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魔獣と共に生きる  作者: 50


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第2話 草原の家族と、帰らぬ兄

草原に夕日が沈みかけ、赤い光が大地を染めていた。


巣穴の前では、三匹の子ボアが転がるように走り回っていた。

「ブヒッ! ブヒヒッ!」

じゃれ合い、転び、また立ち上がる。


母ボアはその様子を見守り、鼻先で優しく子どもを押し戻す。

父ボアは少し離れた場所で、土を掘り返して根菜を探していた。


――穏やかな、いつも通りの家族の時間。


子ボアの一匹が母ボアの背中に飛び乗る。

母ボアは驚いたふりをして、わざと大きく揺れた。

子どもたちは歓声のような鳴き声を上げる。


その光景を、少し離れた丘の上から見つめる影があった。


兄ボアだ。


兄ボアは、別の群れへ“情報交換”に行っていた。

最近、森の奥で人間の匂いが増えている。

木々が切り倒され、見慣れない道具の跡が残っている。

冒険者が森に入り込み、静けさが失われつつあった。


仲間たちと短い鳴き声を交わし合い、状況を共有する。


(……早く知らせないと)


兄ボアは草原を駆け抜け、家族のもとへ向かった。

夕日が沈み、草原が赤く染まっていく。


しかし、巣穴の前に近づいた瞬間――

兄ボアの足が止まった。


血の匂いがした。


「……ブヒ?」


巣穴の前に、母ボアが倒れていた。

その体は、もう動かない。

子ボアたちも、父ボアも、皆、冷たくなっていた。


兄ボアは震えた。

喉の奥から、声にならない鳴き声が漏れる。


「……ブヒ……ッ……ブヒィィィィィ!!」


草原に、悲痛な叫びが響いた。


兄ボアは家族の体に鼻先を押し当て、何度も、何度も揺らした。

しかし、誰も目を開けない。


涙が落ちた。

怒りが胸を焼いた。

喪失が心を引き裂いた。


そのとき――兄ボアは“異変”に気づいた。


母ボアの耳が、根元から切り取られていた。

父ボアも、子ボアたちも、全員同じように耳を失っている。


(……これは……)


ボアの耳は、冒険者が討伐証拠としてギルドに持ち帰る“素材”だ。


他の魔獣がこんな切り取り方をすることはない。


これは、明らかに――


人間の仕業。


兄ボアの瞳が怒りで赤く染まる。


「ブヒィィィィィ!!」


叫びは、悲しみと怒りと、どうしようもない孤独が混ざり合ったものだった。


しかし兄ボアは、すぐに人間の村へ向かおうとはしなかった。


(……一頭では、敵わない)


家族を失った悲しみの中でも、兄ボアは本能で理解していた。


まずは――

さきほどまで情報交換していた“別の群れ”へ向かうべきだ。


助けを求めるために。

真実を伝えるために。

そして、家族の無念を晴らすために。


兄ボアは涙を振り払うように頭を振り、草原を駆け出した。


向かう先は、仲間の群れがいる森の奥だった。


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