である船員が人面馬をはじめて見たようで、魔物と勘違いし、あやうく討伐されかけた。
そこをドリコが踊りながら必死に説得したというわけだった。
人のいいドリコだからブレイクのためにそこまで世話を焼いてくれたが、他のメンバーだと収集がつかなくなっていたことだろう。
「もうすぐ日が暮れはじめるし、今日はこの近くで泊まる宿を探さないとね、ブレイク。……あれ? ブレイク?」
相棒からの返事がないことを不審に思ったドリコが振り返ると、ブレイクは少し離れた場所に移動していた。
近よってみると、ブレイクは港に積まれていた木箱をじっと見つめていた。
「なにをしているんだい? 積み忘れじゃないよね、その箱は。僕たちのものじゃないし、あんまり近づかないほうがいいよ」
「そうなんだが……よく見ててくれ。この木箱、さっきからガタガタ動いてるんダゼ」
「動く?」
二人でしばし木箱を眺めていると、ガタガタッ、と確かに木箱が動いた。
「ちょっと……ちょっとちょっと、これまずいよっ! 中に誰か閉じ込められてるんじゃないか!?」
「おそらくそうだな。人身売買でもするつもりダゼ?」
「極悪人じゃないか! ギャングの風上にもおけないね。こうしちゃいられない、開けよう!」
ブレイクが前足で箱の一部を破壊し、そこからドリコがこじ開ける。
フタを開けてみると、中にはぎっしりとニンジンが詰まっていた。
「こ、これは…………ウマイゼ!」
「なに食べてるんだブレイク! そんなことしてる場合じゃないだろう」
バリボリとニンジンを食べることに夢中になっているブレイクを横目に、ドリコはニンジンの山をほりすすめながら箱の中に誰か入っていないか探す。
しかし、人が出てくる気配はなかった。
「おかしいな……誰もいないぞ。じゃあ何が動いていたのか……」
「うわぁっ! オレのニンジンが!」
急に叫んだブレイクを見ると、彼が口にくわえているニンジンがまるで自分の意思を持っているかのように暴れていた。
ビクンビクン暴れ回るニンジンに耐えきれず、ついにブレイクが口から離した途端、なんとそのニンジンがものすごい勢いで空を飛んで逃げたのである。
「はぁ? どうなってるんだい?」
「わからねぇゼ。活きのいいニンジンダゼまったく」
「って、うわっ! ニンジンたちが!?」
ブレイクの口から飛び立ったニンジンがきっかけとなったのか、箱の中に入っていたニンジンたちもまるで鳥が飛び立つように、思い思いの方向へ飛んでいってしまった。
海のほうへ飛んでいったニンジン、街のほうへ飛んでいったニンジン、東西南北、ありとあらゆる方向へ、大量のニンジンが飛んでいったのだ。
その光景にポカンと口をあけて見とれていると、
「貴様ら、なんてことをしてくれたんだ!」
いつのまにやら、武器をかまえた男達が二人を取りかこんでいた。
ドリコは、毎度おなじみの衛兵さんかな、とあきらめ半分余裕半分だったが、よく見てみると、彼らは見慣れない格好をしていた。
いつもの衛兵が着ている赤っぽい制服ではなく、青色の立派な騎士鎧を着こんでいる。
その騎士たちの後ろには、文官のような男たちが何人かいる。
彼らの服も青色で統一されていた。
文官のなかから、一番年上で偉そうな態度の男が騎士たちを押しのけて前に出てきた。そして早口でまくしたてる。
「貴様ら、自分がなにをしたかわかっているのか? 我らがエングランド帝国の特産品であるジェットニンジンを逃がしおって! 友好式典でフラウス王家へ渡す大切な荷物なんだぞ!?」
「エングランド? ジェットニンジン?」
「ふんっ、これだから田舎もののフラウス王国なんて来るのが嫌だったんだ、ジェットニンジンも知らないとは。あのニンジンは成熟すると飛んで逃げるので栽培が難しい。成熟する寸前で収穫し、暗所で保存し、食べる直前で日光にあて、逃げる直前に調理をするのだ。あれは煮ても焼いても蒸しても生でも……」
彼の演説がBメロをこえてサビにさしかかったあたりで、騎士がとめに入る。
「特命大使どの、そのあたりで」
「すりつぶして冷やせばデザートにも……」
「大使どの! 我々は先を急がねばなりません」
「ぬ? そ、そうだな。しかし、こいつらはどうする」
「捕まえて、どこかで売り飛ばしましょう。この男は顔がいいから高く売れるでしょう。こっちの化物は……見せ物小屋が買うでしょう」
「見せ物小屋はもうこりごりダゼ」
「「「「しゃべったァ!?」」」」
そういえば馬がしゃべるのは変だよね、とドリコは内心同意しながらも、逃げ道を探すために周りを見渡す。
しかし、剣を構えた騎士たちに隙はなかった。
スキル|tiempo de festivalを使うしかないか、と決断したものの、時すでに遅く、ブレイクとドリコの首には剣がつきつけれられていた。
いつものブレイクならこの状況でも走り出して大暴れするのに、やけに大人しいなと思い、顔を見てみると、なぜかしょんぼりして、「見せ物じゃないんダゼ」なんて小声でつぶやいていた。
よくわからないが、テンションが低いらしい。
|tiempo de festival《ひとりで踊って》も意味がない。
ドリコはあきらめて、ひとまず捕まることにした。
「降参降参! おとなしくするから、殺さないでほしいな」
二人の首、手、足には鉄の輪がつけられ、口にも猿ぐつわをされて、青服の連中の馬車に無理矢理詰め込まれた。
馬車は何台もあり、二人が詰め込まれた馬車以外には、木箱やら、よくわからない銅像のようなものが乗せてあるようだった。
ガラガラと動き出した馬車の中でドリコは、『まぁ、僕達がアジトに戻ってこないとなったら、ボスが探しにきてくれるでしょ』とのんきに考えながら目を閉じた。




