ゲルネセルムの懺悔
奥様……アレナセイア様がお生まれになったのは、私がカルナポエス家にお仕えした年の冬でございました。そう、私が一六歳のころのことです。あれから三六年。あっという間でございました。
アレナセイア様は幼い頃から、それはもう美しく、聡明であらせられた。他の使用人ともども、アレナセイア様の成長を見守ることは至上の喜びでした。
アレナセイア様がヘイセイス卿に嫁がれることが決まったときは、喜びと寂しさで打ち震えたものでございます。娘を手放す父親のような心境でしょうか。私ごときが父だなどと、恐れ多いことではございますが。妻をめとることも子を持つこともなかった私は、存在しない我が子をアレナセイア様に重ねていたのでございます。
アレナセイア様と共にヘイセイス家にお仕えすることになったのは、私にとって幸運でございました。アレナセイア様をお守りし続けられるのですから。
セレイス卿が留め具を発見したとき、アレナセイア様が突如怯えだしたのです。他の皆さまはお気付きにならなかったようですが、アレナセイア様がお生まれになったときから見守ってきた私には分かりました。
私と共に退出されたアレナセイア様は、掃除係のところではなく、お二階に駆け上がっていったのです。アレナセイア様が走るなどただならぬことでした。不審に思った私は、後をつけたのです。
アレナセイア様はお嬢様のお部屋に向かい、お嬢様の服を持って自室に戻られました。よほど慌てていたのか、扉が完全に閉まっていませんでした。無礼とは思いながら、のぞかずにはいられませんでした。
アレナセイア様は、ご自分の服から留め具を外すとお嬢様の服に縫い付けたのです。
そして、アレナセイア様は懐からガラス製の瓶を取り出すと、ご自分の服の物入れにそれを収めたのです。
あの瓶は、ポセワイゼス卿を死に至らしめた毒薬の容器であると直感しました。アレナセイア様は、ポセワイゼス卿殺しの証拠を抱え込もうとしていらっしゃる。
アレナセイア様がお嬢様を守ろうとしていることは明白です。
娘を守りたい、守らなければならない。私には、アレナセイア様のお気持ちが痛いほど分かったのでございます。そうです。私もまた、娘のような存在であるアレナセイア様をお守りしたかったのですから。
アレナセイア様の服まで持ち出すと、アレナセイア様に気付かれる恐れがあります。留め具については、使用人の不始末ということでごまかせるのではないか。とにかく、毒薬の容器があれば犯人であると強弁できる……。浅はかな考えでございます。学もない平民の考えることなど、この程度でございます。
これが私の最後のご奉公でございます。この老骨の一命をもってあがなえるなら、何の心残りがありましょうや。
ただただ、ご一家の幸せを願うばかりでございます。




