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第21話

「ちょうどいい仕事があるぞ!」


「あぁ? なんだ叔父貴オジキか。朝から声がでかいよ」


 アジトのドアをバーンッ! と開けて入ってきたツルッパゲの大男は、我が物顔でずかずかと歩いてきたかと思うと、さきほどまでドリコが座っていた席にドカリと腰をおろした。


「エピスちゃん、酒をくれ!」


「シャンパンしかないよぉ」


「出さなくていいエピス! シャンパン入りません」


 仕方なしに出してやった粗茶をうまそうに飲むオジキは初老のくせにガタイがよく、覇気に満ちあふれている。

 近くにいるだけで目に見えない圧力を感じてしまう。


 実際、とんでもなく強いので、この裏街の顔役みたいになっている。

 こいつがいるおかげで、アホが多いスラム街でもまがい物の平和が保たれているといえるだろう。


 こいつは、一応俺の育ての親であり、ギルダーとしての仕事の仕方を教えてくれた先輩でもあり、ギャングの先輩でもある。

 国王である親父に捨てられて、気づいたらこいつとその仲間に育てられていたのだ。


無国むこくの銀貨』


 この国で最古のギャング。

 そのボス、オジキ。

 誰も名前を知らない。

 ただ、みんなオジキと呼ぶ。


「エピスちゃん、おかわり! 次はそのシャンパンとやらをもらおうか!」


「おいっ、なにしに来たんだテメー! うちはキャバクラじゃねぇんだよ、帰れよ」


「相変わらずトラ坊は真面目ちゃんなんだな! ンガハハハ!」


 ひとしきり笑ったオジキはつるつるの頭をなでたかと思うと、急に真顔になった。

 ギョロリとしたデカい目が俺をまっすぐにいぬく。

 真っ黒い目の奥にどんな感情があるのか読めない。


 怖い。

 素直にそう思う。

 なにもなければ気のいいおっさんではあるが、その裏には有象無象のギャングたちから恐れられる大ボスという事実が存在するのだ。


 子供のころからいくつか『無国の銀貨』の仕事も手伝ったが、エグいことも結構やらされた

 それでも手加減してくれていたはずで、裏では何をやっているのか、義理の息子である俺にも教えてくれなかった。


 こいつが持ってくる仕事なんてロクでもないに決まってる。


「トラ坊、お前……最近、金玉の調子はどうだ? 使ってっか?」


「はぁ!? 朝っぱらから何を……って、あぁ、こっちね。使ってるぞ、ぼちぼち」


 いきなりエグい下ネタとかやめろよ……と思ったけど、すぐに金視眼きんしがんのことだと勘づいた。

 俺は目をチカチカと光らせながら返答した。


「ならいけるな。アイン坊からの依頼だ」


「クッソ厄ネタじゃねぇか……」


 俺は思わず両手で頭を抱え込んだ。


 アイン・フラウス。

 俺たちが住んでいるこのフラウス王国、その王の名だ。

 王様のことを「アイン坊」よばわりするのはこのおっさんくらいなものだろう。


 なんでギャングの元締めみたいなオジキが国王からの仕事を持ってこれるのかというと、オジキが現国王の兄だからである。

 なんで兄のくせに王様になれなかったのかというと……まぁ、俺みたいに捨てられたんだろう。


 くわしく聞いたことはない。


『無国の銀貨』は表向きギャングではあるが、裏の顔は国公認で汚れ仕事を請け負っているんだろうと思う。

 なんとなくそうなんだろうなという想像でしかないが。


 この国は腐りきっている。

 表ギルドも裏ギルドも国とズブズブの関係なのは周知の事実である。

 俺らみたいなしょっぱいギャングが国と関わりを持ったところで国民に大した影響はないだろうけれど、裏ギルドに所属している者の中には暗殺専門の奴らもいる。

 国や貴族が公然と暗殺者を利用していると考えれば、いかに狂っているかわかるだろう。


 なにが表でなにが裏なのか、もはや誰にもわからない。

 裏の裏が表とは限らないのだ。


「偉大なるフラウス国王様が、こんなしょっぱいギャングになんのご用なんですかねぇ? ゴミの回収ならやってませんよ~?」


「ンガハハ! そうふて腐れるな。依頼は当然、その目ん玉を使った鑑定だわな」


「鑑定? お宝でも見つけたのか?」


「明日、エングランドとの友好式典があってなぁ。そこでお宝を鑑定してもらう」


「明日!? 直前すぎだろが……」


 俺たちが住んでいるフラウス王国は、隣国であるエングランド帝国と仲が悪い。

 昔はがっつり戦争をしていたらしい。

 今ではたまに小競り合いがあるくらいだが、ずーっと緊張状態が続いているものだから、その状況にお互いが疲弊してきていた。

 そこで一時的でもいいから和平を結びましょう、ということになり、今回の友好式典が開催されることになったらしい。

 友好式典では、お互いの国の特産品や芸術品を交換して友好の証とするそうな。


 エングランド帝国からは特命大使を筆頭とした使節団がやってくる。

 フラウス王国からは、国王と第一王子が式典に参加し、使節団を出むかえる。

 俺の実の父と兄だ。


「トラ坊もその式典に参加して、エングランドの連中が持ってきたお宝をこっそり鑑定するってのが今回の依頼内容だ」


「ぜってーやらねー」


「ンガハハ! 鑑定師みたいな顔してアイン坊の横に並べって言ってるわけじゃあない。国からは偽鑑定師が参加するからな」


「偽鑑定師?」


 我らがフラウス王国には『鑑定』スキルを持つ者がいない。

 スキルの有効性や稀少性にはピンからキリまであるが、『鑑定』はかなり稀少で、一国に一人いるかいないかというところ。

 フラウス王国にはいない。エングランド帝国にはいる。


 エングランドの使節団にはおそらく鑑定師がついてきて、お宝交換のタイミングで、お互いの持ち込んだ品物に変なものが混じってないか鑑定することになる。

 ところが、こちらにはその鑑定ができる奴がいない。

 そこで登場するのが偽鑑定師と俺ってわけだ。


「トラ坊はこっそり鑑定して、その結果を偽鑑定師に伝えればいい」


「金視眼を使うと眼が光るし、エングランドの奴らに怪しまれるだろ」


「ふうむ……そうだなぁ。なら、エングランドの奴らの後ろに回って、視界に入らないようにすればいい。式典会場は王城の中庭だし、広いぞ。これで問題解決だな! ンガハハ!」


「作戦ガバすぎぃ……」


 俺は頭の中で式典会場での配置を想像する。


 ――――――――――――――――


      [俺]


  [エングランド帝国使節団]


  [エングランド帝国の鑑定師]


     [お宝]


  [フラウス王国の偽鑑定師]


[フラウス国王] [フラウス第一王子]


 ――――――――――――――――


 こんな感じか?

 ……俺の立ち位置不自然すぎん?

 お前だれだよってなるじゃん。

 完全に不審者じゃねえか。


「って、そもそもどうやって偽鑑定師と意思疎通するんだ? 離れてるし喋れないし」


「カ~ッ、そんなもんアイコンタクトでもジェスチャーでも、どうとでもなるだろうに! トラ坊は心配性だなァ」


 他人事だと思って適当言ってくれる!


 想像してみろよ。

 美しく整えられた王城の中庭。

 今までいがみ合っていた国同士が友好を結ぶ大事な式典。

 厳かに貴重品の交換がなされるその場で、一人だけポツンと中途半端な位置にいる俺が変な動き(ジェスチャー)をしている場面を。

 城の騎士に逮捕されるわ。


「無理無理無理! いくらオジキの頼みだからって、今回ばかりは絶対やらねーからな!」


「そうか……それは残念だ……報酬は前金で500万ギル、依頼達成後には追加で500万ギルなんだが……」


「オジキ…………いえ、オジ様?」


「お、おじ様? なんだ急に気持ちわる――」


「報酬は合計で1000万ということでよろしかったでしょうか?」


「そうだぞ。でもやらないんだろう? アイン坊には他をあたるように伝えて――」


「っしゃあああぁぁぁ!!!! やらせていただきまぁ~~~~すッ! 誠心誠意つとめさせていただきまぁああすッ!!」


 1000万ってどれくらい!?

 外資系のイケイケサラリーマンの年収くらいかなァッ!?

 1000万ギルの使い道を妄想していると、お嬢がぽつりと、


「王城の中庭で式典……えらくまともな仕事ですわね」


「どこがまともだ。裏も裏だろ。国相手の詐欺みたいなもんだからな」


「それでも素晴らしいですわ! 国をあげる一大イベント。当然、上級貴族であるワタクシも参加しないといけませんわよね?」


 お嬢が期待を込めた目でオジキを見つめると、オジキは申し訳なさそうに、


「あぁ~、悪いなフラウちゃん。今回はトラ坊だけなんだ」


「ずるいですわ! いつもトラッシュばっかりおもしろそうな依頼を受けて!」


 いや、全然おもしろくはないだろ。

 てか、いつも思うんだけど、なんでギャングのボスである俺がせかせか働かないといけないんだ?

 お前らがまともに稼いでくれたら今頃、俺はソファにふんぞりかえって葉巻でも吸いながらだらだらしてたはずなのに……!


 お嬢と、それに便乗した肉丸がやいやいミイミイ騒ぎ出したので、俺はふところから金貨を何枚か取り出してエピスに渡した。


「ほれ。こづかいをやるから、明日俺が式典に参加してる間、お前ら3人はどっか遊びにでも行ってこい」


「わぁ、ありがとぉ。でもなんでボクにお金を渡すのぉ?」


「お嬢は絶対金を落とす。肉丸はそもそも金を持てない。エピス、お前だけが頼りなんだ」


 エピスは了解と言いながらブラジャーの中に金貨をしまった。


「太っ腹ですわね~! って、トラッシュはワタクシのことをなんだと思ってますの!? でも、今回は金貨に免じて許してさしあげますわ」


「ミミッミミミッミ」


 よしよし、お嬢も肉丸も金貨に夢中で式典のことは忘れてくれそうだな。

 俺のポケットマニーから出すことにはなったけど、報酬が入ればこれくらい必要経費の範囲内さ。

 報酬が入れば、ね……。


 不安になってきたな……大丈夫か?


 いやいや、大丈夫なはずだ。

 なんせ今回は俺のソロプレイ。

 うちのアホどもは誰もいない!


 ブレイクとドリコはサルタからの運び屋依頼で遠出してていないし、お嬢、肉丸、エピスにはおこづかいまであげたから、どこかへ遊びに行くはずだ。

 俺がギャングIQ180の頭脳を使って完璧な作戦を立案しても、いっつもこいつらが作戦を崩壊させやがるんだもんな……。

 でも今回はそれが、ない!


 はい勝った。

 1000万ギル確定ですこれ。


 華麗なるギャングボスの金視眼(きんたま)大作戦が始まるぜ。


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