メリエリナの決意
あの日、私はお嬢様のお部屋の寝具を整えていた。清潔な敷布で気持ちよくお休みいただきたい、そう思いながら皺を伸ばしていた。
美しく整えられた寝具を見下ろして、私は自分の仕事にとても満足した。そのときだ。お嬢様が部屋に飛び込んできたのである。お召し物がひどく乱れていた。
私はすぐに悟った。お嬢様をいかがわしい目で見ていたあの男に何かされたのだということを。
とても気掛かりだったが、お嬢様に「一人にして」と言われては退出するしかない。とはいえ、何と声を掛ければよいのか分からなかったので、少しほっとしたのも事実だった。
母の最期の言葉がよみがえった。
「お嬢様を……アレナエリン様を守ってあげて」
その後すぐ、母は意識を失い、翌日息を引き取った。
母がなぜそう言い残したのか、私はよく知っている。母が病に倒れたとき、まだ母が十分に話せるときに、詳しく聞いていたからだ。
「お嬢様は、あなたの妹なのです」
私はとても驚いたが、納得もできた。
そして、私が幼いころから母が私の顔に白粉を塗っていた理由も理解した。私のそばかすを隠すためだったのだ。
「お嬢様と侍女」という先入観があるためかこれまで指摘されたことはないが、白粉を取った私の顔は、瞳の色が違うことを除けばお嬢様ととても似ているのだ。
ただ、旦那様はお嬢様が自分に似ていないことに疑念を抱き始めている。旦那様は、恐らく奥様の不義を疑っている。それを吐露したため、セレイス卿は何かに感づいたようだ。母の容姿に関心を持ち、私の顔をやる気が感じられない目で見つめたのだ。何も言わなかった理由は分からない。
母の次の言葉はさらに衝撃的だった。
「お嬢様は奥様の妹でもあるのです」
母は何を言っているのか、全く理解できなかった。一体どういうことなのか。
そのとき初めて、私の父もカルナポエス家の使用人で、私が生まれた翌年に死んだということを聞かされた。お嬢様が生まれる3年前に父は死んでいたのだ。
その後、母にカルナポエス家の当主、つまりアレナセイア様の父君のお手が付いた。母の口ぶりから察するに、父の死後しばらく時もたっており、望んで身を任せた節がある。つまり、酷い仕打ちを受けた、ということではないらしい。
こうして母が産んだ娘は、私の妹であり、奥様の妹なのだ。私と母、カルナポエス家の旦那様だけが知る秘密だ。奥様でさえ、知らない。
でも、「奥様とお嬢様も似ている」ことの謎が解けた。この二人が母子であることを誰も疑わなかったのはそのためだ。
奥様は、私とお嬢様を姉妹として平等に扱おうとしてくれた。だが、平民の両親から生まれた私と貴族の血を引くお嬢様では、やはり身分が違うのだ。奥様の厚意には感謝するが、私は使用人として奥様とお嬢様に仕えることを選んだ。
私は、この優しい奥様とかわいい妹を守りたい。守らねばならない。母の遺言でもあるが、何よりも私の意思として、そう思っている。
お嬢様には、良縁が控えているという。この縁談も守らねばならない。この屋敷の人間が他家の当主を殺害したなどということになれば、破談になってしまうかもしれない。これを避けるには、ポセワイゼス卿は自殺あるいは事故死したということにするしかない。
幸い、セレイス卿の推理は穴だらけだった。その点を指摘することで、簡単に事態をひっくり返すことに成功した。
翌朝、セレイス卿は顔を赤らめて、炎のような赤毛の頭をかいて屋敷を後にした。「いや、参った参った」などと言いながら。
ただ、不思議なことがある。セレイス卿は留め具にあれほど固執していたにもかかわらず、私に一切反論しなかったことだ。私は留め具について、何も説明できなかったというのに。




