餞別
『お母さんと同じ』と言うことは恐らく母親にも痣があったのか…どうやら遺伝性の病のようだ。
「オルレアも?」
「いえ、お姉ちゃんはお父さんに似たみたいで大丈夫なんです。…でも」
カレンは再び寂しそうな目をして唇を噛んだ。
「お父さんは家族で神国に来る途中、あたし達3人を魔物から逃がすために死んじゃいました。だからあたしとシンくんが居なくなったら…お姉ちゃんは独りになっちゃうんです」
「…」
独り…か。
「あっ、ごめんなさい!フィリパさんがせっかく来てくれたのに暗い話なんかして」
「いいえ。お話…聞けて良かったわ、ありがとう」
「そ、そうですか」
「その病気って治療法はないの?」
「元々治療の為に神国にきたんです」
「神国にしかない薬や技術があるってこと?」
「はい。詳しくは話してくれないけど、お姉ちゃんは聖騎士になって頑張って働けばお薬を貰えるから心配しなくて良いって」
「聖騎士として頑張る…」
オルレア、そういうことだったのね。
「フィリパさん?」
「あ、いや…お茶いただくわね」
「どうぞっ」
「…美味しい」
「本当ですかっ、良かったぁ」
まるでカレン…オルレアの淹れてくれたお茶みたい。
「あの…」
「ん?」
「また遊びに来てくれますか?」
カレンはカップを触りながら自信なさげにそう尋ねてきた。
…どうなのだろう、気遣いとかではなくこの子と居ると心が和らぐ。機会があればまたお邪魔したいのは本音だ。
「もちろん、また美味しいお茶淹れてくれる?」
「はいっ!喜んでっ」
驚いた、オルレアもよく言っていた台詞だ。
…きっともう言われることはないのだろうな。
ーーーーーーーーーー
『ブォモル平原』に着いた。
「あれ、結構離れてるな」
「ごめんなさい。たまにはその…2人で…」
「ん?」
「ちょ、ちょっと込み入った話があるのよっ」
「そうなのか。俺もエンカに話したいことがあるんだ」
「へっ?」
「先に話してくれ」
「いっ、いいわよ後で。先に話しなさいミウ」
「わかった。王都ベレンティカに居た時、竜人族と戦った」
「なっ…!?」
それから俺は今現在で解っていることをエンカに全て話した。
「そ、そんな。竜人族が今も存在するなんて」
「竜人って鬼人族との関わりは全くないのか?」
「以前お頭…ジュギ様に竜人族が数人で一国を滅ぼしたと聞いたわよね?」
「ああ」
「それとは別で先代に大昔の族長が竜人族の者と決闘したとされる文書を見せてもらったことがある、と仰ってたわ」
「そうだったのか」
「ええ。ミウ達が隠れ里を出た後に思い出したみたいで、もっとはっきりした情報だったら直ぐに伝令を出してたって」
「なるほどな。わざわざ伝令を出すだなんて…なんだか申し訳ないな」
「そんなことないわよっ」
「えっ」
「あ、いや…ほら、ジュギ様の厚意は受け取るべきよ。その…私達は『家族同然』でしょう」
「そうだったな、ありがとなエンカ」
「べ、別に私は…なにも……どういたしまして」
エンカはボソボソとそう言ってあ、と何か思い付いた様に口を開いた。
「そう言えばさっき知らない女の子が居たわね。桃色の髪の娘」
「ああ、アナって言うんだ。パーティーメンバーだよ」
「そう。一応聞くけど、平気よね?」
「ああ。アナは信用できる仲間だ、それにきっとメティがエンカ達鬼人族のことを説明した筈だから大丈夫だと思う、安心してくれ」
「…そう」
「ヒズエやニワビ達は元気か?」
「ええ。みんな鍛練に励んでいるわ」
「そうか」
「時折あなたに稽古つけてほしいってぼやいてるわよ」
「そうなのか?」
「そうよ。遊びに来るって言ったくせに…私だって…たまには会いたくなるんだから」
そう呟く様に言ってエンカは目を伏せた。長い睫毛から黒耀石の様な瞳が見える。
「すまないな。余裕が出来たら必ず会いに行くよ」
「そ、そう。…ちゃんと来てよ」
「ああ。約束する」
そう言って小指を立てるとエンカは目を大きくした。
「それって…」
「知ってるだろ」
俺が促すとエンカは無言で俺の小指をじっと見てから慎重に小指を結んだ。
「約束だ」
「…うん」
エンカは俯きながらも真剣な眼差しで結んだ指を見ていた。
「…」
「…」
「エンカ?」
「へっ?…ああっ」
エンカは慌てた様子で指を解いた。あんなに長い…えっと…あれ、この約束事で指を結ぶ行為なんて言うんだっけか。まあいい、兎に角長くて力強かったな。それにしてもカリンやウズミ、集落の人にも会いたいな…落ち着いたら必ず遊びに行こう。
「そう言えばジュギのこと名前で呼ぶようになったのか?」
「ええ。あなたの影響よ」
「そうか」
「ヒズエなんてジュギちゃんって呼んでるわ」
「そうなのか?でも元々ジュギちゃんって口にしてたよな」
「そうね。あの二人は幼馴染みなのよ」
「示しが付かないから無理矢理呼び方を変えてたってことか」
「察しが良いわね。そういうことよ」
「なるほどな…。そう言えばエンカは『鬼神の斎庭』の『守り人』の話、詳しく聞いてるか?」
「ヒズエに聞いたわよ。どうして?」
「これなんだけど」
俺はポケットから赤黒い小ぶりの結晶のブローチを取り出してエンカに見せた。




