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第20話

 朝、アジトの2階で目を覚まして木窓を開けると、まだ静かな大通りが見える。


 前世からの癖なのか、勝手に早朝に目が覚めてしまう。

 俺は早朝の薄青うすあおにつつまれた世界が好きだ。


 スラム街とはいえ、そこまで汚くない大通りには、早起きな老人が一人歩いているのが見えるくらいで、他に誰もいない。

 あっ、一人酔いつぶれたおっさんが寝てやがる。死んでるかもしれないが、まぁスラム街でそんなの気にしてたら何も話が進まない。ほうっておこう。


 あくびを二度三度くり返しながらアジトの一階に降りると、当然誰もいない。

 何人かはアジトに住んでいるが、まだみんな寝てるんだろう。


 いつも打ち合わせに使ってる大机にぽつんと一人着席してだらけていると、ふと見慣れないものが目に入る。


「ナス? なんで?」


 細長いナスが机の真ん中に置いてある。

 しかも山盛り。


 ギャングのアジトに果物用のカゴみたいなシャレたものはないので、机の上にそのまま大量のナスビがぶちまけられている。


 昨日の夜はこんなのなかったよな?

 誰が置いたんだ?


 1つ手にとって金視眼きんしがんで見てみると、


 ――――――――――――――――

 バナナス


 濃厚な甘さが魅力的なバナナ

 エングランド帝国で栽培される


 猿の王は黄金の木を切り倒した

 それ以来、紫の尾を持つ子供が生まれるようになった

 ――――――――――――――――



「バナナかよっ」


 紫色の皮を向いてみると、確かにバナナみたいに縦にさけた。

 身はクリーム色で、もろにバナナだ。

 少し身構えながら、モムリと口に含むと、俺の脳ミソは南国へ吹っ飛んでいった。


「あんまっ! うんまっ!」


 前世でも食ったことないくらいの特濃の甘さ。

 俺は夢中で食い続けた。


 1本、2本、3本……。


 夢中で夢中で食い続けた。

 食い食い食い食い食い続けた。


 ……。


「トラッシュ、おはようございますわ。いい朝ですわね?」


「ウホッ」


「うほ? トラッシュ、あなた何を食べてるんですの?」


「ウホホ」


「ちょっとみなさまー! トラッシュがまたおかしくなりましたわー!」


「はっ……! 俺はいったい……?」


 意識を取り戻すと、机にはバナナスの皮が散乱していた。

 あまりにもおいしくてついついゴリラになっちまった。


 フラウが騒いだせいで、チームメンバーたちが起き出してきたので、そのままみんなで机をかこんでバナナスを食べた。


「甘いですわ~! なんですのこれ?」


 フラウも今まで食べたことないらしい。


「さすが高級品ダゼ」


「ミーミミ」


 ブレイクと肉丸は皮ごとバナナスを食べている。


「え? これ高いのか?」


「たしか1本で1000ギルくらいダゼ」


「ほあ!? 高すぎだろ……」


 そりゃあ美味いはずだわ。


 てか、ブレイクは馬のくせになんで高級品なんて知ってるんだ?

 謎だ。

 こいつと肉丸は昔、見世物みせもの小屋で拾ったんだが、その前はどういう暮らしをしていたのか知らないんだよな。


 こいつらに限らず、そもそも俺はメンバーの過去をほとんど知らない。

 詮索せんさくする気もない。

 だって、俺の過去についてもみんなに話してないからな。


 フラウは、昔、俺がギルドの依頼でおとずれた廃墟はいきょで拾った。

 廃墟の中、裸でぼーっと立っている女がいたんだ。それがフラウだった。

 その前のことは知らない。

 そもそもこいつは、その時点で記憶喪失だったから本人も過去のことは知らないらしい。

 気づいたら廃墟の中にいたのだとか。


 エピスは、とある依頼で出会っていつの間にかついて来てるけど、その前のことは知らない。

 出会った当初はもっと真面目ちゃんだったのに、いつの間にやらこんなマッドなアルケミストになっちまって……。


 ドリコの過去も、よく知らないな。

 踊り子として旅をしていたらしいが、こいつは金稼ぎが絶望的に下手だから無一文になったらしい。

 それを見かねたギルドの職員が俺に押しつけてきたってのが出会いだ。

 うちはゴミ捨て場じゃねぇんだぞ。

 ギルドの連中は、「とりあえず変な奴はあいつに丸投げすればいい」とでも思ってるんじゃないか?


「お前ら、今日はどうすんだ? なんかいい仕事でもあるか?」


「ワタクシはお花を売り歩きますわ」


「僕はもう少しで阿波踊りをマスターできそうだから、引き続き練習するよ」


「ボクは透明薬の開発をしよっかなぁ」


「おいおいおい! 趣味の話を聞いてるんじゃないんだよ。仕事だ仕事!」


「ワタクシのお花売りは仕事ですわよ」


「また1本5ギルで売るんだろ? 趣味みたいなもんだろそれは」


 お嬢はときどき自分のスキルで出した花を売り歩くんだが、安すぎるんだよな。

 買ってくれるのは子供とかお年寄りばっかだし。

 まぁ、それで街の人間が喜んでるからやめろとは言えないが。


 結局、今日も俺が無難な仕事をして小銭を稼ぐしかないのか……?

 クソッ、俺がチートスキルなんかを持っていればガンガン稼いでもっといい場所にアジトを構えて……。

 それから……それから……それから、どうするんだろう?

 結局、今とあんまり変わらず、こいつらとバカな話をして毎日をすごすことになりそうな気がする。


「ボス、それならいい依頼があるゼ」


「ブレイク! お前だけが味方だよ。で、どんな依頼だ?」


「木のぼり名人サルタからの依頼ダゼ」


「木のぼ……猿……? なに? 誰?」


「果物屋のゴリラータの息子ダゼ」


「ちょっと待て、猿なのかゴリラなのかはっきりしてくれ」


「サルタもゴリラータも人間ダゼ」


「ややこしいな。あー、つまり、果物屋の息子からの依頼ね? って、ガキんちょからのお願いごとじゃねぇか! 依頼料はおこづかいから出してくれるってのか? 仕事の話をしたいんだよ、俺は! ふざけんな」


 俺はイライラしながら、バナナスをやけ食いする。


「待ってくれボス。この依頼はうけないとマズいことになるゼ」


「は? なんでだよ」


「もう食べちまったからな、バナナスを。それが依頼料だったんダゼ」


「おおぉぉい! お前かよこれ置いたの! 罠じゃねぇかァ!」


 見渡すと全員バナナスを1本以上食べた後だ。

 てめえら目をそらすんじゃねえ。


 罠とはいえ、食っちまったなら仕方ない。

 一宿一飯の恩は返さないといけないよな。


「んで、サルタスからの依頼内容はなんなんだ?」


「サルタ、ダゼ。バナナスと混じってるゼ。依頼内容は運び屋仕事ダゼ」


 ブレイクの話をまとめると、ここから馬車で半日ほどの場所にある港まで果物を運ぶ予定だったサルタの親父さんがケガをして仕事をこなせなくなってしまい困っているらしい。


 そこへ登場したのが我らが破壊神ブレイクス・ブレイクス。

 衛兵から逃げるため、街中を爆走している最中に脚をすべらせサルタが店番をしていた果物屋につっこんだあげく、高級フルーツであるバナナスの箱を破壊して道にぶちまけた。


 高級品であるがゆえ、傷ひとつでもついたら価値がさがるということで弁償しろと言われてしまった。


「代わりに働くので勘弁してほしいと交渉した結果、バナナスの弁償代として受けることになったのが今回の仕事というわけダゼ」


「ブチ殺すぞてめぇ! ぜんぶお前のせいじゃねえか!」


 よく見れば机の上のバナナスには、どれも傷がついていたりする。

 中身は無事そうだからスラムの住人は気にしないだろうけど、貴族相手だと売れないんだろう。


「しゃあねえ。すまんがドリコ、このアホと一緒に港まで行ってきてくれるか?」


「もちろん、いいよ。僕もバナナスを堪能たんのうしたし」


「マジ助かるわ。頼んだ」


 二人はすぐに用意してアジトから出ていった。

 今日中にケリをつけて、明日には帰ってくるだろう。


「はぁ……まったくよぉ。んで、なんの話をしてたんだっけ? あぁ、金だよ金。どっかに割りのいい仕事転がってねぇかなぁ……」


 俺がそうぼやいた次の瞬間、アジトのドアをバーンッ! と開けて、ツルッパゲの大男が乱入してきた。


「ちょうどいい仕事があるぞ!」


 ドアは静かに開けてくれよ。



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