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懊悩の淵  作者: 粘土
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ゴンズイ

 私は海に囲まれた島で育った。なので、海に居る沢山の魚達を見詰めて来た。かつては、完全に潮が引き、ウニもサザエも獲れたと云う。

 私の世代になってからは、せいぜい、蝦蛄しゃこや、小タコや、巧くすればサザエや、渡り蟹が獲れた。

 そんな折、祖父に、夜釣りへと誘われた。暗闇の水面に、仄かに灯る光。蛍光色に塗られた浮きだ。あんまりにも暗いものだから、其の光と、優しく聞こえる潮騒が、私を夢心地にした。釣れるのは“ギザミ”や、“ベラ”だの、雑魚ばかりだったが、とても楽しかった。少しばかり酔っていた為か、根掛かりの様な感触を覚え、(厄介な事に成った)と思ったが、其れにしては何やら奇妙な感触だった。思い切って引き上げて見ると、明らかに向こうから引っ張る力を感じた。其の時、『しめた! 大物だ!』と、必死になって、何度も挑戦したが、結局私の技量では仕留める事は出来なかった。何の此れしき、と、幾日も挑戦したが、やはりダメだった。

 其れからたったの二日で、祖父が私の獲物を仕留めて帰って来た。悔しさなど全く無かった。私が思う通りに、尊敬する通りに、凄腕の釣り師であったのだから。其の時の誇らしげな祖父の笑顔は、生涯、私が死ぬまで忘れない。絶対に。とても、とても、美しい思い出である。

 因みにゴンズイと云うのは、ギザミに似た魚で、確かナマズの仲間だ。黄色い体に黒い横線が入っていたので、私はてっきりギザミだと思い込んで握ってしまった。其処には“カナコギ”と云う、赤い毒魚どくぎょが居たために、余計に気を許してしまった。釣りを終えた後、之は幸いと云う可きだが、一時間程、腫れと痺れに苦しんだ。が、一夜して回復した私は、翌日も祖父と共に釣りに出掛けたのであった。

 思えば、あの頃程幸せを感じたのは後にも先にも無い。


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