ウィンの推理 その二
メリエリナがかんぬきを外すと、ウィンが客室に入ってきて「どうです?」と胸を反らした。
再び静寂が訪れた。
「とにかくですね、これで誰にでもポセワイゼス卿を殺すことは可能だということが証明されました」
「……」
「反応がないとやりにくいな。まあいいや。次に、寝室に落ちていた服の留め具です。ポセワイゼス卿ともみ合った際に取れたのでしょう。犯人であることを示す決定的な証拠です。私の調査の結果、奥方の衣装室で留め具が失われている衣装を発見しました」
ウィンは客室の寝室から、一着の服を持ってきた。アレナセイアの衣装室から拝借してきたものだ。
「ほらこの通り、一番下の留め具がありません。そして、私が発見した留め具と他の留め具は見ての通り同一です」
メリエリナ以外の全員が、驚いてアレナセイアを見つめた。アレナセイアは蒼白になって、膝を震わせていた。
「以上から、この事件は奥方による犯行に間違いありません。本件はブレンナーレ伯領内の領主間の問題ですので、裁判権はブレンナーレ伯にあります。私からブレンナーレ伯に報告しておきます」
アレナセイアは、その場に崩れ落ちた。
「お待ちください!」
「何かな? ゲルネセルム」
「奥様は犯人ではありません。なぜなら、ポセワイゼス卿を殺したのは私だからです」
アレナセイアが目を見開いて、よろよろと立ち上がった。
「ゲルネセルム、何を言っているの。ポセワイゼス卿を殺したのは、セレイス卿の言う通り私です。あなたには関係ありません」
「いいえ奥様、あなたは犯人ではありません。セレイス卿、毒薬の容器のことをお忘れでしょうか」
「それは奥方に聞けば済むこと。さ、容器はどこにあるのですか?」
「それは……」
「奥様が知っているはずがありません。容器は、私が持っているからです」
ゲルネセルムは、懐からガラス製の瓶を取り出した。ポセワイゼスの部屋に並んでいた容器とよく似ている。おそらく同じ物だろう。
「ゲルネセルム、なぜそれを!」
アレナセイアの言葉はほとんど悲鳴だった。
「奥様、そして皆さま、申し訳ありません。私は大変なことをしでかしてしまいました。領主を殺害するなどもっての外。一命をもってお詫び致します」
ウィンは、ゲルネセルムから容器を受け取ってニオイをかいだ。
「うん、ポセワイゼス卿の口元のニオイと同じだ。ポセワイゼス卿の命を奪ったのはこの薬で間違いなさそうだね」
「ではセレイス卿、ブレンナーレ伯の下に参りましょう」
「お待ちなさい、ゲルネセルム!」
扉に向かって歩き出そうとしたゲルネセルムの手をアレナセイアがつかんだ。
ウィンはわははと笑った。
「奥方が無実であることは分かっていました。全ては、真犯人に自白させるためのお芝居だったのです!」
一同は、口をぽかんと開けてウィンを眺めた。
「奥方の服をよくご覧なさい。留め具が付いているべきところには糸を通した穴しかない。しかし、私が拾った留め具には引きちぎれた生地まで付いている。つまり、この留め具は奥方の服から取れたものではないのです!」
ウィンは再びわははと笑った。
「では、寝室に落ちていた留め具は何なのですか」
ガルダレンが質問した。彼は事態の展開に付いていけず、顔は蒼白だった。
「さあ? 以前取れたものが、そのまま残っていたのかもしれません。問題は毒の容器なのです。これを持っていることこそが、犯人である揺るぎのない証拠!」
ウィンは胸を反らせてまたわははと笑った。
ガルトレンは、必死で頭を回転させてこの事態を整理した。
ポセワイゼス卿の死は不祥事には違いないが、ゲルネセルムを斬首するだけで決着するかもしれない。使用人を一人斬り捨てるだけで解決するなら、ヘイセイス家は誰も傷つかない。
多少強引な気もするが、いや非常に強引な気もするが、この頭の悪そうな笑い声を上げる監察使に乗っかっておけば、万事解決ではないか。
「お見事!」
ガルトレンは手をたたいてウィンを称えた。
このまま、ゲルネセルムを連れてさっさと出て行ってほしい。おだててすかして、気持ちよく追い出そう。
「お待ちください」
ガルトレンの顔がこわばった。もう、話をややこしくするな。
不快感を露わにして、声がした方に目を向けた。
メリエリナが、そこに居た。




