僕の憧憬
「雨と星と天と共に、僕は明日を目指す」
「恋と愛と想いを凡て、僕は君に贈ろう」
不思議と、後悔は無い。苦しみの中にも、幸福は有ったのだから。
白き山。背景には果てしなき青。聴こえて来るのは蝉時雨。待つは淋しい紅の色。
海の声も、天の声も、やがては静まり返って、肌寒い程の風が吹く。只々、其れだけの事だのに、僕は君を想い、不思議な感情に飲み込まれる。けれど、やっぱり想い続ける。未練では無い。決して、未練では無いのだ。
君と過ごしたあの季節。防波堤に跨って、冷えたラムネを一緒に飲んだ。見渡す景色に卑しい処は無く、陽の光を反射する波がキレイだった。本当に、キレイだった。
不図、君が声を掛ける。
「来年も会えるかな」
僕は応える。
「きっと、会えるよ」
其方を向かずとも分かった。君が俯いてしまった事を。だから、
「必ず会えるよ。きっと会える」
「……有難う」
僕は黙っていた。“絶対”なんて有りはしないのだから。だから、僕は“きっと”と応えた。意味は同じなのかも知れないけれど。
そうしてやって来た紅の季節。哀しい報せが届いた。其れでも……。
「雨と星と天と共に、僕は明日を目指す」
「恋と愛と想いを凡て、僕は君に贈ろう」
僕は再び、其の言葉を紡いだ。一瞬で消えてしまうだろう言の葉を。そこに意味が無くとも。僕等には大切な言葉、言の葉なのだから。
やがて、迎えた次の年。僕は、君が一緒に居た時を思い出して、防波堤で、ラムネを飲んだ。




