バブル時代
バブル時代は、どこも活気があった時代だった。十九の若者も、その勢いで 人生を楽しもうとしていた。そして、、、
青山は少し考えるような顔をした。そして、突然、
「じゃあ、私も行っていいですか?」
「……え?」
透は思わず聞き返した。
「京都行きたいです。」
「いやいや、ちょっと待って」
「はい?」
「本気で言ってる?」
「本気ですけど」
青山はケロッとしている。
「俺、一人で行くつもりだったんだけど」
「いいじゃないですか。二人でも」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
透は苦笑した。
「オレ、男だよ?」
「知ってますよ」
「……そうじゃなくて」
「分かってますって」
青山は笑った。
「滝口さんだったら大丈夫なんです」
「何が大丈夫なんだよ」
「何となくです」
「何となくって……」
透は呆れながらも、つい笑ってしまった。
「宿もまだ決めてないよ?」
「じゃあ、一緒に探しましょうよ」
「行き当たりばったりになるかもしれないよ」
「それも楽しそうじゃないですか」
青山えつ子は、どうやら本気らしい。透は少し考えた。一人旅のつもりだった。
だが――。
「まあ……一人よりは楽しいかもな」
そう言うと、青山の顔がぱっと明るくなった。
「じゃあ、決まりですね!」
「えっ、もう決まり?」
「はい!」
「早いなあ……」
「東京駅ですよね?」
「まあ、新幹線だからな」
「何時にします?」
「そうだな……」
透は腕時計を見ながら考えた。
「じゃあ、朝の――」
「はい!」
こうして、透の一人旅は、あっという間に二人旅へと 変わってしまった。そして迎えた、三連休の初日。冬の朝の東京駅。透が待ち合わせ場所に着くと、ほどなくして青山がやって来た。
「滝口さん、おはようございます!」
「おはよう」
青山はニコニコしていた。その顔を見た瞬間、透は思った。――本当に来たよ、この子。
冗談半分で言っているのかと 思っていた。だが、どうやら違ったらしい。青山は小さなバッグを持ち、すっかり旅行気分だった。
「じゃあ、行きましょうか!」
「……本当に京都行くんだね」
「何言ってるんですか。滝口さんが誘ったんですよ」
「いや、誘ったつもりは……」
「でも、いいですよね?」
青山が笑う。透も、つられて笑った。
「まあ、いいか」
予定はほとんど決まっていない。宿もまだ決めていない。それでも、不思議と嫌な感じはしなかった。――どうなることやら。透はそう思った。ただ、一つだけ心に決めた。せっかく一緒に行くんだ。――楽しい。そしていい思い出にしよう。こうして、冬の京都へ向かう二人の 珍道中が始まった。
京都旅行は、思っていた以上に楽しかった。やはり、男一人で歩くよりも、気の合う二人で 歩いたほうが楽しい。京都駅、清水寺や五重塔を眺め、古い街並みを歩き、気になった店があれば立ち止まる。食事は、特にしゃれた店でもなかった。二人で適当に入った中華食堂で、ラーメンをすすった。
「おいしいですね」
「うん。こういう店のほうが、意外とうまかったりするんだよな」
そんな他愛のない会話をしながら、二人で笑った。気がつけば、もう夜だった。冬は日が落ちるのが早い。京都の街には、少しずつ夜の気配が広がっていた。
「さて、どうする?」
透が言った。
「どうするって?」
「宿。まだ決めてないから」
「あっ……そうでした」
二人は顔を見合わせて笑った。結局、二人は夜の街を歩きながら、泊まれる場所を探すことになった。そして、ようやく見つけたのは、料金の安い小さなホテルだった。
「ここでいいんじゃないですか?」
「うん。もう探すのも疲れたしな」
ところが、部屋に入った瞬間。二人とも、足を止めた。部屋は思っていたより狭かった。そして――ベッドが一つ。
「……あれ?」
青山が部屋を見回した。
「滝口さん」
「うん」
「ベッド、一つしかないですね」
「……そうだね」
さっきまで 普通に話していた二人だった。なのに、その一言を境に、部屋の空気が変わった。透はベッドを見た。青山も、同じようにベッドを見ている。
やがて、二人の視線が重なった。ほんの一瞬だった。青山が先に目をそらした。
「……どうします?」
「俺は、下の床でいいよ」
「でも、寒いですよ」
「大丈夫だって」
「本当に?」
「うん。とりあえずシャワーを浴びてくる。」
そして、滝口、青山の順番に、黙ってシャワーを浴びて、部屋に戻ってきた。
京都の二月は寒い。ホテルで この後、二人は、気まずくなり 黙ってしまう。そして、、、




