求愛
「これって…もしかして『餞別』とか言って斎庭の守り人に渡された物?」
「そうだ。そうなんだけど…」
「…?」
「俺、あいつに渡されたことを忘れていたんだ」
「どういうこと?」
「先日、王都で背負い袋を新調してな。中身を移そうとした時に古い背負い袋の底に在ったんだが…見付けるその瞬間までこれの存在を忘れていたんだ」
「…ちょっと貸して」
「ああ」
エンカは俺の手からブローチを取って鋭い眼光でまじまじと見た。
「これ…微かに感じる」
「なにを感じるんだ?」
「呪いに近いもの」
「呪い…?」
「ええ。呪術は怪人族のもの…魔術と違って解明されてない要素が多いから危険なのよ」
怪人族ってことは吸血鬼も含まれる筈…『ユリオン』に帰った時もし覚えてたらイヴに聞いてみるか。
「あ、これって持ってたらまずいのか?」
「どうかしら。私は隠れ里で呪われた刀剣『妖刀』を見たことがあるけど、あれに比べるとこのブローチからは禍々しさや凶悪さが殆ど抜けている感じね…むしろ……いえ、何でもない」
「そうか…」
セルビナの『紫骨』も確か妖刀だったな。弱い者が触れると正気を保てなくなる、みたいなこと言ってたけどあれも呪いが掛かってるのだろうか…?
俺は返されたブローチを掲げて太陽に当てた。
綺麗だが…やはり血のような色だな。
「それにしても凄いなエンカは。メティ達にも話して見てもらったけど解らなかったんだ」
「そ、そう。まあ鬼人族ならこれくらいは解るわよ」
エンカは照れつつも若干誇らしげにそう言った。それから俺とエンカは歩き出し、『創造士の眷属』の拠点に着いた。
「えっ…」
家屋が更に増え、まさかの鍛冶場や大きな作業台が出来上がっている…何だこれは。
「うおっ!ボス!」
「なにっ!?ボスだとっ」
「本当だボスだ!」
「みんなボスだぞーっ!」
その一声で家や離れた所から続々と仲間達が現れた。
「ミウ兄っ!」
一際声を張り上げて現れたのはマリカだった。
髪型のせいか?身体は小さいものの随分と大人っぽくなって見える…いや、確実に身体も成長しているな。顔色も良くて健康そうだ…本当に良かった。
「マリカ、久しぶり…ぐおっ」
俺の言葉を遮り、マリカは飛び付く様に抱き着いてきたので受け止めてそのまま抱きかかえた。
やはりだいぶ重くなった気がする…喜ばしいことだが「重くなったな」なんて口が裂けても言えない台詞だ。
「ミウ兄…ずっと会いたかったよ」
「ごめんな」
「ううん、こうして会えたから平気」
「髪、伸びたな」
「うん」
「大人っぽくなってて驚いたぞ」
「背も伸びたんだよ」
「そうか」
俺はギュッと抱き着くマリカの背中を安心させる様に優しく擦り続けた。取り囲む様に集まった『創造士の眷属』やエンカは黙ってそれを見ていた。
不意にマリカは胸に埋めていた顔を上げ、ニコッと笑った。
「ミウ兄、あたし綺麗になった?」
「なったよ。見違えるくらいにな」
「結婚してくれる?」
「えっ」
「んなっ…!?」
創造士の眷属達はおおーっと歓声を上げていたがエンカだけはかなりの動揺を見せていた。
「マリカ、お前はこの先色んな場所で沢山の人と出会うんだ。もしもその後でも気持ちが変わってなかったら俺は喜んで受け入れる…言ってること分かるか?」
「うんっ、わかったあ!でも今はミウ兄が一番好きっ」
そう言って再び強く抱き着いてきたマリカの長くなった髪を撫でていると、エンカが近寄ってきた。
「ゴホン、『月明かりの四牙』はレムイノに出てるそうよ」
「月明かり…?」
「ああ、エウル達のこと。彼等パーティー登録したのよ」
「そうなのか…。あれ、そういえばディオン達『英傑の血』は居ないのか」
「あいつらはEランクに昇格して旅立ちましたよ」
「キリルか」
「シスレ大草原以来ですねボス」
そう言って『創造士の眷属』のリーダーキリルは丁寧にお辞儀した。
こいつ、また一段と上品になってるな。などと考えながら見ているとキリルは頭を掻きながら笑った。
「最近は家屋の修繕や武器防具の手入れの依頼を取ってるんですよ」
「え、そうなのか」
「はい。なんでその、取引の際は身嗜みや言葉遣いに気を付けてるんです」
「お前ら、予想外の形でみるみる成長していくな」
「ボスのお陰ですよ。さ、中に入ってマリカ嬢と待っててください。『月明かりの四牙』は俺達が呼んできます」
「悪いな、よろしく頼む。エンカも入るか?」
「…」
エンカは聞こえてない様子で俺にくっついているマリカをじっと見ていた。
「エンカ?」
「へっ!?なに?」
「一緒に中で待つか?」
「え、ええ。そうね、そうするわ」
「よし。ほらマリカ、行くぞ」
「うんっ」
マリカを下ろし、手を繋いで奴等が建てた家に入ると前に来た時よりも生活に必要な家具等が増えていた。来る度に発展している…そのうち町でも作りそうな勢いだな。
そうしてマリカと喋りながら待っていると、ガチャっと扉が勢いよく開いた。
「ちょっとエルティー、ノックしなさい」
「まったくである」
「ごめんごめん〜」
「よおミウさん!」
「よう、久しぶりだな」
そんな調子でエウル、バーセア、エルティー、アギレが現れるとマリカは直ぐに立ち上がった。
「あたしは外で待ってるね」
「気遣いありがとな」
そう言うとにこりと笑って手を振りながらマリカは出ていった。




