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アウシュビッツへ行けば人生が変わる ーー青春ラプソディーー  作者: 白石 遼


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ホテルマン 

 主人公は、皇居前のホテルに就職した。憧れの東京は、何もかもが新鮮だった。

 その就職が、滝口透の人生を大きく変えることになるとは、このときの透はまだ知らなかった。東京で受けた王室ホテルの採用試験に、透は合格した。そして、翌年の三月末。長年暮らしてきた地元を離れ、透は東京へ向かった。

 地元を離れていく列車の窓から流れていく景色を眺めながら、透は何度も思った。

――これから、自分の人生はどうなっていくのだろう。


 期待と不安が入り混じっていた。上野駅に着くと、そこには王室ホテルの担当者が迎えに来ていた。

「滝口さんですね。お待ちしていました」

 その言葉を聞いた瞬間、透は、これまでとは違う人生が始まることを、少しだけ実感した。

こうして、滝口透の東京での新しい生活が始まった。

 その頃の透は、不思議なくらい「自立する」ということを深く考えてはいなかった。家を出て、一人で暮らす。それは、当たり前のことだと思っていた。

 十八歳。少し小生意気で、自分のことは自分でできる――そんなふうに、勝手に思い込んでいた。でも、若い頃は、それくらいでいいのかもしれない。幸い、金銭感覚だけは身についていた。中学一年生の頃から、新聞配達をしていたからだ。お金を稼ぐことが、決して簡単ではないことは、すでに身体で知っていた。いずれにしても、透の中には、一人で生きていくという覚悟だけは、しっかりとあった。


  就職先の王室ホテル


 そして始まったホテルマンの仕事は、学生時代のアルバイトとはまるで違っていた。朝から晩まで、とにかく身体を動かした。歩き、運び、立ち続ける。一日の仕事が終わる頃には、身体が限界を訴えていた。

――これが、働くということなのか。透は、そう自分に言い聞かせながら、一日一日を過ごした。それでも、少しずつ仕事が分かるようになってくると、面白さも見えてきた。

 同期には、百四十人もの仲間がいた。その中で気の合う同僚もできた。仕事が終われば一緒に笑い、時には仕事の愚痴を言い合った。そんな仲間ができたことで、透の毎日は少しずつ楽しくなっていった。そして、仕事にもようやく慣れてきた頃。透は、その職場の野球部に入ることにした。仕事だけではない。十八歳の透の新しい東京生活は、ここから少しずつ広がっていった。

 皇居前の王室ホテルは、大きな企業だった。従業員は、およそ千人。所謂大企業である。毎年、百人を超える新しい社員を迎えていた。透が入社した年は、特に多かった。大学や専門学校を卒業した者が七十人。高校を卒業した者も七十人。合わせて百四十人。年齢も、育った場所も、これまで歩いてきた道も違う。そんな百四十人が、同じ年に社会人としての一歩を踏み出した。その中で、透は宴会課に配属された。そこで出会ったのが、専門学校卒の石川県出身の吉成ヒトシだった。二つ上の同期入社だ。

 最初は、ただ同じ職場になった同期の一人に過ぎなかった。けれど、仕事を一緒にするうちに、二人は少しずつ距離を縮めていった。吉成さんと話をすると、自然と会話が弾んだ。とにかく相性がいいのである。休憩時間に話をし、仕事が終われば一緒に帰る。いつの間にか、何でも話せる人になっていた。年齢は二つ上だが、人との対応が柔らかく、気を使う人ではなかった。透は、この出会いが後の自分の人生を大きく左右することになるとは、まだ知る由もなかった。人生を変える出会いは、案外、何気ないところから始まる。そのときの透には、それがただの「同期との出会い」にしか見えていなかった。


  アナログ時代


 透が入社した一九八二年の頃は、まだインターネットもスマートフォンもなかった。今から思えば、ずいぶんとアナログな時代だった。入社初日、透たち新入社員には、さっそく写真撮影が待っていた。

 一人ずつカメラの前に立ち、顔写真を撮られる。それが終わると、あとは会社に任せるだけだった。そして、新入社員研修が終わって一週間ほど経った頃。今年度の新入社員、百四十名がずらりと社内報に掲載された。

 顔写真。所属部署。学歴。出身地。今の時代なら、簡単には載せられないような情報まで、当たり前のように紹介されていた。透は、自分の顔写真を見ながら、少し照れくさい気持ちになった。

 しかし、その社内報を見ていたのは、新入社員だけではなかった。写真写りのいい女子新入社員は、たちまち社内で目に留まった。

 そして、独身の社員たちが、

「今度、食事でもどう?」

「よかったら、今度デートしない?」

 と、気軽に声をかける。そんなことが、珍しくない時代だった。もちろん、声をかけられるのは女子社員だけではない。男子の新入社員も同じだった。百四十人の新入社員。その一人ひとりの顔と名前が、社内報を通して、会社中の一千人の人たちに知られていった。それは、今とはまったく違う、あの時代ならではの新入社員のスタートだった。


 人生を生きていくには、どんな人物と知り合うかで、大きく変わる。さて、透の未来は、、、、

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