アレナセイア
ガルトレンの部屋から辞去したウィンは、廊下を走るアレナセイアに遭遇した。
「セ、セレイス卿……」
「こんな夜分に、どうされました?」
「何でもありません」
彼女は、そのまま階下に駆け降りていった。焦燥と動揺で、美しい顔が引きつっていた。そもそも、貴族の夫人が走るという時点で奇行とそしられかねない行為だ。明らかにただごとではない。
メリエリナは、アレナセイアを心配そうに見つめていた。
「何だか分からないけど、好都合だ。奥方の部屋を調べよう」
「そんな!」
「私は帝国監……」
「分かりました!」
メリエリナは怒気を込めた目でウィンを睨んだが、彼には全く通用しなかった。
こうして、ウィンはメリエリナの立ち会いの下でアレナセイアの部屋へ忍び込んだ。もちろん、監察使だからといって貴族の妻の部屋に無断で入ってもよいという決まりは存在しない。
アレナセイアの部屋の奥には、衣装室があった。
「余計な物を物色したら、旦那様に報告しますからね」
「一応、女性の部屋であることは考慮するってば」
メリエリナの嫌悪感に満ちた視線を背中に感じながら、ウィンは衣装をざっと改めた。彼女の視線が、ウィンを覆う無神経の鎧を貫通して全身に突き刺さった。
目的は、すぐに達せられた。
広間に現れたアレナエリンが着ていたものと同じ色の服がそこにあった。生地も仕立ても同じだ。
「去年、奥様とお嬢様が仕立てたおそろいの装束です」
ウィンが手にした服を見て、メリエリナが説明した。
服の前面に付けられている留め具も同じ。だが、一つ足りなかった。アレナエリンが着ていた服には、留め具が五つ付いていた。しかし、この服には四つしか付いていない。
ろうそくの火を近づけて観察すると、留め具が付いているべき部分には、糸が通っていたであろう小さな穴が辛うじて見えた。やはり、留め具はここにも付いているべきなのだ。
メリエリナは、留め具が足りないことの意味を悟って口元を手で覆った。
ウィンは、懐から留め具を取り出した。留め具は一致した。
だが、薬の容器は発見できなかった。服と一緒にあると考えていたのだが、当てが外れた。容器だけ別の場所に隠す、というのは不自然に感じる。
こうなるといささか厄介だ。
ポセワイゼスの部屋にあった容器は全て、手のひらに収まる程度の大きさだった。ガルトレンは、床に落ちていた容器もその程度の大きさだったと証言した。その程度の大きさなら、隠そうと思えばどうにでもなる。
「ふむ、容器については隠した人に聞くしかなさそうだね」
ウィンはわははと笑った。
メリエリナは、何が面白いのかさっぱり分からなかった。




