長い生き物
庭に蛇が居る。同居する母を脅している。母はウナギでさえ恐れる。そんなだから、チョロチョロと舌を出して匂いを嗅いでいる蛇は、何うにも恐ろしいらしい。ようく、観て見れば、他愛の無い生き物なのだが、やはり、好き嫌いが有る。確かに奇妙な姿ではあるが、じっくり観察すれば、しっかりと見詰めれば、其れ程嫌う理由は無い。何しろ、彼等も生きるのに必死なのだから。
アダムやイヴを騙したのは本当に蛇なのだろうか。人と云う生き物こそ、他の生き物には無い悪辣さを持っているのだから、何うも之は眉唾ではないかと思う。特殊な姿をしているが故に、悪役として選ばれたのではないだろうか。好んで人を噛む蛇など居ない。毒を持つ連中は尚更だ。彼等は人が恐ろしくて堪らないから噛むのだ。凶暴になる時期も有るが、其れは子を産んだ頃だ。子を護ろうとするのは生き物にとって当然の事である。一部、子ですら糧とする生き物も居るが、其れは極稀である。
一部の蛇は樹に上り、鳥の卵を狙うが、殆どの場合、失敗する。親鳥に襲われ、哀しそうに地面に叩きつけられている。又、そんな事を企んでもいないのに、人に揶揄われ、木の枝などで突かれている。直ぐ様逃げる事の出来ない蛇にとっては、途轍も無い屈辱であり、傍から観ると、酷く哀れである。何にもしていないのに突かれたり、捕まって弄ばれ、命を落とす事も有ると思うと、余りに非情である。そして、そんな事をするのは決まって人であるのだ。
匂いを嗅いだり、其の辺を這い回る事は、果たして罪であろうか。否、そんな筈が無い。テリトリーは共有す可きなのだ。此方が害を成さねば、彼等も直ぐに何処かへ行く。自然体が好い。其れが一番だ。其れに、昔から『縁の下に蛇の居る家は幸福に有り付ける』と云う。彼等はネズミを食べて呉れる。其れに、抜け殻を財布に入れれば金が貯まると云う。たとい、珍妙に視えたとしても、じっくりと、何もせずに観ていれば、幾らか可愛くもある。何とも懸命に観えるし、健気だとも思う。其の内に何処かへ行ってしまった彼氏彼女は今何処に居るのかしらと思う気持ちはきっと温かい。そんな風に、生き物を差別せずに見守って行く事が出来れば、人の気持ちも、何かに対する心も、きっと温かくなる筈だ。と、思う。




