メリエリナの逆襲
「セレイス卿の推理には重大な欠点があります」
「欠点?」
「ではセレイス卿に伺います。ゲルネセルム様は、なぜポセワイゼス卿を殺したのですか?」
「え?」
「普通、理由もなく人殺しをしたりはしません。理由があるはずです。ゲルネセルム様は、なぜポセワイゼス卿を殺したのですか?」
「そりゃあ……親の仇とか、カネをだまし取られたとか、何かいい感じの理由がある……んじゃないかな?」
「ではゲルネセルム様に伺います。ゲルネセルム様はなぜポセワイゼス卿を殺したのですか?」
ゲルネセルムは言葉に詰まった。そんなこと「考えていなかった」。
「それは……ポセワイゼス卿に両親を殺された恨みを晴らさんと……」
「私の母は、ゲルネセルム様のご両親が病で亡くなられたとき、とても悲しんでいました」
「……」
「そう、ゲルネセルム様にはポセワイゼス卿を殺す理由がないのです」
「しかし、毒薬の容器を持っていたではないか」
このままゲルネセルムに犯人になってほしいガルトレンが反論した。
「そ、そうです。私が持っているのが何よりの証拠でございます」
「ゲルネセルム様、その中に入っているのが毒薬であると、なぜ分かったのですか?」
「えっ?」
「その容器は、ポセワイゼス卿のお部屋にあったものと同じでしょう。ということは、あのお部屋にあった薬を使ったということです。他の容器は手付かずでした。あの中から、どうやってその薬を選び取ったのですか?」
「……」
「セレイス卿。あなたは、ポセワイゼス卿のお部屋に残されている液体が何か、お分かりになりますか? 他に毒薬はなかったのでしょうか。他の液体は毒薬ではなかったのでしょうか」
ウィンにも答えられない。
「もう一つ。ゲルネセルム様は、どうやってこの毒薬をポセワイゼス卿に飲ませたのですか?」
ゲルネセルムはうつむいてしまった。
「ポセワイゼス卿のお部屋にあったものならば、ポセワイゼス卿はこの容器の中身をご存じだったはず。その毒薬を使って毒殺しようとしたとして、ポセワイゼス卿はおとなしく飲まされるでしょうか」
誰も言葉を発しない。誰も答えられない。
「廊下からかんぬきを掛けるなど、お話になりません」
メリエリナは、ウィンに向き直って人さし指を突き付けた。
「旦那様とガルダレン様は、ポセワイゼス卿の叫び声を聞き付けて客室に向かわれたのです。客室にほど近い奥様の部屋には奥様とお嬢様がいらっしゃった。お二人はいつ部屋から出てくるかも分からない。この状況で、糸と戯れている余裕などあるでしょうか」
「うっ……」
ウィンはうめいた。返す言葉もない。
メリエリナは一同を見渡した。
「以上から、もっと単純な結論が導き出されます。廊下に通じる扉は、ポセワイゼス卿によってかんぬきが掛けられていた。これは旦那様たちが破壊するまでそのまま。ポセワイゼス卿以外の人間は出入りできなかったのです」
「……」
「ポセワイゼス卿は、何か悩みを抱えていらしたのかもしれません。もはやご本人からそれを伺うことはかないません。とにかく、ポセワイゼス卿は複数の容器の中から、毒薬の容器を選んでご自分でお飲みになったのです。中身をご存じなのですから、あの中から毒薬だけを選び出せるのは道理です」
「つ、つまり……」
「これは自殺です」
「自殺……」
「飲むべき薬を間違えた事故だったかもしれません。いずれにせよ、誰も客室に入れなかった以上はポセワイゼス卿だけの問題です。他の誰かが責任を負う必要はないと愚考致します」
「そうか、自殺か……」
ガルトレンは、近くの長椅子に倒れ込んだ。安堵のあまり力が抜けたのだ。
「セレイス卿のお考えをお聞かせください」
メリエリナがウィンに問いかけた。
「そ、そうだね……。うん、なかなか説得力があるじゃないか。私も事を荒立てたい訳じゃないし、自殺あるいは事故ってことでいいんじゃないかな。うん。賛成するよ」
ウィンは頭をかきながら、一同に向かって言った。
「もう深夜ですし、そろそろ寝ましょうか」
ウィンは、わははと笑った。
まだ続きます。




