第7話 森へ向かう二つの影
朝のギルドは、いつもより慌ただしかった。
昨夜の襲撃を受け、受付前には冒険者たちが列を作っている。
「偵察隊の招集です。
該当者は名前を呼ばれたら二階の会議室へお願いします」
受付嬢が淡々と告げる。
呼ばれるのは、盗賊・弓師・剣士ばかり。
森での索敵に向いた職が優先されている。
ハルは受付カウンターに歩み寄った。
「俺も偵察に加えてくれ」
受付嬢は一瞬だけ目を丸くし、すぐに首を振った。
「ハルさんは治療士ですよね。
今回の偵察は、索敵に向いた職から選ばれています。
申し訳ありませんが――」
「行く必要があるんだ」
ハルは食い気味に言った。
受付嬢は困ったように眉を寄せる。
「ですが……今回は盗賊と弓師が中心でして。
治療士の方は――」
「怪我人が出たらどうする。
回復役がいないと、戻れなくなるかもしれない」
受付嬢は言葉を失った。
確かに、回復役がいないのは不安だ。
だが、偵察に治療士を入れるのは異例中の異例。
それでもハルは一歩も引かない。
「俺が行く。必要なんだ」
受付嬢が返答に困っていると――
「……何の騒ぎだ」
低い声が背後から響いた。
ギルド副長だ。
筋肉質で、無駄のない動きをする男。
冒険者たちからの信頼も厚い。
受付嬢が事情を説明すると、副長はハルを見た。
「お前、偵察に行きたいのか」
「行く。
回復役がいないと困るだろ」
副長は短く息を吐いた。
「……確かに、回復役がいないのは問題だ。
第二偵察隊にハルを加える」
受付嬢が驚いた顔をする。
「副長、本当に……?」
「必要だと思ったからだ」
ハルは静かに頷いた。
(これで……森の奥を見に行ける)
***
その頃、森の奥では。
兄ボアが巣穴の周囲を巡回していた。
昨夜突撃した仲間たちのうち、**3割**が戻ってこない。
(……3割がやられたか)
胸の奥が焼けるように痛む。
怒りと悲しみが混ざり、体が震えた。
「ブヒィ……!」
短い鳴き声に、周囲のボアたちが反応する。
不安と焦りが群れ全体に広がっていた。
(足りない……我々だけでは、人間に勝てない)
兄ボアは森の奥を見つめた。
突撃しても返り討ちに遭うだけ。
このままでは群れが壊滅する。
(どうする……どうすればいい)
怒りは消えない。
だが同時に、冷静な危機感が芽生えていた。
兄ボアは巣穴の奥へと戻っていく。
群れを守るために、何かを変えなければならない。
その先に、
自分たちの巣へ向かってくる“二つの人間の影”があることを、
まだ知らない。




