第四十四話 実地検証
九万四千六百二十三円。
事務所からの給与は、翌日の朝一番に振り込まれる。
にもかかわらず、銀行のATMの画面に表示されている残高は昨日と同じだった。
ということは、やはり害虫駆除分はゼロ。
かすかな希望を持っていただけに、落胆せざるを得ない。
だが、これで何日かはしのげるだろう。
でも、そのあとは………?
とりあえず全額を出金したノボルは、そこから先のことは考えないようにして通りへ出た。
すると、行き交う人たちの中に、落ち着かない様子の五人ほどの男女を見つけた。
ノボルはウエストポーチからゴーグルメガネを取り出すと、黒縁メガネとかけ替えた。
今日の目的は“実地検証”だったので、折りよくその機会がやってきたようだった。
早速、ノボルが全員の頭と胸に何もないことを確認すると、五人の中のひまわりの髪飾りをつけた女性が何かを見つけたように銀行の裏手側に向かった。
ノボルも他の人たちに続いてあとを追いかけてみると、建物の陰に複数の学生たちがいた。
みんな揃いの制服を着ていたので同じ高校の同級生のようだったが、数人で一人を取り囲んでいた。
しかも長髪のリーダー格が、輪の中にいる気の弱そうな男子生徒の財布から中身を抜き取っていた。
それを見ていた仲間たちがニヤニヤ笑っている。
と、お金を巻き上げられた男子生徒以外の胸に黒く光る球体が浮かび上がり、ほどなくすると空に漂って消えていく。
そんなことなど知る由もないままに、リーダー格が仲間たちを引き連れて去って行こうとしたところへ五人が駆け寄った。
それから全員が必死に諭すように生徒たちに何事かを訴え始める。
やがてリーダー格がポケットからお金を出してひまわりの髪飾りの女性に手渡すと、薄気味悪がって逃げていった。
そしてその直後、助けに入った五人の頭には円環が現れ、胸に浮かび上がった白い球体が空に吸い込まれるように消えていった。
ノボルはひまわりの髪飾りの女性がお金を男子生徒に返すのを見届けると、また黒縁メガネにかけ替えて楠川駅に向かった。
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