第四話 せかいがにくい②
ゴロノフさんはまた一から状況の説明を始めた。
「いいかい嬢ちゃん。俺らは盗賊が隠した『海神の腕輪』を見つけ出さない限り、国へ帰れねえんだ」
「だからといって、拷問目的で死者の魂を呼び戻すことなど許せません」
「そこは話し合いだ。奴が素直に隠し場所を吐けば、俺らも乱暴はしねえよ」
「拷問されても隠し場所を言わなかったような意志の強い人が、おいそれと従うとは思えません」
「弱ったな。なあ店長さん。あんたはどうなんだい? 噂によると、大金さえ積めば魔法を使ってくれるそうじゃねえか」
店長は指でツインテールの先をくるくると巻いて言った。
「ええ、ええ。確かに私はお金が大好きですからねえ。目の眩むような額を提示していただけるのであれば、考えないこともないですよお」
「そんなっ! 店長、ダメです!」
「あんたの方は話が分かりそうだな。いくら欲しいんだ?」
「んー、死者の魂をこの世に抑留している時間、1分につき10万ゴールドですかねえ」
「なるほどねえ。いい商売してんじゃねえか。金ならあるぜ。たんまりとな」
ゴロノフさんが合図をすると、後ろで腕を組んでいた男のうちの一人がテーブルの上に札束を投げた。
「100万ゴールドある。10分、会わせてくれるか?」
「彼岸の祈り」を使うか使わないか、選ぶのは店長だ。私に権限はない。でも、この人達にはなんか、使ってほしくないと思っている自分がいる。でも、どうすれば。
私は拳を握り締め、歯を食いしばった。
「んー。確かにお金の面ではOKですけどねえ。残念ながらこの店には、『私とアガタ氏、二人の同意がないと魔法は使えない』というルールが存在しましてえ」
え? そんなルール、聞いたこともない。
「ですからねえ。私ではなく、これからこのアガタ氏と話し合っていただき、同意を得られた場合のみ、あなた方の願いを叶えてあげますよお」
店長が不敵に笑う。男達はイラつきを隠せず、体を震わせている。今にも私達を襲ってきそうな、そんな迫力がある。
あ……そうか! この人達は、拷問をするような武闘派の人間。仮に私達が「彼岸の祈り」の使用を拒絶した場合、怒り狂って襲われる可能性がある。だから、ルールの上で、相手を納得させて追い返す必要があるんだ。
そしてそのチャンスと権限を、店長は私に与えてくれた。もしかして私は、少しだけ期待されているのかもしれない。だったら、その期待に応えたい。
私はテーブルの下から二枚の書類を取り、ゴロノフさんの前に突き出した。
「ゴロノフさん。ここに問診票と契約書があります。この二枚の紙に必要事項を記入し、私が許可を出せば、店長は魔法を使ってくれる。これがこの店のルールです。ですが今回、この紙は使用しません」
私は二枚の紙をビリビリに破いた。店長が「ほお」と声を上げる。
「今回は、私からの問いかけに全て答えていただきます。できる限り詳しく。その結果次第で、許可するか否かを決めさせていただく。これでどうでしょう」
男達は三度ヒソヒソと会話をする。やがて腹が決まったのか、ゴロノフさんが言った。
「いいだろう。なんでも聞いてみな」
よし。食いついた。
「それではまず、盗賊の名前を教えてください」
「名前はガルージャ。ガルージャ・ハカマ」
「年齢は?」
「42だな」
「出身は?」
「俺らと同じ、エミヘだ」
「性格は」
「んー、まあビビりだな。俺らにビビってあちこち逃げ回る腰抜けだ」
男達は声を上げて笑った。私は続ける。
「彼は盗賊団の一員だったんですね?」
「ああそうだ」
「盗賊団に入る前の職業は?」
「俺が知るわけねえだろう。まあ戦士かなんかじゃねえのか?」
「なぜそう思うのですか?」
「この目で奴を見たからな。体格からして間違いねえだろう」
「彼は何故盗賊に?」
「さあな。まあ差し詰め、魔物が減って戦士としての仕事がなくなったんだろうよ。そんで失業して盗賊になったんじゃねえのか?」
私は聞き出した情報を事細かに紙に書き出す。
「海神の腕輪を盗まれた時の状況を教えてください。なるべく詳しく」
「はあ。そんなもん必要か?」
「必要です」
「腕輪は王宮の地下に納められてんだ。そこに奴が来た」
「あなた方は、彼が海神の腕輪を盗んだ瞬間を目撃しましたか?」
「当然だろう。なんせその時、俺らが警備していたんだからな」
「単純な疑問なのですが、あなた方はとても強そうに見えます。でも、たった一人の盗賊にやられてしまった。そういうことですね?」
ゴロノフさんの表情が曇る。
「嬢ちゃん。一体何が言いたいんだ?」
「覚えていますか? あなたは最初に盗賊の話をした時、『手練れでな』と言ったんです」
「ああ。言ったな。そうだそうだ。かなりの手練れだった。俺らじゃ手も足も出なかったぜ」
「でも今し方、彼の性格を『ビビりの腰抜けだ』とも言いましたね? やられた相手に対して、そんな印象を抱くでしょうか?」
「……」
「それに、そのビビリの彼はたった一人であなた方四人の警備を出し抜き、腕輪を盗んだ。そして拷問に対しても口を割らなかった。これってあり得るのでしょうか」
「それは……奴は魔法が使えてな。強力な魔法で、俺らは一網打尽にされちまった。拷問で口を割らなかったのは、俺らにとっても予想外だった」
「どんな魔法ですか?」
「あー。あの時のことはよく覚えてねえが、確か炎の魔法だった。な。そうだっただろお前ら」
ゴロノフさんの問いかけに、男達が頷く。
「でも、彼の前職は戦士だったんですよね? 戦士の方々って、魔法が使えないから戦士なんですよね?」
「……さあな。詳しくは知らねえって言っただろう」
「ゴロノフさん。正直に言います」
私はメモする手を止めて言った。
「あなたの発言には、いくつか不自然な点があります」
「不自然な点?」
「ゴロノフさん。あなたは何故彼の名前、年齢、出身まで事細かに知っているのでしょう」
「そりゃ当然。あいつは俺らの国じゃ超有名な盗賊だからな。素性は何から何まで丸裸よ」
「だったら何故、彼の前職や使う魔法がわからなかったのでしょう。盗賊相手に国宝を守る衛兵ならば、それくらい把握していて当然ではないでしょうか」
「……」
「失礼ですが、あなた方は本当に衛兵なのでしょうか?」
「……」
「ひょっとして、彼はあなた方の仲間だったんじゃないですか?」
「限界だ」
ゴロノフさんが合図をすると、男達は一斉に隠し持っていた短剣を抜き取った。




