第四十三話 剣と灯火③
「一つ聞いてもいいか? お前は何でそんなにアゲハのことに関心があるんだ?」
その唐突な問いに、ミサコは一瞬、考えるような素振りを見せてから返答した。
「昔、私の親しかった知人の一人に、アゲハのようなことができる人がいたからです………」
「それは、つまり、予言ができたっていうことか?」
「はい、その人にも未来が視えました。そして、その能力を隠しつつ、ひそかに陰ながら人を助けていました。先のことが分かれば、対処できることもあるからです。でも、どこからどう伝わったのか、知らない間に噂が広がり、その人の元へ毎日のように訪問者が訪ねて来ていたそうです。そんな時は、相手の背後にいる霊的な守護者に聞き、許可がでれば本人に話していたらしいのですが、お礼は一切受け取りませんでした。それがルールだって言っていました。私にはその意味はよく分かりませんでしたが、頑ななまでに無報酬を貫くその姿が今でも忘れることができません。だから私は、その人を尊敬していました………」
「そうなのか………」
岡倉は、話の内容もさることながら、珍しく静かに真面目なことを語るミサコの様子のほうが印象に残った。
「世の中には、なかなか表には出てこないが、特殊な能力を持っている人が本当にいるものなんだな………」
さらに、そう言いつつも、ミサコが過去形で話すことも気になった。
「その人は、今、どこで何をしているんだ?」
ところが、その質問を聞くと、ミサコの顔が曇った。
「もう亡くなりました、刑務所の中で………」
「刑務所………? 何でそんなところに………?」
「自分の望まない未来を受け入れられない人もいるんです、地位や我欲やプライドの高い人は特に。だからある時、大物政治家から強引に頼み込まれて視たことがあったのですが、その結果がとても不満だったようで、犯罪者に仕立て上げられてしまったんです。世を乱す危険な能力を持った悪質な詐欺師というふうに………でも、その人は、誰も恨んでいませんでした。純粋に善意でしたことが仇で返されたとしても、良かれと思ったことは為し続ける。そして、大きな視点で見れば、本当は幸も不幸もない。全ては縁によって起き、ただ流れているだけ………それが、その人がよく言っていた言葉なんです………」
「そうか………」
岡倉は、静かどころではなく、やけにしんみりとしてしまったミサコを見て、逆に戸惑ってしまった。
マズイことを聞いてしまったのか………?
が、そう思った矢先、突然、ミサコの顔がパッといつもの明るさを取り戻した。
「だから私は伝えたいんです、アゲハの言葉を! 真実を! このがんじがらめの世界からみんなを解放するために! 勇敢な女性新聞記者のように、どんなことにも突き進みながら! もちろん、亡くなった岡さんの奥さんの分まで!」
「………」
一気にそう言ってのけたミサコの言葉を一旦受け止める岡倉。
そのあとで、やや硬い口調で返した。
「気持ちは分からなくもないが、直進だけでは、いつか壁にぶつかる可能性がある。状況によっては、迂回しなければならないことだってなきにしもあらずだ。あるいは、前に進むのか、じっと立ち止まって待つのか、後ろに引き返すのか、見極めが肝心な時も………」
やっぱり、ちょっと寝ぼけているのかしら………?
ミサコは、岡倉にしてはまた意味深でネガティブなことを語ったことがどうにも気にかかった。
「心配無用です! 私はいつだって前しか見ていません! サイのように前進あるのみです!」
だから、その徹夜疲れの眠気を吹き飛ばさんばかりの勢いでそう言い放つと、ババっと部屋を出て行った。
「ミサコのやつ、俺の話をまったく聞いていないな………」
一人になった岡倉は、そう呟いてから椅子に座り直した。
何だか今のやり取りで急に疲れが出てきたように感じられた。
それでも、一度ゆっくりと息を吐くと、複雑な想いを込めた目でフォトケースの写真をしばし眺めた。
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