10 【探検とご褒美】 4
お久しぶりです。
どんどん話が逸れていっています。
ヒーローは・・・まだまだ出ません。
『リ――――――…ン』
レオリアは鈴の音に呼ばれるように書類から顔を上げた
(なんだ?魔術の発動?)
この家では魔術を使った場合、特に緊急時にはそれを伝える『音』が発せられる。
それは発動した魔法に関して誰もが素早く対処できるようにと、ガレルが組み込んだ術式であり、防犯面において何より信頼できるものだ。
レオリアは持ち前の魔力は少ないが、魔力の揺らぎや術の発動を気配で感じる事はできる。またその対処も弁えている。
それくらい出来なければ元々王の護衛などとうてい勤められないし、今もまだ隊に残る事などできはしない。
だが、疑問を浮かべると共に聞こえた声に、慌てて立ち上がったレオリアは一気に気配の強い戸棚の前に走り寄る。
それと同時に天井に魔方陣が現れ、落ちてきたものを間一髪受け止めた。
「どういう事だ!ガレル!!」
ばくばくばく。
心臓の音が激しく動いています。
同時に息切れも追加です!
ぎゅうぎゅう私を抱きしめたまま、父様はガレルに怒ってます。
父様!苦しい!!
順を追って説明しますと、階段を上っていたら変な音と共に足元に穴が開き、吸い込まれるごとく真っ逆さまに落ち、それがまた暗闇なものだから、んぎゃーと半泣きで叫んだら何かにふわりと包まれたと思った瞬間父様の腕の中にいたと。
はい。何がなにやらさっぱり判らないね。
だけど助かったのは事実で。怖かったのも本当で。思いっきり父様にしがみついたのですが、今は逆に絞め殺されんくらい抱きしめられてます。
「どうと言われましても旦那様。今朝リリアナ様が屋敷の一人歩きに挑戦するので、罠を仕掛けると言った筈ですが」
「罠って…こんなの危ないだろう!リリーが怪我をしたらどうする!!」
「ですからお護りを付けました」
「なんだと?!」
怒るレオリアとは反対に、ガレルは持っていた書類を机に置くと、ゆったり腕を組みうっすらと笑う。
「リリアナ様が旦那様を呼ぶ事で、危険を回避するように設定した魔法具を身につけられております。呼べば旦那様の近くにリリアナ様が現れるように。ですから、もしリリアナ様が怪我をするなら、それは旦那様が助けなかったと判断します」
「!!」
「言ったでしょう?鍛えなおさねばと。近年平和すぎて旦那様が少々鈍っているようだと判断しました。領主としての仕事よりも隊長職を優先される旦那様ですから、この位余裕でこなして頂かないと、ヨーク様もガッカリされますよ?」
「まさか…」
呆然とするレオリアに、ガレルは何でもないとばかりに続ける。
「私どもの大事なお嬢様を貰い受ける時にヨーク様から言われたはずです。その腕が鈍りマリアお嬢様を守れぬようであればすぐさま返していただくと」
「……」
「そう難しいことではありません。領主としての仕事をしながら、リリアナ様をお助けすればよいだけです」
「……それを簡単だと言うのか?」
「はい」
唸るように言う父様に、にっこりと笑うガレル
二人の会話に突っ込みたい所満載ですが、それより正直に言っていいですか?
こ・わ・い・よ!
目の前でブリザードが吹き荒れてるよ!
ぷるぷると震える私に目をとめたガレルは、それまでこちらに向けていた冷ややかな視線を緩めると、レオリアに向かって諭すように言う。
「仕事を早く終わらせれば良いだけですよ。そうすれば旦那様はリリアナ様と一緒にいられる時間が増えますし、それにリリアナ様を抱きとめられるのは旦那様にとってご褒美だと思いますが」
「……わかった。りり!」
「ほえ?」
「絶対に!父様を呼ぶんだぞ!絶対に助けてあげるからな!!」
まさに飴と鞭だ。
俄然やる気になった父様にリリアナは遠い目をしつつ頷く。
うん、まぁ…がんばれーー…。
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だが、この日レオリアの仕事が捗ることはなかった。
何故なら…
「父様ーーーー」
「父様っ」
「とうさ…」
五分とかからずリリアナが父の名を呼ぶからである。
そう…リリアナはまさに『犬も歩けば棒にあたる』もとい『リリアナが歩けば罠に引っかかる』のであった。
これにはガレルも難しい顔をするしかなかった。
確かに一石二鳥を狙ったのは認める。レオリアに緊張感を与えつつ、リリアナを餌に仕事も終わらせればいいと思ったのは確かだ。
だがしかし。
まさかこんなに呆気なくリリアナが次々と罠に引っかかるとは思わないではないか。
おかげで、リリアナの身を案じるレオリアの集中力は切れ、あれでは書類を眺めているのと変らない。
それにしても引っかかる。
リリアナは魔力持ちだ。その大半が封じられているとはいえ一般人並には感じる事ができる。
だが、何故その気配に自分から近づくのか、そしてよける事をしないのか……。
危険を感じる物には警戒心を持つのが普通だ。それが何度も続くようでは大怪我をしてしまうのも時間の問題だ。
今日はレオリアが側にいるから危険はない。それを確信できる程にはレオリアの力を知っている。
だがしかし、これから先リリアナが生きていく―もとい、この家で生活を続ける為には少しでも防衛力をつけなければ一歩も部屋から出ることさえできなくなるからだ。
「きゃーーー!とーーさまーーー……」
「りり--っ!!」
「これは一からお教えしないといけないようですね…」
聞こえてくる叫び声に、有能すぎる執事の心に火がついた為、否応なく魔法のお勉強という名の地獄の日々が始まる事をリリアナ(わたし)は知らない。