第十一章 それぞれの停車場 ①
咲代が昼食を食べていると、LINEが届いた。
「?」
開いてみると、カンからだった。
『ねーさん、興味深い話、聞きました』
「了解!」
そう返信すると、咲代はスマホをしまい、仕事に戻った。
その日の夕方、咲代はカンたちが運営するNPO法人の事務所を訪れた。
事務所では、元気に遊ぶ子供もいれば、隅でゲームを楽しむ子供もいる。それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。
「相変わらず賑やかね。子供たちが元気だと、こっちまで気持ちがスッキリするわ」
咲代が微笑む。
するとカンが、部屋の隅にいる一人の子供を見ながら言った。
「あの子、両親の暴力から逃げるために、裸足で近くのコンビニまで逃げたそうなんです。たまたま仲間がそこでバイトしていて、すぐに保護したんですよ」
「そうだったの……」
咲代は、その子をじっと見つめた。
「ねーさん、向こうで話しましょう」
カンに促され、二人は事務所の奥へ移動した。
咲代は仕事の都合で、伊勢志摩からすぐ東京へ戻らなければならなかったため、カンだけを残して一足先に帰ってきていたのだ。
「それで? 面白い話って?」
「山下議員のインスタに載っていた写真をいろいろ調べてみたんです。意外というか、なるほどというか……いろんなつながりが見えてきました」
「意外なつながり?」
咲代は訝しげに、カンの顔を見つめた。
一方で、コノハは店の奥の応接間を磨いていた。
毎朝掃除はしているが、今日は夕方から来客の予定がある。
「信用第一」
それが星光堂のモットーだ。
万が一にも家具などにほころびがないか、確認を兼ねて丁寧に磨いていた。
テーブルと椅子を仕上げ、応接間をぐるりと見渡す。
「よし」
コノハは小さくつぶやくと、お茶の準備をし、自分の身なりを整えた。
準備が整った頃、店に予約客が入ってきた。
サーナルリゾート社長夫人の水本明子と、その息子の聡。
そしてもう一人――色白でスラリとした、いかにも育ちの良さがにじみ出ている女性だった。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
コノハが丁寧に挨拶すると、明子が微笑んだ。
「コノハさん、遅くにごめんなさいね」
「どうぞご遠慮なさらないでくださいませ。本日はごゆっくりお過ごしください」
コノハは三人を店の奥の応接間へ案内した。
そこへタイミングよく、コノハの父親である棚橋栄一が入ってきた。
「水本様、本日はようこそお越しくださいました。そして、このたびはおめでとうございます」
「このたびは星光堂様にお世話になります。こちらが息子の聡。そして、こちらが聡の婚約者、前田由以子さんです」
明子は由以子を紹介した。
「由以子さんのお父様は、元国会議員の前田敏夫先生で、今は議員を息子さんに譲り、伊勢志摩で由以子様とお暮らしですの」
「はじめまして。前田由以子です。このたびはお世話になります」
由以子は丁寧に頭を下げた。
「東京、特に銀座には滅多に参りませんので、少し気後れしております。田舎育ちで、垢抜けないところもございますが、コノハさんのセンスは素晴らしいと伺っています。どうぞよろしくお願いいたします」
「まあ、ご謙遜を。立ち居振る舞いのひとつひとつに、なんともいえない品がございますもの。落ち着きも、醸し出される雰囲気も……同世代の女性には、なかなか真似のできないものですわ。」
コノハはお世辞ではなく本当にそう感じたのだった
「私どもも精一杯お手伝いさせていただきますので、どうぞ何なりとお申し付けください」
栄一が微笑む。
「さあ、どうぞお掛けください」
栄一が促し、コノハはそのタイミングでお茶を用意した。
部屋から出ると
「やはり、菊池陽子ではない」と確信、しかも伊勢志摩との繋がり、いてもたってもいられないが、ここは、プロとして、しっかりしないと、襟をただした。
普段なら従業員に任せるところだが、今回はまだ公表されていない話だ。どこから情報が漏れるかわからない。
そのため、父と二人だけで極秘に進めていたのだ。
「本当は、もう少し早く伺いたかったのですが……あのような姿で娘が見つかって……」
明子の声が震えた。
すかさず由以子が、明子の肩をそっと抱いた。
――優しいお嬢さんね。
コノハは心の中でつぶやいた。
「お祝いの席ですので、ご挨拶は控えておりましたが、このたびは本当に大変なことでしたね。あいにく『お別れの儀』に参列できず、失礼いたしました」
栄一が頭を下げる。
「いえ、とんでもございません。コノハ様にはお越しいただき、兄としても、悔いなく妹を天国へ旅立たせることができ、むしろホッとしております」
聡が明子に代わって礼を述べた。
「そのようなわけで、婚約披露に向けて、指輪だけは準備しておきたいと思いまして。本日、由以子を伊勢志摩から呼び、伺ったという次第です」
由以子も、聡の横で、軽く頷いた、
水本家では新たな停車場に、聡と由以子がたっている
そうして、もう一人の女性が停車場に立とうとしていた
その女性は、一人でオフィスに佇んでいた
手には白い封筒をもち、首に下げていた社員証を外すと、白い封筒と一緒に、
机に置きそのまま立ち去った。
その社員証には「菊池陽子」とあった。




