第19話
「ア゛ァァ……ア゛ァ? ア゛ァ? オア゛ァアアア!」
「い、生きてますやん……キレてますやん……!」
その場に座り込んだドラッグマの胸からは血がだらだらと流れ出ている。
どうやら弾はちゃんと当たったらしい。
痛むのか、胸をかきむしりながら悶えていたドラッグマは、また新たに腹ポケットから緑色のドラッグを出してグチャグチャと噛み出した。
ガンギマった奴は再び立ち上がり、陸上選手ばりのフォームで走り出した。俺のほうに向かって。
「アカンッ」
俺もすぐさま立ち上がり、全力で逃げる。
走り出した俺は異変に気付く。
足がすべって全然前に進まねぇ!?
そうだった。このあたり一帯に肉丸エキスをばらまいてもらったんだ。
走っても走っても景色が変わらない。前に進めない。
「なにこれ! ランニングマシーン!? ランニングマシーンみたいになってるッ!」
クマは? クマはどうなってる?
後ろを振り向いて確認すると、
「オア゛ァ!? オア゛ァ!?」
「アハハ! クマも! クマもランニングマシーンみたいになってるッ! ってワロてる場合かッ」
なにこの状況?
なんとなく既視感がある。
人間とクマと、あとなんかいろんな生き物が草原を走り続ける光景をどこかで見た気が……。
『まんが日本昔ば〇し』のエンディング!?
「って言ってる場合か! 死ぬゥ! 助けて肉丸ぅ!」
「ミーッヒッヒ」
「お前、ウケすぎだろ!? なに余裕こいて観戦モードに入ってんだ! タスケテ! マジで死ぬからッ」
その場で走り続ける俺。
俺を追いかけるためにやはりその場で走り続けるドラッグマ。
それを爆笑しながら観戦する肉丸。
10分か20分かわからないが、そんな状況が続いた。
日本〇ばなしのエンディングどころかオープニングからフルでご視聴いただけるくらいに走り続けた。
そして……先にバテたのはドラッグマのほうだった。
ゼェゼェ言いながらその場に座り込んだアイツを横目で確認した俺も、ようやく足を止める。
「ハァ……ハァ……死ぬ……」
「ゼヒィ……ゼヒィ……」
静かな森の中、俺とクマの荒い息だけが聞こえる。
「おい、クマさんよぉ……一緒に戦場を駆け抜けた俺たちはもうマブダチだろ?」
「オァ?」
「そうだ、のどが乾かないか兄弟? いいものがあるんだ、一杯やってくれや」
エピスに作ってもらった例のブツを取り出し、ドラッグマに投げ渡す。
奴は器用にそれをキャッチした。
――――――――――――――――
アドレナリンジャンキー・ハイスピードリミックス
脳と心臓に素早く届くエナジードリンク
飲んだその瞬間から、あなたの脳と心臓は3倍速で走りだす
私の戦場は紙の上だ
今宵、脳と心臓をここで使い潰してもいい
――――――――――――――――
「オゴッ……オゴッ、ゴッ、ゴッ」
「おぉ、いい飲みっぷりだなぁ」
「オゴッ……オ…………ア゛? オガガガガッ!?」
「効いてきたか……エナジードリンクってレベルじゃねぇだろ」
胸をかきむしり始めるドラッグマ。
口から白い泡を吹き、白目をむいている。
そして……最後は痙攣しながら死んでいった。
ただでさえドラッグでズタボロになった心臓に、全力ダッシュと『アドレナリンジャンキー・ハイスピードリミックス』でとどめを刺したのだろう。
さすがエピス。変な薬だけどしっかり効くんだよなぁ。
肉丸くんはあとで話したいことがあります。職員室まで来てください。
ドラッグマはクマにしては小さいので、なんとか肉丸と協力してギルドまで持ち込んだ。
もちろん一度は『ゴミ箱』に入らないか確かめたけど、入らなかった。
死体のどこかに役に立つ素材が含まれているからだろうか?
丁寧に解体して、捨てるしかない部分だけをゴミ箱に入れることはできるかもしれないが、そんなものを入れる必要もないので、結局肝心なときに役に立たないスキルである。
「ルギィちゃん、ドラッグマをしとめてきたぞ。死体は裏口から解体屋に渡してきた」
「うわぁ! ホントに殺ったんだ~。すご~い」
「オクタ、これ頼む」
「承知でござる。神ゴミ氏、やりますなぁ」
解体屋から受け取った完了証明書をオクタに渡した直後、受付の奥から痩せた男が走りよってきた。
「ちょっと待て! トラッシュ……また貴様か……! あれはどういうつもりだ!?」
「アレってなんすかぁ? 阪神優勝?」
「あれは……あれだ! わからんのか! クソッこれだから裏の連中は……チッ、もういい、報酬は半額だからな!」
「ほぉ、さすがはギルマスのモノマネ芸人さんは多大なる権限をお持ちのようで」
憤死するんじゃないかってくらい顔真っ赤にしているこの男の名はヤシムという。
表ギルドの経理の一員だそうだが、なにかと金をちょろまかしてるんじゃないかという噂がある。
あと、表ギルドのギルドマスターに顔がちょっと似ているので、『ニセモノ』『そっくりさん』『モノマネ芸人』などと陰で呼ばれている。
本物のギルマスは目が合った瞬間に土下座をしたくなるようなインテリヤクザ風の男だけど、ヤシムはただのヒョロガリだ。
「ヤシム殿、依頼書通りの納入があったというサインがありますし、半額は無茶ですぞ。どういった理由ですかな?」
「オクタ、貴様までこいつの肩を持つ気か!? ドラッグマ討伐なのに、ポケットが空だったんだぞ!? 価値は半額以下だ! 馬鹿げてるッ!」
ポケットの中に入っていたドラッグは俺の『ゴミ箱』に入ったので綺麗に回収しておいた。
お蔵入りだよ、あんなゴミ。
なんで入ったのかはよくわからない。俺が心の底から「これはゴミだな」と思ったからかもしれない。
「ヤッシー、お小遣いが欲しいのはわかるけど、もうちょっとうまくやりなぁ? へたっぴだよ」
「ルギィ……黙れっ! クソっ、どいつもこいつも馬鹿ばかりで困る!」
ヤシムは金の計算は得意だけど、立ち回りが下手なんだよな。
ギルマスならもっとうまく盗む。
ぬきとる時ギルダーも職員も気づかないからね。
ヤシムは、最後に俺の顔をじっくり3秒くらいにらみつけた後、またギルドの奥へ足早に去っていった。
「なんか言えよ。なんであいつクビになんねぇの?」
「ぬほほ、いろいろあるのでござるよ。いわば表と裏の緩衝地帯みたいなものですかな」
潤滑油みたいな?
「うちらがクビにならないんだよ? 人手不足なんじゃん?」
「「ハハハハ」」
ワロてる場合か。
本当にギルドは腐ってやがるぜ。
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