ガルトレン
「手詰まりですね、ウィン様」
「アデン、どこに行ってたんだい?」
「私のことはお気になさらず。それより、どうするんです?」
「忘れてたけど、私は監察使だったのだ」
「うわぁ……」
ウィンは、ガルトレンの私室を訪ねた。メリエリナも付いてきた。
「監察使権限により、ヘイセイス卿の部屋を改めさせていただきます」
「そ、そんな横暴な!」「横暴です!」
「ご存じだと思いますが、私は皇帝陛下に直接ご報告申し上げる権限を持っている。そりゃもう、あることないこと……」
「無茶苦茶だ!」「酷い!」
「面と向かって言われるとちょっと照れますね」
「いや、褒めているわけではない」
ウィンは突然、表情を消した。
「ヘイセイス卿、まだ事態を理解していないのか? この家の中のことであれば、私は関知しない。だが、他の家の当主が死んでいるんだ。ヘイセイス家だけの問題ではない。ポセワイゼス家も納得する結論を出さなきゃならない」
「……」
「まずは、この留め具が付いていた服と毒薬の容器を確保する。協力していただくよ」
「毒薬の容器……」
「何か知ってるよね? 客室で私が『毒の容器が見当たらない』と言ったとき、ヘイセイス卿は驚いた顔をした」
ガルトレンは脂汗を浮かべた顔を背けた。ウィンはその顔をのぞき込んで、ニコッと笑った。メリエリナは、ガルトレンを心配そうに見つめていた。
「あったのだ」
「何が?」
「毒の容器はあったのだ。私が寝室に入ったとき、ポセワイゼス卿の右手の辺りに転がっていた」
「その容器をどうしたのです?」
「どうもしていない。死体を見つけて、そのまま玄関に向かった。あの寝室で何かをする時間などなかったのだ」
「それなのに、容器がなくなっていた」
「そうだ。何も矛盾などなかったのだ。かんぬきが掛かった部屋。死体と、毒が入っていたらしい容器。ポセワイゼス卿は一人で勝手に死んだんだ。私にとがはない。そう思った。それなのに、なぜ容器がなくなっているんだ? おかしいじゃないか」
「なぜ早くそれを言わなかったんです?」
「この屋敷には家族と使用人しかいない。容器を持ち去ったのはこの屋敷の人間なんだ。持ち去った理由が分からないのに言えるわけがないだろう。その人間がポセワイゼス卿に何かしたのだとしたら、アレナエリンの縁談も破談になってしまうかもしれない」
「ほう、縁談」
メリエリナは、複雑な表情を浮かべていた。
「相手はブレンナーレ伯の御一門だ。破談になったらヘイセイス家はお終いだ」
「破談になったからといって、ブレンナーレ伯はヘイセイス卿への態度を変える方ではないでしょう」
「破談が問題なのだ。もはや隠し立てしても仕方がないから言うが、当家の財政は破綻寸前なのだ。ポセワイゼス卿にも多額の借財がある。破談になったら破滅だ」
「ポセワイゼス卿に借金していたのですか」
「そうだ。返済が滞ったので、金を返せと言って乗り込んできたのだ。そんなことを妻子に言えるわけがなかろう」
「それで思いあまって殺してしまったと……。残念です」
「だから、殺してなどいない! アレナエリンが輿入れしさえすれば、借金を返済できるのだ。先方も資金援助を確約してくれているのだ」
ガルトレンの話は一貫しており、辻褄も合っている。
彼は、秘密をうち明けて安心したのか、背もたれに体を預けて脱力していた。
「セレイス卿、アレナエリンは……私に似ていると思うか?」
「お嬢様は、お美しい」
「セレイス卿は失礼な男だな」
ガルトレンが初めて笑った。
メリエリナは笑わなかった。




