表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
懊悩の淵  作者: 粘土
11/93

天世・一

 目の前が真っ暗だった。何も見えない。何処に居るのかも判らなかった。

 不図、誰かが何かを云っている事に気が付いた。耳を澄まし、其方へ顔を向けた。やはり、何かを云っている。能く聞くと、「目を、目を」と云っている様だった。目が何うしたと思い、其処で漸く悟った。私は目を開いていなかったのである。暗いのも、何も見えないのも当り前だ。

 ゆっくりと目を開くと、目の前に知らぬ坊主が居た。ならば、此処は寺なのであろう。坊主は何やら不思議な笑みを浮かべ、じっと私を見ていた。其の笑みに、私は少しく嫌味な感情を読み取った。憮然として、何が可笑しいのかと尋ねると、急に居眠りをしたからだと応えた。私は、ふん、と鼻を鳴らし、此処へ来た覚えも無ければ、貴様に会った覚えも無い。居眠りなどするものか、と、云い放った。更に、おれは無信教だと云って遣った。実際、輪廻など信じてはいないのだから。すると、では何故、今拙僧の前に居るのかと問うて来た。其の問いに、私は愈々気を悪くした。知らぬ。貴様が勝手に己の前に居るだけだ。そう云って辺りを見回すと、やはり、寺なのである。其の証拠に、坊主の後ろには仏像が在るのだから。

 何時の間に、此処へ連れて来た。何う遣って連れて来たのだと、問うと、自然に此処へ来たのだと応えた。何を云うのかと思うと同時に、之までの記憶の全く無い事に気が付いた。私の、少なからぬ動揺に付け込む様に、ほれ、自然に来た事が解ったろう、と、嫌らしく、くつくつと笑った。不座ふざけるなと云いたかったのだが、如何せん記憶が無いものだから、何も云い返せなかった。只、一つだけ気になる事が有った。

 己は死んだのか。坊主は只笑っていた。気取る様でもなく、嘲笑するでもなく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ